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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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17話

 

 アルヴィスが目を覚ますと、外は夜になっていた。多少の気怠さは残るものの、起きられない程ではない。ゆっくりと身体を起こす。


「お目覚めですか、アルヴィス様」

「ナリス、か……俺はどのくらい寝ていた?」


 バタンと、ちょうどナリスが部屋に入ってくるところだった。その手には桶とタオルがある。


「四時間ほどです。まだ熱が下がっておりませんから、横になっていてください」

「いや……」

「アルヴィス様」


 ベッドの横に来てナリスがアルヴィスの身体を倒す。その額に手を当てられると、まだナリスの手が冷たく感じられた。


「一応、先生にも診ていただきました。少し疲れが出た為だと仰っていましたので、今は寝ていてください」

「……そう、か」


 無理をしたことが原因なのは間違いない。こうなることは、予想の範囲内だ。それよりも、今のアルヴィスには気になることがある。


「ナリス……イースラは?」

「先ほどまで交代で休んでおりましたが、今はエドワルド殿の所に行っております。呼び戻しますか?」

「今はいい……」


 エドワルドは、臥せっているアルヴィスのために動いている。出来るだけアルヴィスの手を煩わせないようにと、書類仕事については最低限にしようとしてくれているらしい。イースラは恐らく、そんなエドワルドを労りに行っている。ならば、呼びつけることはしたくない。エリナの様子を聞くのは後でもいい。


「何か気になるのですか?」

「急ぎじゃないからな……」

「……わかりました」


 とはいえ、起きたばかりで直ぐに寝ることもできない。窓の外を眺めるが、暗くなっている空が見えるのみだ。ただ安静にしていることは、暇をもて余すばかり。それでも、何もすることがないので外を見つめていた。


「話し相手をご所望ですか?」

「……いらない」


 ナリスなどは、アルヴィスを幼い頃から知っているので、昔話をされるのが目に見えている。余計な恥を思い出したくなどない。特に、乳母だったナリスはアルヴィスが覚えていないことまで知っているのだから。


「そうですか……」

「悪い……気を遣わせた……」

「何を仰るのですか。いつも言っておりますが、私たちはアルヴィス様の使用人でございます。もっと、好きに使って頂いて構いません」

「……それは、わかっている」


 アルヴィスのために、ナリスたちはいる。その指示に従うのは当然だ。しかし、学園卒業後は騎士としての生活環境に慣れてしまったこともあり、使うよりも自ら動く方が楽だった。今のような臥せっている状態では、身の回りは任せるしかないものの、普段は自分自身でやってしまうことも多い。


「……本当に、アルヴィス様はいつもそうなのですから。気を遣っておられるのは、貴方様の方です」

「そんなことは――」

「無意識なのです、きっと……ご自身を後回しにしていらっしゃる。恐らく、その理由の一端に私たちもいるのでしょうね」

「ナリス……?」


 ナリスは悲しげに話す。静かな室内で、アルヴィスに聞こえるか聞こえないか程度の小さな声だが、アルヴィスにはちゃんと届いている。

 怪訝そうに見上げると、ナリスはそっとアルヴィスの頭を撫でてきた。それは幼い頃にされていた良く知ってる感触だ。


「おい、ナリス」

「アルヴィス様、私では貴方様の背負う荷物を代わることは出来ません」

「……」

「何をされているのかも聞きません。ですが、せめて……心配だけはさせてください。きっと、旦那様も奥様も同じお気持ちです」


 背負う荷物とは、例のパーティーでのことだろう。これまでの間、何が起きたのかをナリスらから問われたことはない。アルヴィスの体調を気遣って聞かなかったのかも知れないが、普通ならば、何が起きたのか知りたくなるもの。箝口令が敷かれているので、他の者たちからも聞かされてはいないだろう。加えて、倒れて戻ってきたのだから、何が起きたのか余計に気にかかるというものだ。

 ナリスは己の領分を弁えている。アルヴィスが何かをしていても、その線を越えてくることはない。何にせよ、今のアルヴィスにとっては聞かれないことが嬉しい。どのような内容だろうとも。アルヴィスは、目を閉じてふぅと息を吐いた。


「すまない……心配させて」

「謝らないで下さい。心配するのが、私の役目でもあります、坊っちゃん」

「……子ども扱いだな」

「私にとっては、いつまでも可愛い坊っちゃんですから」


 そう言ってナリスは微笑みながら、アルヴィスを撫でる。止めそうにない仕草に、諦めが入ったアルヴィスは振り払うことを止めた。こうして撫でられるのは、幼い頃には良くされていた。両親が忙しく、どちらかと言えば兄や妹らにかかりきりだったこともあり、アルヴィスにとっては一番懐かしい感覚だ。いつもなら撫でることなどさせないが、何故か今はこのままでも構わないという気持ちだった。

 そうしていつしか、そのままアルヴィスは寝てしまうのだった。


「……おやすみなさい、アルヴィス様」




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