5話
悩みながら描きました。
エリナの方が強くなってますかね(;^ω^)
ルトヴィスが生まれてから、エリナは強いですね。母は強し!!
翌々日の夜、アルヴィスは王妃としての執務をしているエリナの下へと足を運んだ。エリナが執務をする場所は後宮の中に用意されている。ちょうどエリナは大きな机の前に立ち、書類整理をしているところだった。
「ウェーバー公国の公女様がですか?」
「あぁ」
「……」
キリアスに調査してもらった内容を踏まえて、エリナにもその旨を伝える。ルベリア王国での保護を求めているかの公女のことを。
かの公女は年の頃はラナリスと同じ年で、今年十八歳になるという。正式な婚約者はいないものの、その候補はいるらしい。ただその婚約というのが半年ほど前に白紙とされているから、現段階で婚約者がいないと言う状況だった。今も候補として残っているということから、何かしらの意図があったと考えられる。
「瘴気の影響が大きくなりだしたのはマラーナの件があった以降だ。そして婚約が白紙となった時期もおそらくその頃。断定はできないにしても、理由の一つとしては考えられる」
「もしかすると、国葬での問題が影響していることも……?」
「……関係があるのはあくまで公王の弟君だ。とはいえ公王は生真面目な方らしいからな。全くないとは言い切れない」
まだ公王が公子だった頃、遊学と称してルベリア王国に来た頃がある。その頃、アルヴィスの父であるラクウェルや先代のギルベルトとも交流があった。アルヴィス自身はまだ会ったことはないけれど、ラクウェル曰く責任感が強い頑固者ということだった。マラーナのことも、心を痛めていることだろうと。
責任感が強い公王だからこそ、己の一族に何かしらの責任を負わせることは可能性として考えられる。もしかするとそれが、公女の婚約白紙と今回のルベリア王国へ向かわせる理由なのかもしれない。
「公王陛下は、公女様をアルヴィス様のお傍に。万が一の時は、属国となってでもその血を守りたいと思われているのかもしれないということですね」
「あぁ」
「それだけ公国が危機に陥っているとも取れます。これをお断りすることは難しいでしょう」
公国はこの世界のどの国よりも歴史が浅い。だからこそ余計にその血を、国があった証を残したいと考えている。わかっているからこそ断ることは難しい。エリナの言葉にアルヴィスは頷いた。
ウェーバー公国はかつてはマラーナ王国の一部だったという歴史がある。そこから反乱の後に独立し、スーベニア聖国や他国からも自治権を認められて国家として成立した。自然に囲まれ、農業を生業とする国。煌びやかで身分制度の差が大きかったマラーナ王国とは真逆の性質を持っていた。だからこそ相いれなかったのだろう。大きな川を隔てていることもあり、最終的には交通の主であった大橋をマラーナ側が破壊し、交流を絶ったとも言われている。数代前から両国の交流は復活したらしい。遺恨はなかったのかという問いに対し、当時の家庭教師は苦笑いしていた。
『忘れやすいのでしょう。あの国の者たちは』
珍しくアルヴィスが質問をしたことで、家庭教師はどこか嬉しそうだったのを覚えている。
マラーナとも縁があった国だ。瘴気の発生源がマラーナ王国の王都にあったことを考えると、袂を別ったとはいえ何かしらの繋がりがあるのかもしれない。
「アルヴィス様、もし必要があるのであれば私は構いません。公女様をその……受け入れてくださっても」
「エリナ?」
「状況が状況です。私なら大丈夫ですから」
エリナの言葉にアルヴィスは目を見開く。相手は公女だ。国同士が交わすことであれば、確かにエリナの方が立場は劣る。だからこその意見だろう。だが、とアルヴィスは首を横に振るとそのまま力強くエリナを抱きしめた。
「アルヴィス様⁉」
「……俺は言ったはずだ。君以外の妃はいらない。側妃は必要ない」
結婚してから、ルトヴィスがエリナに宿ってから、考え抜いて出した結論だった。それを覆すつもりはない。エリナの手が背中に回されるが、その手付きはとても優しかった。
「それでも、必要な時があるかもしれません。アルヴィス様は優しい人だということを私は知っています。かの公女様を見捨てることなんて、アルヴィス様にはできませんから」
「……」
「投げやりで言っているわけではありませんよ。わかっています。アルヴィス様が私を愛してくださっていること。大切にしてくださっていることは」
ポンポンと背中を叩くようにしてエリナは穏やかに告げる。そっと身体を離せば、想像通りにエリナは笑っていた。悲しい笑みでもなく、ただ慈しみの笑みを。
「強がっているわけもありません。それに私は誰がアルヴィス様の傍にいても、私の方がアルヴィス様を愛していると断言できますから」
「エリナ」
「ですから守ってあげてください。国を失うかもしれない。家族を失うかもしれないと、そう不安に思っていらっしゃるはずですから」
それだけの危機に瀕しているのであれば、不安に駆られているかもしれない。だから求めには応じるべき。そしてそれはアルヴィスの傍である方がいいとエリナは言っている。心からの言葉だとわかっても、アルヴィスにはそれに頷くことができなかった。
「アルヴィス様? 私のことなら――」
「違う、そうじゃない」
「え?」
「エリナじゃない。俺がダメなんだ。本当は……スーベニア聖国にも行かせたくない。行くのならば、俺も共に行きたいくらいだ」
「アルヴィス様」
国王だから、この国を第一に考えなければならない立場だから、だからそうしているだけ。本当ならばアルヴィスが共に行きたい。傍にいるのはエリナでなければならない。他の誰でも意味がないから。それがかの公女であっても意味はない。公女はエリナの代わりにはなり得ない。
「公女なんて俺はいらない。俺が欲しいのはエリナだけだ。行かないでくれと……言えたらどんなに楽か」
エリナに行ってほしいと頼んだのはアルヴィス。レンティアースの情報は必要だ。アルヴィスはここを離れられない。ならばエリナに向かってもらわなければならない。頭では理解している。スーベニア聖国が危険な国ではないこともわかっている。ただこれは理屈ではないのだろう。傍にいて欲しい。せめて顔が見れる距離にと。ただの我儘だとわかっているからこそ、口に出すことはできないけれど。
そんな困惑した様子を見せるアルヴィスにエリナは背に回していた手を離し、アルヴィスの頬を両手で包みこんだ。
「私がいつもどれだけ不安だったのか、わかっていただけましたか?」
「っ」
「いつも不安でした。近くても城を空けると聞けば、怪我はしていらっしゃらないかとか、体調を崩してはいらっしゃらないかって。不安で心配でたまりませんでした。アルヴィス様は怪我をすることが多いのですもの」
「それは……悪い」
身に覚えが有り過ぎて反論さえできない。悪い癖なのだろう。自分で動くことも。わが身を顧みないことも。十年以上もそうして生きてきたから。多少はマシになったとはいえ、全くゼロにはならない。
責められても仕方ないと目を伏せると、ふと温かいものが触れてくる。目を開ければ、目の前にエリナの顔があった。そのぬくもりが離れるとエリナは微笑む。
「信じてください、私を。私もアルヴィス様を信じていますから」
「……」
「公女様のことも、少し意地悪を言ってしまいました。でも不安じゃないのは本当です。私が貴方を疑うことはありません。誰に何を言われても、私が信じるのはアルヴィス様からの言葉ですから。ですから大丈夫です」
「君は、本当に強くなったな」
ルトヴィスが生まれてからのエリナは、本当に強くなった。その意志が揺らぐことはなくなった。頼もしいと感じながらも、少しだけ寂しくも思う。するとエリナはその頬をアルヴィスの胸に寄せる。
「私が強くなったというのでしたら、それはアルヴィス様とルトのお陰です」
「そうか……」
「はい!」
再び顔を上げたエリナの表情に迷いは見られなかった。ならばアルヴィスも意志を決めるべきだろう。心は固まった。
「公女の件、保護する名目で受け入れることにする」
後宮に迎えることはしない。例の候補だという青年と共に公女を保護する。アルヴィスの言葉にエリナは強く頷いた。




