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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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3話

 一時間ほど経過した所で、隊列は警戒を増した。近くに魔物が現れたからだ。遠征に向かう時、必ず先遣隊を出すことが決まりとなっている。今回も同じだ。その先遣隊から報告が上がったのである。

 アルヴィスの傍には護衛としてレックスとディンが配置された。エドワルドもアルヴィスの前を守るように位置取る。


「アルヴィス様」

「わかっている。手出しはしない」


 遠征でのアルヴィスの役目は、守られること。戦闘を行うなとまでは言われていないが、近衛の手が回らない場合のみに許される行為である。近衛隊の実力は国内でも随一。所属していた部署なのだから、アルヴィスもよく理解していることだ。

 近衛隊でも前衛を任されていたアルヴィスに、今の位置は違和感を与える。しかし、利点もあった。


「こういう連携を見たのは久しぶりだな……」

「アルヴィス様?」

「俺はいつも前に出ていた。だから、他の先輩たちの戦闘を見るのは訓練の時くらいだったから」


 連携も何も考えずに先を行くのが、当時のアルヴィスらの役割で、フォローするのが先輩らの仕事だった。じっくりその戦い振りを観察する暇はなかったのだ。所属期間が短かったせいもある。しかし、本格的な戦闘となる前から陣形や作戦を考えている近衛隊士の様子は新鮮だった。


「アルヴィス様も、学園では部隊の指揮をされていたのではありませんか?」

「たかが学生の部隊だ。プライドの高い貴族子息らを引き連れていれば、指揮するより自分で片付けた方が速い」

「つまりは、ご自分が動かれたと?」

「そういうことだ。足手まとい以外の何物でもなかったからな」


 学園の中にもアルヴィスと同じように、武器を扱える学生はいる。貴族子息にとって、剣を扱うのは嗜みの一つでもあるので触れたことが無いという者はいないのだが、剣の実力以上に面倒なのはそのプライドだ。逃げ腰の方がまだいい。我先にと利を得ようとする学生や、アルヴィスへのアピールをする学生。爵位を盾に位置取りを決めようとする者など、キリがなかった。だから学生間で部隊を組む場面では、アルヴィスが長となり指揮をすることが常だった。

 アルヴィスよりも高位の貴族子息はいない。体よく押し付けられたと言っても間違いではないはずだ。


「剣の腕があっても、我を出しすぎれば連携も何もない。魔物の前に出ても死ぬだけの烏合の衆だ」

「それは何と言いますか……」

「そもそも学園での演習で、魔物に遭遇することは少ないし、遭遇しても大した魔物ではないから、先走っても大きな問題にはならない」


 もっと言えば、問題にされないように意図的にそういう場所を選んでいたのだろう。それも高位貴族子息が所属する部隊のみ。アルヴィスからすれば、要らない気遣いだった。


「高位貴族も大変なのですね……」

「ディン?」

「我々は殿下方の時ほど、過保護ではありませんでしたので」

「過保護……そうかもしれないな」


 ディンらが学生の時と、アルヴィスの時ではやり方が異なっているのは、不思議な事ではない。アルヴィスは気遣いと称したが、ディンは過保護だと指摘した。学園の教師らが、貴族子息令嬢に対して気を遣いすぎなのかもしれない。傷をひとつでも付ければ批判されるが、かといって全てをお膳立てすることは為にならない。程度の調整は、難しいところだ。


「恐らく、ジラルドらもそうだったのかもしれないな」

「アルヴィス、何がだ?」

「ジラルドに対して……否、ジラルドだけじゃない。それ以外もそうだが……教師側が指摘することが出来なかったのかもしれないなと思ったんだ。過去に、侯爵家の子どもに処罰された教師もいるらしいからな」


 子どもの言うことを真に受けて、爵位や権力を盾に人を陥れることをする人間はいる。加えて、教師になる人物は平民か爵位を継げない次男三男以下の貴族子息が多い。それも下級貴族に。学園長には代々王族の縁者がなっているが、それでも全てを取り締まることは出来ていない。


「話をしているところ悪いが、ポイントに到着だ。気を引き締めろ」

「た、隊長!」

「……申し訳ありません」


 いつの間にか前にいた筈のルークが戻ってきていた。途中までは戦闘の話だったが、いつの間にか学園の話題に切り替わっている。無駄話をしていたと思われても無理はない。レックスとディンは、声をかけられ背筋を伸ばす。


「ったく、余裕だな」

「戦闘開始ですね。すみません」

「相変わらず、察しがいい。そうだ。ここまで来ることはないだろうが、緊張感が無いのは困る」

「アルヴィス様、どういうことですか?」


 状況がわかっていないのはエドワルドだけだった。それもそのはず。ここにいるメンバーで、近衛隊に関係ないのはエドワルドだけだ。

 今回の遠征は、毎年行っている近衛隊の訓練行事のひとつ。近衛隊にとっては、慣れた場所である。アルヴィスも昨年、経験済みだ。


「国内にも瘴気が溢れる場所があるのは知っているな?」

「勿論です。公爵領でも何度か調査をしましたから」

「王都に最も近い瘴気発生地がここだ。そして、瘴気には魔物を惹き付ける力がある」


 瘴気がどういったモノなのかという解明は出来ていない。しかし、一定の周期で溢れ出すことだけはわかっている。だからこうして、定期的に対処しているのだ。近衛隊が王都近郊にて行っているのは、隊を長期間王都から引き離さない為である。長期間、近衛隊が王都から離れれば、それだけ王族の守りが薄くなるからだ。遠隔地には、騎士団や各領地が責任を以て行うことになっていた。


「まだ瘴気発生地には距離があるが、先遣が魔物を発見した。隊列は陣形を組んでいる。ここで逃すことのないように囲いを作っているんだ。ただ……」

「ただ?」

「今回は、数が多い気がする」


 アルヴィスは眉を寄せた。建国祭が控えていることもあり、取り逃がしは出来ない。視界の先では、魔物との戦闘を開始している隊士らの姿を捉えることが出来ていた。魔物との距離を縮めることは出来ない。アルヴィスへのミッションは、手を出さないことなのだから。それでも無意識に、左手は剣の柄を握っていた。


「アルヴィス、耐えろ」

「……では隊長は行って下さい。嫌な予感がします」

「俺の勘も同じだ。……ディン、お前も来い。レックスはアルヴィスの傍を離れるな」

「はっ」

「はいっ!」


 一気に緊張感がはね上がる。悠長に近衛隊の戦い振りを観察するような雰囲気ではなくなった。それでも、アルヴィスに出来るのは見ていることだけ。安全な場所で、見ていることだけしか出来ない。


「想像以上に、キツイな。見ているだけというのは」

「ですが、それが貴方の仕事です。これから何があっても、進んで戦うことは出来ないのですから」

「あぁ。わかっている。わかっているさ……」


 繰り広げられている戦い。剣を交わす元同僚たち。飛び出したくなる衝動を、アルヴィスは必死に抑えていた。



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