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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第三部

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6話

暫くエリナとは離れ離れになります……


 時間というものはあっという間に過ぎゆくもの。身に染みてわかっているものの、この日を迎えるにあたっては、その過ぎゆく時間がもどかしいとも思ってしまう。とうとう来てしまったと、そう思わずにいられないほどに。


「ではミント様、どうかルトをよろしくお願いいたします」

「お任せくださいませ。どうか王妃殿下もお気をつけて」

「はい」


 エリナが不在となる間、乳母の代わりとしてミントが後宮に勤めてくれる。息子であるリングと共に、暫くの間は後宮で過ごすことになっていた。


「アルヴィス様……それでは行ってまいります」

「……あまり無理をしないようにな」

「それは私の台詞ですよ。ちゃんと食事も睡眠もとってくださいね。イースラやナリスさんからのお小言もちゃんと聞いてください」

「あぁ、わかった」


 幼馴染(イースラ)乳母(ナリス)を出しつつ、アルヴィスのことを案じるエリナ。これからエリナが向かうのは見知った場所ではない。他国だ。それでもエリナはそんな不安を微塵も見せていなかった。そんなエリナに近づくとアルヴィスは肩に触れてそっと抱き寄せる。


「ア、アルヴィス様⁉」

「エリナ、レンティアース嬢の言葉は真意を吐いているかもしれない。だが、それが全てでもない」

「え?」

「彼女の言葉すべてをそのまま受け取る必要はない。彼女が俺のことに対して何かを告げても、()()()()()だから」


 エリナだけに聞こえるようにとアルヴィスは囁いた。スーベニア聖国へ向かうのは必要な情報を得るためだ。ただ漠然とではあるが、レンティアースはエリナにどこまで話すつもりなのだろうかという不安がアルヴィスにはあった。それを知った時から、今の今まで()()()()()()()がアルヴィスにはある。それを伝えるつもりなのではないかと。伝えたところで結果は変わらない。だからアルヴィスは伝える必要はないものだと割り切っている。だがレンティアースがそう考えているとは限らない。

 アルヴィスの言葉にエリナは顔を上げると、怪訝そうな顔をしていた。


「アルヴィス様、それは一体――」

「それだけは忘れないでくれ」


 その先の言葉を遮るようにアルヴィスはエリナから離れた。どれだけ効力があるかはわからないが、アルヴィスのことに関しては問題はないのだと。不安になる必要はないと告げる。


「アムール、アービーも。エリナを頼む」

「はっ」

「お任せください、陛下」


 ミューゼ、そしてフィラリータがアルヴィスへ向き直ると胸に右手を添えるようにして頭を下げた。他にも護衛騎士はいる。だがこの二人が最も信頼できる騎士だ。一通りの確認を終えて、エリナが馬車へと乗り込んだ。


「ハーバラ嬢も、気を付けてくれ。何かあった時は頼りにしている」

「お任せくださいませ、陛下。緊急の場合は例の方法で連絡をいたしますわ」

「あぁ、わかった」


 挨拶を終えて、エリナに続くようにしてハーバラが馬車へと乗り込む。ハーバラはエリナの補佐という形で旅に同行する。緊急連絡の場合の手段は、ランセル侯爵家が持つ情報伝達手段のこと。今回は例外としてエリナにも影をつけているが、連絡手段は複数あった方がいい。万が一の時のために。マラーナの時のような危機的な状況ではないため、不用意な事態というのはそうそう起きないとは思うが手は打っておくべきだ。


 馬車が動きだし、王城の門へと出ていくのを見送る。エリナの顔が馬車の窓から出て、こちらを見ているのがわかった。アルヴィスは手を挙げてそれに応える。それに対しエリナは頷きを返すと、その身を馬車内へとひっこめた。


「見送る側というのは初めてかもしれないな」

「そうですね、いつだって見送られる側でしたから」


 これからエリナたちはリュングベルへと向かう。その先は船旅だ。初めて船に乗るらしいエリナにとっても良い経験になってくれる。あとは何事もなくスーベニア聖国に到着するのを祈ることしかアルヴィスに出来ることはない。

 王城の門が閉じるのを確認し、アルヴィスはエドワルドらと共に王城内へと踵を返した。


「陛下、私はルトヴィス様の下に向かいます」

「お願いします、義姉上」

「はい」


 後宮へ向かうミントと別れ、その足で執務室へと入る。机の上にある書類は今朝のうちに文官たちから受け取ったものだ。その中の一つ、公国からの書簡をアルヴィスは手に取った。


「こっちも急だったな」

「はい。明後日には公国を出立するということですから、そちらの準備を急がなければなりません」

「わかっている」


 エリナが旅立ってもアルヴィスはゆっくりとその無事を祈る時間はない。公国の動きは早く、公女の保護をする旨を伝えた後、直ぐにでも公女を向かわせると朝早くに連絡が来たのだ。それだけ切迫している状況なのかもしれない。


「王都の警戒を暫くは強める。近衛、騎士団の巡回も増やさないとな」

「ではハーヴィー殿を呼びますか?」

「あぁ。ヘクター団長と共に執務室に来るように伝えて欲しい」

「承知しました」


 既に騎士団との調整の予定はあったが、こうなっては近衛隊も動かすことになりそうだ。瘴気の件についても、今一度国内の状況を確認しておきたい。


「……ん?」

「どうかされましたか?」

「いや、これは今朝の時点ではなかった書簡だなと思ったんだが」


 執務室を出るところだったエドワルドも、アルヴィスの声を聞いて足を止め振り返った。アルヴィスはその見覚えのない書簡を手に取る。


「グレイズ殿、か? わざわざ書簡で俺に?」

「ザーナ帝国の皇太子殿下ですか」

「あぁ」


 手紙のやりとりはしているが、書簡という形で送ってくるのは初めてだ。そこに緊急性を感じてアルヴィスは書簡を開く。そこに書かれていたのは……。


「……」

「アルヴィス様?」

「どうやらグレイズ殿もテルミナ嬢を連れて、スーベニア聖国へ行くらしい」

「え?」


 グレイズからの書簡。それにはレンティアースからの招きにより、テルミナがスーベニア聖国へ向かうという旨が書かれていた。



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