4話
すみません、短めです。
エリナの執務との調整、そしてスーベニア聖国との交渉の末、出発日が決まった。ルベリア王国を発つのは二週間後、スーベニア聖国までの海路を使っての往復と五日間の滞在、多少の前後はあるものの三週間程度の旅路となる予定だ。
今回の同行者は、エリナとその専属である近衛隊士ら。エリナの依頼により同行することになったハーバラ、その護衛をするランセル侯爵家の騎士。そこにエドワルドを追加したかったのだが、これはエドワルド自身により却下された。ルークは事前に別ルートで王国を出立し、元マラーナ王国近辺とザーナ帝国を経由したのちに帝国の港町で合流する。ザーナ帝国の方が、ルベリア王国よりもスーベニア聖国への距離が近い。ゆえに今回の旅ではその港町に寄港する予定を組んだ。
「こんなところか」
目の前の資料をまとめたところで、アルヴィスは椅子の背もたれに体重を預けながら天井を仰ぐ。目を閉じて何度かの深呼吸をしていると、扉が開く音が届いた。
「陛下、お疲れのところ恐れ入ります。こちらのご確認をお願いし……大丈夫でしょうか?」
現れたのはキリアスだ。夜遅くでもない限り、エドワルドやキリアス、宰相についてはノックの必要はないと伝えてある。タイミングが悪かったところで、キリアスを責めるつもりはない。
「問題ない」
「しかし……」
「いいんだ。それで、俺に確認をしたいこととは?」
仕事を持ち込んできたのだから先にそれをよこせとばかりにアルヴィスは手を差し出した。眉を寄せつつも手にしていた書類の束をアルヴィスへと渡してくれる。そしてその上に書簡を置く。
書簡は主に国同士でのやり取りで使われる。つまりこれはルベリア国外からのものだ。書類を置き、まずは書簡から目を通すことにしたアルヴィスは、その内容に視線を巡らせた。送り主はウェーバー公国。今、瘴気の危機に最もさらされている国の一つだ。
「……意図は?」
「憶測になりますが、そういう意図も含まれていると思います。ただこの状況ですので、それだけではななく保護が目的とも受け取れますが、先の事件もあるので対外的にもそういう風に受け取ってもらいたいというところでしょう」
公国が持ち込んだ内容は、外交手段の一つとして公女をルベリア王国へ預けたいということだった。瘴気の影響が広がりを見せる中で、国家として生きるための最善を尽くすために。恥を忍んでお願いをしたいと真摯な言葉が紡がれていた。元マラーナ王国で起きた事件のことを考えれば、厚顔無恥もいいところだ。わかった上で公国の血筋を残すために、最も安全だと思われるルベリア王国を選んだ。保護を求めるのであればザーナ帝国でも構わなかっただろうに。それをしなかったのは、公女をアルヴィスの側妃、もしくは妾としても構わないという意味だ。いうなれば人質である。
「俺が側妃を娶らないということは、他国へ伝わってはいないのか」
「どれだけ陛下ご自身がおっしゃったとしても、それをそのまま受け取る国は多くないでしょう。それにそれだけ公国が追い詰められているとも受け取れます。わかった上で、それでもと縋りつきたい想いなのかもしれません」
「なるほどな……」
当然、これを拒否することは可能だ。公女を受け入れることの利がルベリアにどれだけあるのか。それはこの公女が公国のどの位置にいるのかにもよるだろう。
「キリアス、この公女について調べてくれ。なるべく急いでな」
「王妃殿下が出立される前に、ということですね」
「あぁ」
「承知しました」
公女の件は了承するにしろしないにしろエリナに伝えるのが大前提だ。その前にある程度の情報は集めておきたい。
「ったく次から次へと、か」
軽く肩を回して身体をほぐすようにしてから、アルヴィスは先ほど書簡と共にキリアスが持ってきた書類へと取り掛かるのだった。




