3話
シリアスなのか甘いのか……混ざりました(;^ω^)
難産ですね、シリアスの中に埋め込むのはw
それから数日後の夜、アルヴィスの姿は執務室にあった。ただ執務机を挟んで対面しているのはキリアスやエドワルドではない。そこに立っていたのはエリナだった。
「それでここに来たのか」
「はい」
エリナの目は真っすぐにアルヴィスを射抜いていた。椅子に座っている分、エリナの方を見上げる形になる。その藍色の瞳は揺れることなく、ただアルヴィスを見ていた。まるで誤魔化しは許さないとでもいうかのように。
時折、エリナはこのように意志の強さを見せてくる。揺らぐことのない意志を。アルヴィスは深く息を吐き、口を開く。
「エリナ、今君が……ルークたちも含めて抱いているもの、その答えはおそらくレンティアース嬢が教えてくれるだろう」
「え?」
「俺からは言えそうにない」
「どういうことでしょうか?」
アルヴィスから伝えられることはもうない。これまで伝えたことが全て。これ以上は、アルヴィスの口からは言えない。言いたくはない。吐露してしまえば楽になるかもしれないが、どうしてもそれは出来なかった。
「アルヴィス様、私にだけでも教えていただくことは叶いませんか? 前もって知っている方が良いことも有ります。それに何を確認すべきなのかも、私が知らなければスーベニア聖国に向かう意味が――」
「君が向かう意味はある」
交渉という場につく。そういう意味では事前に情報は共有しておくべき。エリナの発言の方が正しいだろう。情報は国同士の交渉事に於いて、重要な武器の一つである。それを何も持たずに向かうことに意味はない。引き出すものも、こちらが渡せるものもわからないのだから。
アルヴィスは立ち上がり、執務机の前に立つとその机の端に腰掛けるようにして寄りかかった。目の前にいるエリナと目線を合わせるように。その奥にある瞳を覗き込めば酷く揺れているのがわかった。アルヴィスが何を言いたいのかが理解できない。エリナの瞳は、そう訴えかけている。そんな風に混乱を見せているエリナの手をゆっくりと取り持ち上げた。
「……きっとレンティアース嬢は君に話すだろう。この先、俺がどうなるのか。何故、ルベリア王家が血を絶やさぬようにし、この時にルシオラが俺と契約したのか。何故、俺でなければならなかったのかを」
「え……そ、れは」
「この答えを俺は知っている。知っていても君には言えない。言いたくないんだ。俺の口からは……」
「アルヴィス様」
持ち上げていたエリナの手に、アルヴィスは己の額を当てた。これでエリナからアルヴィスの表情は見えない。
「以前、俺は約束をした。この世界の為に必要ならば、ルシオラの契約者としての俺の力が必要ならば、協力を惜しむつもりはないと」
「は、い」
「その結果がどうであろうともルベリアの王として、この世界に責任を持つ者として俺は成さなければならない」
「わかって、おります」
アルヴィスだけではない。レンティアースも、そして他の国の王たちとて同じ考えだろう。ただ、レンティアースとアルヴィスに限って言えば多少なりとも違う点がある。それは知っていることだろう。このまま進めば世界がどうなってしまうのか。そうさせないために動く必要がある。
ふぅと軽く深呼吸をしてから、アルヴィスは顔を上げた。そして立ち上がり困惑したままのエリナの手を引くと、その身体を抱きしめる。
「大丈夫だ。君も、ルトも……この国の人たちは俺が守る。あんな結末だけは迎えさせない」
「……」
「ただそのためにはエリナの協力が必要だ。それだけは申し訳ないと思っている」
「それが私がスーベニア聖国に行かねばならない本当の理由、なのですね」
この言葉にアルヴィスは頷けなかった。エリナが必要なのは確かだ。本当ならば、もっとルトヴィスが大きくなってからが望ましかった。せめてあと一年は先であったならば。しかし、それは難しいだろう。あの彼が動き始めてしまっている。どうしてもそうしなければならない。
そこでふと我が子の姿が脳裏に浮かんだ。エリナが行かなければならないとなれば、必然とルトヴィスからも引き離すことになってしまう。
「エリナ、俺は酷い父親だな」
「アルヴィス様?」
「まだまだ母親に傍にいて欲しい時期に、ルトヴィスからエリナを遠ざけさせて」
己の幼少期があるからこそ、我が子には同じ想いをさせたくなかった。両親が傍にいない。事情や理由があったとしても、子どもには関係がないことだ。王族だから当然だと言わるかもしれないけれど、それもあくまで大人の事情に過ぎず、ルトヴィスがそれを理解するようになるのはもっと成長してからだ。アルヴィスがそうだったように。
「ミント様がいらっしゃいます。あの子は一人じゃありません」
「わかっている。義姉上には苦労を掛けてしまうが、それでも母親とは違うだろう?」
「それならばアルヴィス様がお傍にいてあげてください。あの子の傍に」
「そうしてやりたい。でも……」
アルヴィスには国王としての執務がある。朝と夜しかルトヴィスの傍には居られない。どちらを優先するかと問われれば、執務を優先してしまうだろう。
そんなアルヴィスにエリナはクスリと笑った。身体を少し離してから、エリナはアルヴィスの胸の上両手を当てる。
「アルヴィス様が国王として在る姿を、あの子に見せてあげてください」
「見せる?」
「ただ同じ場所にいてくださるだけでいいのです。話しかけてくれなくても、隣ではなくても、ここにいていいのだと。そう思わせてくれるだけで十分ですから」
エリナの言葉にアルヴィスは目を瞬く。それはつまり、この場所にルトヴィスを連れてこいというのだろうか。
「それにあの子が傍にいてくれれば、アルヴィス様も無理をなさいませんでしょう?」
「……そう、だな。早く終わらせたくなるかもしれない」
「うふふ。ですから、私がいない間はそうしてください。私も安心です」
どこか冗談めいた風に話すエリナに、アルヴィスも口元が綻んだ。気を遣ってくれているのだろう。向かうのはエリナの方だというのに、残されるアルヴィスの方が心配させてしまった。だがスーベニア聖国に着けば、それを知った時にエリナがどうなるのかは想像に難くない。
そんな想像を追いやってアルヴィスはエリナの肩口に頭を乗せた。
「ありがとう、エリナ。忘れないでくれ、俺はいつでも君を想っている」
「私もです。いつでも、私は貴方だけを愛しています」




