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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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4話

 

 戦闘が終わると、皆が地に座り込む。魔物の気配はもうなくなっていた。これで暫くは魔物も近くに出没することはないはずだ。

 ふと、ルークが立ち上がって歩き出す。その目的地は、瘴気の発生源。濃い緑色をした場所で立ち止まったルークは、懐から小瓶を取り出すと、中の液体を振り掛けた。


「あれは、霊水ですね」

「あぁ。水に高密度のマナを注いだもの。瘴気の発生を抑える効果を持つが、その理由はまだわかっていない」


 魔物の討伐後の儀式でもある。この役目は部隊の長が行うのが常だ。霊水自体が貴重な物で扱いにも気を遣うがゆえに、その責任者が持つことになっている。

 市場には勿論出回らないし、普通に暮らしていれば目にすることはない代物だ。領地を持つ貴族家当主でさえも手に入れることは難しいが、ベルフィアス公爵家に仕え領地での調査に随行していたのなら、見たことがあっても不思議ではない。


「私も知識として聞いた程度です……しかし、アルヴィス様なら理由が解るのではありませんか?」

「エド……」


 エドワルドの質問は尤もなものだ。しかし、アルヴィスは研究者ではない。過去の研究員らが解明出来ていないものを、数ヶ月前まで近衛隊に所属していたアルヴィスが手に入れることは出来ない。アルヴィスの能力を知っているエドワルドならば、疑問にも思うだろう。アルヴィスは困ったように笑う。


「俺も霊水に触れたことはない。近衛が、他人の領分にまで手を出すことは出来ないからな」

「そうですか……」


 納得したようには見えないエドワルドだが、それ以上追及するつもりはなさそうだった。アルヴィスが話したのは、あくまで立場上出来なかったと言うだけのもので、理解できなかったという訳ではない。

 霊水は、マナを注いだもの。マナがあるということは、そこに情報が入っていることに他ならない。どういう構成で、何の効果により瘴気が抑えられているのか。知る術がアルヴィスにはある。

 何故、それをしないのか。実際、アルヴィスも興味を持たない訳ではなかった。しかし、当時のアルヴィスの立場では霊水に触れる権利がない。触れることもない霊水よりも、戦闘技術を磨く方が優先となるのは当たり前だろう。加えて、理由を知る必要があるとも思わなかった。近衛隊の隊長や側近にでもならない限りは、近くで見ることも出来ないのだからと。領分を超えて研究員への印象を悪くしてまで、手を出すことに意味を感じてもいなかった。

 だが、今の王太子という立場ならばいくらでも調べることが出来る。以前とは違い、国に対して責任ある立場だ。瘴気についても新しい情報が得られるかもしれないのなら、調べる価値はある。


(……戻ったら、視てみるか)


 霊水は、国王にでも願い出れば手に入る。仕事は立て込んでいるので、それほど調べるために時間を割くことは出来ないが、霊水の調査は急ぎではない。

 脳裏に戻ってからの予定を考えていると、ルークが戻ってきていた。


「ここでの作業は終了だ。もう一ヶ所に向かう」

「わかりました」

「アルヴィス」

「? はい」

「今回はやけに数が多かった。次も同じようなことになっている可能性はある。保険を掛けておきたい」


 真面目な顔をして話すルークは、いつになく真剣だ。それほどの異常が見られたということなのだろう。アルヴィスは、近衛として参加したのは数回程度。その程度の回数だ。ならば、ルークの判断を支持する。

 ルークが敢えてアルヴィスの名を呼んだ。そこに含まれる意図がわからないアルヴィスではない。


「周囲のみ、で構いませんか?」

「あぁ。あくまで保険だ。戦闘をさせるつもりはない」

「……わかりました」


 ルークがアルヴィスに頼んだのは、警戒網を張ることだ。近衛隊にいた時、よく行っていたことだった。マナ操作については、隊の誰よりも優れていたアルヴィス。体内のマナを操作し範囲を広げることで、マナが及ぶ範囲の異変を察知することが出来るのだ。だが、これは集中力が必要なため、他が疎かになる。


「隊列を狭める。何かあったら直ぐに解いて構わない」

「はい」

「すまん」

「隊長……いえ、俺も手持ちぶさたですし。何もしないよりは、気が楽です」


 これは本音だ。先の戦闘で、怪我をする元同僚たちを前に、動かずにいるのは精神的に辛かった。そのための訓練なのだとは理解しているが、剣を握って走り出したい衝動は簡単には治らないものらしい。

 アルヴィスの表情からルークは苦悩を読み取ったのか、肩に手をポンと置いた。


「冷静に戦闘を見ていることほど辛いものはないよな。戦う力があるのなら尚更だ。だが、その衝動は抑えないとならん。万が一の時は、お前が最後の砦でもある」

「……それは、考えたくないことですね」

「その為に訓練をしている。それに……リトアード公爵令嬢には戦う力はない。自分の妃は自分で守りたいだろ?」

「それはそうですが」


 家族を守るのは己でありたいというのは、騎士として当然の考えだ。ルークの問いに、アルヴィスは迷うことなく答えた。


「こういう時は即答するんだな、お前は」

「誰であっても同じ答えを言いますよ。ほら、ハーヴィ副隊長が睨んでます。行きましょう」

「わかったわかった。おらっ、行くぞ!」


 手を大きく振り上げるように掲げて大声で叫ぶルークに、隊列は再び歩き始めた。






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