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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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第三章 建国祭 1話

本当は22時に投稿する予定でしたが、間に合わいませんでした。

明日でも・・・と思いましたが、今日投稿してしまいます。

今回から新章です。再びシリアスな内容になっていきます。

宜しくお願いします。

 

 ある日、アルヴィスの姿は執務室にあった。

 多くの書類に忙殺される日々、優先的に処理するのは建国祭関連の仕事だ。来賓を迎えるための準備に関わるものが多いが、その中で面倒なのが各来賓らが同行させる護衛や侍女たちの把握である。ルベリア国内で行われるため、警備については騎士団と近衛隊が主導で行うことになっているが、来賓たちは揃って各国の重鎮だ。王こそこないものの、その息子や娘だったり側近が訪れる。その護衛ともなれば、全てを他国に任せることはしない。自国からも優秀な護衛たちを引き連れてくるのが普通だ。侍女も同じ。信頼の置ける侍女たちを連れてくることを、ルベリアも拒否することはない。

 問題は、連れてくること自体ではなく、侍女や護衛たちの人数や配置についてだった。ルベリアとしては、来賓が女性であれば侍女と護衛が多くなっても仕方がないと考えている。しかし、国同士のパワーバランスにも関わるため、それだけで多人数の受け入れを許可するわけにはいかなかった。

 厳しい顔をしながら書類とにらめっこをしているアルヴィスの目の前に、静かにカップが置かれる。


「少し休憩なさってはいかがですか?」

「ジュリンナ」


 顔を上げればそこには心配そうな目を向けているジュリンナがいた。ジュリンナはアルヴィス付きの侍女の一人として、最近では執務室での給仕は彼女がすることが多い。侍女の中でも口数が少ないジュリンナは、アルヴィスもそれほど話をしたことがあるわけではなかった。こうして執務室で会うことになってから、漸くまともに話をしたくらいだ。

 あまり表情を変えないジュリンナだが、その瞳が表情の代わりをしていることに気が付いたのも最近のことである。


「最近、殿下は執務室に詰めていらっしゃることが多いです。根を詰め過ぎて、お体を壊しては元も子もありません」

「……そう、だな」


 エドワルドはアルヴィスからの用事で席を外しているため、執務室にいるのはアルヴィスとジュリンナの二人だけだった。この場にエドワルドがいたならば、ジュリンナの様に言葉で諫めることはしなかっただろう。無理やり書類を取り上げるくらいはするはずだ。

 手に持っていた書類を机の上に置くと、アルヴィスはカップに手を伸ばす。フルーティーな香りを感じながら、喉を潤した。思っていたよりも、水分を欲していたようだ。あっという間に飲み干してしまったカップを置くと、再び紅茶が注がれる。


「どうぞ」

「ありがとう」


 注がれたカップを再び手に取り、一口飲む。今度は飲み干すのではなく、そのまま机に置いた。

 そこへガチャリと扉が開かれる。


「失礼します。只今戻りました」

「エド」


 タイミングよくエドワルドが部屋に戻ってきたのだ。その手には、束になった書類がある。


「必要なものは宰相閣下が厳選してくださいましたので、それほど時間はかかりませんでした。確認をお願いします」

「わかった」


 書類の束を受け取ると、まずは簡単に目を通していく。アルヴィスがエドワルドに頼んだのは、建国祭に招く国についての最新の資料だ。それは全て、ジラルドがここ一年で学ぶべき内容だったものである。

 アルヴィスとて、公爵子息の一人。建国祭で招かれる国々についての知識はある。しかし、王太子として必要な知識と貴族として必要な知識は違うものだ。その埋め合わせをしなければならない。

 国内が最優先だったので後回しにされていたため、このタイミングになってしまった。本来ならば、疾うに知っているはずの知識。焦ることもないのだろうが、如何せんアルヴィスが王太子となってからまだ一年も経っていない。だが、それを理由にして知らないでは済まされないことだ。

 しっかりと目を通すのは後でいい。流すように確認するアルヴィス。資料を頭に入れるのに必要な時間を計算すると、アルヴィスは顔を上げてエドワルドを見た。


「問題はなさそうだ。助かった」

「いえ……宰相閣下が、後手に回って申し訳ないと仰っていました」

「宰相も忙しい。仕方ないさ」

「あと、スーベニア聖国について言伝てを頂きました」

「言伝て?」


 スーベニア聖国とは、ルベリア王国がある大陸の最北に位置する国である。代々、君主は女性しかなれないという珍しい国だ。更にスーベニア聖国は女神信仰が強く、女神には深く心酔しているらしい。ルベリアで信仰されている女神ルシオラも例外ではない。

 この時点で、アルヴィスは嫌な予感がしていた。隠している痣を無意識に触る。


「今回、スーベニア聖国から参加希望が出ているそうです」

「あちらからの希望、か……」

「はい……その」

「目的は、俺、だろうな……」


 言われずとも理解する。ここ最近、スーベニア聖国がルベリアの建国祭に参加したことはない。正確には、他の国に対しても積極的に祭事に参加することはなかった。アルヴィスが生まれてからは、全くなかったはずだ。

 ただでさえ多くの国の重鎮が集まる行事。スーベニア聖国からの参加など、更に神経を使わなければならなくなるだろう。祭事ということから、国王が断ることはない。ルベリアからしても、スーベニア聖国の参加はメリットしかないのだから。



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