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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第三部

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閑話 王妃は動き始める



 アルヴィスから話を聞いたエリナが真っ先にやったこと。それは情報収集だった。当然、アルヴィスも国王として行っているものだ。ただこれはその当人であるアルヴィスから言われたことだった。


『私自身が情報を、ですか?』

『あぁ。俺には動いてくれる部下が多くいる。今も探らせてはいるし、俺自身も調査している』


 ルベリア国王には国王にのみ使えるという存在がいる。誰であるかは秘匿されており、国王以外は組織があるという程度しかしらない。当然、エリナも王太子妃教育の一環でその存在は知っていた。アルヴィスはその組織を使って調査を行っているのだろう。それとは別に独自でも調査をしているということは、それだけ情報が錯綜しているということなのか。


『俺から伝えるべきことは伝えられるが、それでも直接伝えることが確実にできるとは限らない』

『……私自身にもその伝手を使うべきだと仰るのですね』

『そうだ』


 もしエリナが王妃としてスーベニア聖国へ向かう場合、その手元にも情報を得る手段を用意する。アルヴィスと、国と物理的距離が発生することから、通達の遅延を危惧しているのだろう。


『幸い、スーベニア聖国は商人の出入りを規制しているわけでもないし、国に出入りして商売をすることにも寛容な国だ。ある程度動けるよう俺の方で手は回しておく』


 王妃としてスーベニア聖国へ向かう。まだ決定事項ではないにしても、アルヴィスの中では半ば決定していると見ていい。


『ごめん……』


 抱きしめられた時にささやかれた謝罪の言葉。本当ならば行かせたくないのだと、そう言われた気がした。その気持ちだけでエリナは十分だ。アルヴィスもエリナも公人としての立場を優先しなければならない。国王としてアルヴィスが必要だと判断したならば、エリナも王妃としてその判断に相応しい行動を取るだけなのだから。


「エリナ様」

「お呼び立てして申し訳ありません、ハーバラ様」

「そんなことはありませんわ。エリナ様からのお誘いであれば、最優先で駆け付けますもの」

「ありがとうございます」


 今エリナがいるのは王城にある応接室だった。王太子妃だった頃ならば宮に呼ぶことも可能だったが、後宮へ住まいを移してからはそれもできない。後宮は王の妃が住まう場所。下手に在らぬ噂を立てられるわけにはいかない。

 情報収集と聞いてエリナがまず思い浮かんだのはハーバラだった。というよりランセル侯爵家と言った方がいい。商人としての耳を持つランセル侯爵家の情報収集力は、貴族の中では随一である。主に民衆の中に入って情報を集めることが多いため、国王が持つ影とはまた違った視点からの情報を持つ。おそらくハーバラの兄であるシオディランもアルヴィスから何かしら頼まれごとはしているはずだ。


「ハーバラ様はスーベニア聖国のレンティアースという令嬢についてはご存知ですか?」

「陛下の戴冠の儀においでになられた方ですわね。あまり見かけない方でしたので、どういう方なのかと探ってはみましたけれど、あまり良い結果はありませんでしたわ。よほど秘匿したい方、ということは女王陛下に近しい方だとは思っておりますけれど」

「流石です。そこまでご存知であるならばお伝えしますね。あの方は、次期女王となられる方だそうです」


 ハーバラが女王の身内だと気づいているのであれば明かしても構わない。アルヴィスからはそう言われていた。レンティアースが次期女王だということは、スーベニア聖国の女王の側近レベルにしか伝えられていない秘匿事項。国王直属の影でさえも、その奥には入り込めていないらしい。だからこそ身分を明かさずにルベリア王国へとやってきたのだろうと。


「……そうだったのですね。であれば私程度が探ることなどできないはずですわ」

「聖国の女王陛下の御許には、不可思議な領域のようなものがあるようで、その先を探ることは難しいとアルヴィス様も仰っていました」

「エリナ様がそうおっしゃると言うことはスーベニア聖国に何かしら知りたいものがおありなのですか?」


 そう尋ねられてエリナは首を横に振る。知りたいのではない。だが知らなければならないのだろう。かの令嬢がエリナを指名してきたということはそういうことだ。だからアルヴィスも覚悟を決めた。ならばエリナにも異論はない。それが王妃として当然のことだから。

 エリナは深呼吸をし、気持ちを落ち着けてからハーバラを真っすぐに見た。


「近いうちに、私はスーベニア聖国に出向かなければなりません」

「エリナ様が、ですか? 陛下ではなく」


 思わずと言った様子でハーバラが反応する。これまで国を出るといえばアルヴィスの役割だった。そういった印象があるのかもしれない。だがそれはアルヴィスが王太子だったからこそできたもの。今はそう簡単に国を離れることはできない立場だ。国内が落ち着いていればそれも可能かもしれないが、まだ即位をして一年も経っていないし、国外もどうやら穏やかな状況ではないこともその理由の一つなのだろう。


「陛下には国を守る責務がありますから。その名代として私が参ります」

「そう、ですわね。陛下のことですから、御自ら出向かれると思ってしまいました。あの方はそういう方ですもの」

「えぇ、そうかもしれません。本当は誰よりもご自身が参りたいのだと私も思います」


 だがその衝動を天秤にかけることはない。その必要さえないのだ。どちらを優先するかなど、考えずともわかる。


「私にこのことを伝えるにも悩まれたのだと思います。アルヴィス様は、ご自身が関わることとなると極端に自らの殻に閉じこもれてしまいますので」

「陛下ご自身のことと言いますと……?」

「アルヴィス様の右手甲、そこにある女神ルシオラ様の紋章と、それに付随する諸々のことです」


 既に国民の誰もが知っていること。アルヴィスが立太子の儀の折に女神の祝福を授かったということは。当然エリナも知っている。結婚式の際のドレスの刺繍にも、ルシオラの紋章が縫われていた。実際にアルヴィスの手の甲に刻まれている紋章を見たこともある。だが普段は誰の目にも止まらぬようにと、常に手袋をつけているので、エリナ以外でその紋章を直に見たものは立太子の儀にいた貴族家当主のみ。


「その文様についても私は尋ねることさえできません。私には立ち入ってはならないのだと思っていましたから」

「確かに女神様については色々と言われておりますけれど、陛下がどういった影響下にあるのかなどは一切知らされてはおりませんわね」

「はい」


 女神からの祝福。それは歓迎すべきものだ。実際のところ、契約を交わしたことで何かしらアルヴィスに与えるものがあるはず。けれどもそれを知らされることはほとんどない。時折アルヴィスが苦し気に眉を寄せたり、倒れてしまうことがあったが、それがルシオラとの契約に付随してきてしまった瘴気の影響などということもつい最近知ったくらいだ。


「今回のスーベニア聖国に出向く件に、女神ルシオラ様が関係していると。そうエリナ様はお考えなのですね?」

「はい。アルヴィス様からの明言はありませんでしたが、瘴気の件が関係しているとは仰っていました。アルヴィス様のご様子から、女神様と瘴気の間に何らかの関連性があると判断できます。ですから私は知っておきたいのです。かつて女神様と契約した人たちのことを」


 今ならばアルヴィスも教えてくれるかもしれない。だがそれとは別に、過去にも契約者がいるというのであれば、その情報も知っておきたい。


「であれば近いうちに大司教様の下にも向かわれるのですか?」

「明後日に孤児院への訪問がありますから、その帰路で大聖堂には立ち寄る予定になっています。アルヴィス様からも話を通してくださるそうですので、その時に伺うつもりです」


 王太子妃となってからも定期的に行っている孤児院の訪問。ルトヴィスを妊娠してからは回数が減っており、お腹が大きくなると共に訪問は控えるようになっていた。エリナが王妃の仕事に復帰するに伴い、再び訪問するようになった。その後、大聖堂に向かうのも恒例となっており、大司教への報告と女神ルシオラへ祈りを捧げている。


「それでしたら、明後日に私も大聖堂へと向かいますわね」

「よろしいのですか?」

「来週には私も一度領地に戻らなければなりませんが、今ならば多少の自由は利きますの。ちょうど良いですから、古い文献に詳しい方と共に参りますわ。おそらくまだ王都にいらっしゃるでしょうし」

「ありがとうございます、ハーバラ様」




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