18話
あけましておめでとうございます!
本年もどうぞよろしくお願いいたしますm(__)m
ルークからの提言、そしてレンティアースからの誘い。レンティアースのものは非公式すぎるものであるため、国同士の調整を行ってから動くことになる。とはいえ、ルークが赴くとしてもやり取り度合いは変わらない。ただ人員の数はその限りではなかった。
「全く、どうやら俺に休息は与えられないらしいな……」
原点に立ち返るために、アルヴィスはここにきた。王城のバルコニー。立太子の後や戴冠の儀の後でも訪れた場所。その主たる目的は顔見世のためだ。それ以外でここに来ることはほとんどない。ただこの位置は城下町からも見える位置であるため、アルヴィスはバルコニーの柱に寄りかかるようにしていた。これであれば城下町からはアルヴィスの姿を見ることはできない。だが、城下を望むことはできる。
「俺はここを離れることはできない。今はまだ……」
できれば自身の足でスーベニア聖国を訪れ、レンティアースに疑問を投げかけたい。しかし、それが難しいことはアルヴィスが一番良くわかっている。まだ王となって一年目。アルヴィスにはこの国を守り導く義務がある。国民からの期待が大きいことも理解している。多くの者たちがアルヴィスの抱える事情を知らない以上、それを理由にして動くわけにはいかない。よくわかっている。だが、捨て置けないこともまた事実だ。
瘴気が広がり、他国では既に生活圏にまで影響が出ていることをルベリア王国の民はまだ知らない。この件を知っているのは、貴族家当主のみ。各領地において、瘴気の広がりに異変を感じた場合は即報告するようにと伝えてある。楽観視できる状況ではないからだ。国内の安定を優先しなければならない。と同時に、原因の究明も急ぐ必要がある。その答えに限りなく近いものがスーベニア聖国にあるはずだ。そのためにはどうするのが一番良いのか。
「……」
どれだけ考えても導き出される答えは一つだった。ここを守る事と、原因を知ることは両立できない。当然だ。わかっていても考えてしまうということは、迷いを振り払うことができないから。その覚悟が足りないからなのかもしれない。
「アルヴィス様……」
そんな風に葛藤しているところへエドワルドの声が届く。アルヴィスは身体を起こし、エドワルドへと向けた。複雑そうな表情をしているエドワルドに思わず苦笑してしまう。この幼馴染に対しても、アルヴィスは隠し事をしている。女神の件についてアルヴィスから言及したことはない。それでも問い詰めることなく、ただ待ってくれている。その時が来れば話をしてくれるだろうと。それはきっとそう遠くない。
「王妃殿下をお呼びしてきました。控室の方にいらっしゃいます」
「わかった。ありがとう」
「いえ……」
そのまま控室へ向かおうとエドワルドの横を通り過ぎるところで、アルヴィスは足を止めた。
「エド」
「はい」
「……お前にも聞いてほしい。同席してくれ」
共に話を聞いてほしい。そう告げればエドワルドの肩が僅かに動いた。その表情を窺ってみると、珍しく目を大きく開けて驚いている。エドワルドは誘われるとは思わなかったのだろう。
「エド」
「……ありがとうございます。ですが今は、王妃殿下を優先してください。私は後でも構いませんので」
「そう、か。わかった」
深々と頭を下げるエドワルドを置いて、アルヴィスは控室へと続く扉を開けた。
控室になる大きめのソファーにエリナは座っていた。ルトヴィスを出産する前はゆったりとした服装を身に着けていたのだが、今はもうそれ以前の服装に戻っていた。それでいて令嬢の時や王太子妃だった頃よりも身に纏う空気が穏やかになったためか、落ち着いたように見える。
「ここまで来てもらってすまない、エリナ」
「アルヴィス様」
そう声を掛ければエリナはゆっくりと立ち上がり、アルヴィスの前まで歩いてきた。自然とアルヴィスはその身体を抱き寄せ、腕の中に抱え込む。エリナも背中へと腕を回してくれた。どれだけ離れていても、傍にいる時間が減っていっても、こうすることが当たり前のように自然と身体が動く。今ここにはアルヴィスとエリナの二人だけだ。ほんの少し身体を離したエリナが顔を上げる。アルヴィスは流れるようにして、エリナと唇を重ねた。
「二人きりは久しぶりですね」
「そういえばそうだな」
いつだって近くにルトヴィスの気配があった。王妃の執務を行うようになったとはいえ、アルヴィスが後宮へ戻る頃にはエリナはルトヴィスの傍にいる。執務中にエリナの元を訪れることはほとんどないアルヴィスなので、こうして後宮以外でエリナと顔を合わせるのは珍しいことだった。
エリナの手を引きソファーへと座らせてからアルヴィスもその左隣に腰を下ろす。座ったまま置いてあったティーセットを手際よく準備するエリナに、ほんの少し懐かしさを感じた。アルヴィスとエリナがお茶をする場合、エリナが用意してくれることが多かった。それもエリナのお腹が大きくなると共に減っていったので、それ以来となる。
「どうぞ」
「あぁ、すまない……」
「大事な相談がある、とハスワーク卿からお聞きしました」
何を相談されるのかまでは聞いていないが、執務室ではない場所での呼び出し。寝室で話すことのできない内容。そのことから、エリナも覚悟を決めてここへ来たという。
「相談、というか……頼みになるんだろうな、この場合。それも君にとってはあまり好ましいことではないだろう」
「そうだとしても構いません。どのようなことであろうとも、それが必要だとアルヴィス様が判断されたのであれば、そうするべきだと私も思いますから。どれだけアルヴィス様が悩まれたのか、私にもわかっています」
アルヴィスの左腕にエリナが両手を添える。気遣うような優しい手付きに、アルヴィスは口を開いた。
「エリナに、王妃である君に出向いてほしいところがある」
「……王妃として、ですか?」
「あぁ。スーベニア聖国に」
「スーベニア聖国……シスレティア女王陛下に何かあったのでしょうか?」
触れる手に力が籠められる。王妃という言葉を強調したからだろう。現女王であるシスレティアに凶事があったのではと想像したらしい。アルヴィスは首を横に振った。
「違う。女王に何かというわけじゃない。君にしてもらいたいことは、女王との謁見ではなく、次期女王となるレンティアース嬢との謁見だ」
「レンティアース、様? シスレティア陛下が次期女王陛下をご指名なされたのですね」
「あぁ。エリナもレンティアース嬢には会っているよ」
「え? 私も?」
そうエリナも邂逅している。レンティアースと。あの時、戴冠式の中で行われたパーティー会場で。二人が会話しているところは見ていないが、エリナは挨拶で全員と会話をしているはずだ。だからこそ会っていると断言できる。この様子だと名乗ることはしていなかったようだが。
「あ、まさかあの彼女が……」
「心当たりはあるみたいだな。おそらく間違っていない」
「ただならぬ女性だと思ったのです。その、何か予言めいたことを言われましたので」
「予言?」
予言。それは何かと尋ねようと思ったのだが、アルヴィスはその先の言葉が出なかった。エリナがアルヴィスを見上げてくる表情が不安げだったからだ。レンティアースとエリナの間に何があったのかは知らない。だが、何もなかったわけではなかったらしい。もしかするとそれがレンティアースがエリナを指名してきた理由なのかもしれない。
「レンティアース嬢は次期スーベニア聖国の女王だが、それ以外にも俺やテルミナ嬢とも関わりを持っている」
「それはどういうことなのでしょうか?」
確証があるわけではない。だがおそらくほぼ確実なことだろう。というよりもテルミナやアルヴィスよりも、どちらかといえば女神ルシオラに近しい。そんな雰囲気を感じる。
「彼女は、ルシオラに近い。たぶん女神となる以前のルシオラと。俺たちとは違う。契約者ではなくそのもの。そんな感じがするんだ」




