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閑話 大好きなお兄様

 

 後宮の一室で、ぬいぐるみを抱きながらキアラは空を見上げていた。雲一つない天気はキアラの心を映しているようだ。

 先日、謝罪と共に従兄であるアルヴィスから手紙が届いた。パーティー翌日のお詫びと面会の約束をしたいと。その約束の日が今日なのだ。

 気が高ぶっていたのか、いつもより早く目が覚めて侍女たちにも笑われてしまったキアラだが、それだけ今日という日を心待ちにしていた。


「あと一時間かぁ……」


 キアラはこのルベリア王国の第2王女。母は側妃。姉も同じ母であり、異母兄だけが正妃腹だ。異母兄は唯一の王子として、キアラが物心付いた頃には既に遠い存在だった。顔を合わせるのは、年に数回程度。父よりも会う機会は少なかったように思える。王太子という重要な地位を預かる故に仕方のないことだと諭されていたが、寂しさを感じていたのは事実だ。

 そんなキアラの兄の代わりとも言えるのが、アルヴィスだった。リティーヌの幼馴染でもあった従兄(あに)は、学園に入学するまでは時折城を訪れてくれていて、キアラも二人がお茶会をする時などは同席させてもらうこともあった。常に優しく微笑んでいて、黙ってキアラの話を聞いてくれるアルヴィスは、正に理想の兄だった。

 アルヴィスが学園在学時は、王都にいるのにも関わらず中々城へ来ることもなくなった。会うのはキアラの誕生日くらいだ。卒業後に騎士団に所属すると聞いた時は喜んだが、一騎士という立場になり誕生日さえも会うことが叶わなくなる有り様。近衛隊に異動したらしたで、会う機会が増えてもその態度は王女に対するもの。従兄として接してくれることはなくなった。悲しくて泣き出したキアラを困ったように笑っていたアルヴィスは、それでも態度を崩すことはなく、王女として命令をするならば致し方ないとまで告げられてしまった。命令をした時点で、そこにある関係は従兄妹のものではない。如何に幼くとも、キアラにもわかることだ。だから、キアラは諦めるしかなかった。

 転機となったのは、異母兄の不始末。詳細はキアラにはわからない。リティーヌが憤慨していたことから、異母兄が悪いのだろうと漠然と考えていただけで。いずれにしても、関係が薄かった異母兄がどうなろうと、キアラは意に介すことはない。城から出ていったとしても、異母兄との関係が変わることはないのだから。関わりたいと望んだのは昔のことで、今さらどうでもよかったというのが本音でもある。

 王女であるため、王位継承権から外れているのだが、王位を全く気にしないわけではない。異母兄以外が次期王になると聞き、直ぐに浮かんだのは叔父だ。順当に行けばベルフィアス公爵家が王位を引き継ぐことになるのだろう。となれば、王女であるキアラはベルフィアス公爵家に嫁がされるのか、それとも別の貴族に降嫁するのか。どちらにしても想像よりも早いうちに城を出ていくことになるのかもしれない。そんなことを考えていたときだった。キアラの耳に朗報が飛び込んできたのは。

 王太子となるのは、ベルフィアス公爵家のアルヴィス。継承権の上位にいる二人は継承権を放棄して、第一位になったアルヴィスが次期王になるのだと聞かされた。飛び上がって喜んだキアラだが、アルヴィスは立太子すると同時に婚約もすると聞かされ喜びは半減する。それでも、城に居住をすることになれば、これまで以上に会うことが出来るのだ。キアラにとっては嬉しい知らせに違いない。

 既に同じ城内にいるのだが、アルヴィスと会うことが出来たのは結局一月以上が経過してからとなった。王太子であり従兄であっても、アルヴィスは実の兄ではない。後宮に自由に来ることができないため、時間を作って伺いを立てる等の諸々の手続きが必須だ。煩わしいと思っていても、それは王の娘として生まれた定めなのだから従わなければならない。

 誕生日の翌日もその手続きの下、面会時間を設けたのだが……アルヴィスが現れることはなかった。急用が出来たらしい。キアラへの言伝てをする暇さえない程の用事ならば、納得もする。そこまで非常識ではないつもりだ。母からも、アルヴィスを責めてはいけないときつく言われていた。


「言われなくても、アルお兄様を責めるつもりなんてないのに。わたしは、そんなに我が儘に見えるの?」

「そんなことはございません。ご側室様も分かっておられますよ。ですが、アルヴィス殿下はとてもお忙しいお方ですから……」

「あまり引き留めてはいけないと言うのでしょう? ちゃあんとわかってるわよ」


 わかってる。それでもどこか拗ねたような言い方をしてしまったのは、母や侍女らが我が儘ばかりをアルヴィスに言っている様に言うからだ。今も目の前の侍女は、口許が笑っている。面白くないと感じても仕方ないだろう。

 そうしていると、コンコンと扉が叩かれる。部屋にいた侍女が扉を開けると、近衛隊の女性が現れた。


「失礼致します。アルヴィス殿下が執務室を出られたと報告がありました。王女でん――」

「今行く!」

「……はい、かしこまりました」


 最後まで言い切らせずにキアラが言葉を重ねる。直ぐ様ケープを羽織ると足早に部屋を出ていってしまう。


「キアラ様っ! お待ち下さいっ!」

「アルお兄様をお待たせするわけにはいかないでしょ! はやくはやくっ」


 廊下から響き渡る声に、知らせに来た近衛隊士と部屋に残っていた侍女らが顔を見合わせて笑い合った。




ギリギリ間に合いました。

今年最後の投稿になります。

来年も、どうか宜しくお願いします!

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