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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第三部

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387/400

17話

今年最後の投稿がこのような話題で、すみません;;


気になるところで終わってしまいますが、

来年も週一更新で頑張っていきますので

今後の物語の行く末を見守っていてください。


それでは皆様良いお年をお過ごしくださいm(__)m


「え?」

「今の状況ではスーベニア聖国の情報が何よりも必要でしょう。陛下にとっては」


 国王の執務室、机を挟んだ先には身なりを正したルークの姿があった。普段はアルヴィスの前であっても、隊服を着崩したままが当たり前。そんなルークが乱さないまま隊服を着ることは、公式行事以外にない。だからこそ今ルークから告げられた言葉が真剣なのだとわかる。


「あの国は影に探らせている」

「それではあの国の女王らが隠していることを知ることはできますまい。国には知られても良い情報と、決して知られてはならぬ情報、双方が存在する。そのことは陛下こそ、よくわかっていらっしゃるはずです」


 何よりもアルヴィスそのものが機密の塊を保持している。誰に告げるでもなく身の内に潜めたまま。同じようなことがスーベニア聖国の、レンティアースらにもあるならば影程度を送ったところで知ることはできない。ルークはそう言いたいのだろう。


「……少し考えさせてほしい」

「良い返事を期待しています」


 折り目正しく頭を下げると、ルークは下がっていった。軽口もなく、終始真剣な表情を崩さなかったのは初めてだ。


「どうなさるおつもりですか?」


 同席していたザクセン宰相からの問いかけに、アルヴィスは深く溜息を吐いて応える。


「……」

「アンブラ隊長が言いたいことは私も理解できます。ですが、如何に陛下の信頼が厚い近衛隊長とはいえ、そう簡単にこちらが知りたいことを教えてくださるかはわかりません」

「そうだな」


 アルヴィス自ら赴ければ一番だが、それはできない。スーベニア聖国で情報を得たいという想いは、戴冠式以前から考えていた。というよりも常にアルヴィスの頭の中にあった。それでいて行動に起こせなかったのは、今アルヴィスが優先すべきことは国王としての執務だから。緊急事態でもない限り、国を離れるわけにはいかない。


「あ、そういえば」

「陛下?」


 ふとアルヴィスは大聖堂から預かった書物を思い出した。中が何も書かれていない真っ白な書物。あれに触れた時にスーベニア聖国にいるはずのレンティアースと会ったことを。それはこの執務室の本棚に収められている。立ち上がってアルヴィスは本棚まで移動し、その問題の書物を手に取った。頁を開くが、相変わらず真っ白なままだ。


「……ん?」


 その時、ふいに何かに引き寄せられるような感覚を覚えた。目の前に白い光が発せられ、思わずアルヴィスは目を閉じる。そうして再び目を開くと、そこは真っ白な空間だった。そうあの時のように。


「ここ、は」

「またお会いしましたね、当代の贖い子。いえここではルベリア王と申した方が宜しいでしょうか」

「……レンティアース嬢」


 白い空間にいるのは、あの時と同じ衣装に身を包んだレンティアースだ。戴冠の儀の後に行われた夜会などではドレス姿だったが、この衣装こそがレンティアースが身に纏うもの。その雰囲気が全く違って見えた。


「ちょうど祈祷をしていた時でしたので邂逅できましたが、何かご用件でもあったのでしょうか?」

「その通りです」

「あの書物が道しるべだということを覚えていらしたのですね」

「あれだけの衝撃を忘れるはずがありません」


 レンティアースとの邂逅を忘れるはずがない。あの時に話した内容も。


「では伺いましょう。有限の刻の中で可能かどうか」

「時間がありませんのでそのままお聞きします。神霊水を必要とする意図、そしてバージニ公国で広がる瘴気……加えて女神の子である()()という存在について」


 アルという名を出した時、僅かにレンティアースの表情が動いた。それは出された名前に驚いたというよりは、アルヴィスが何故知っているのかといった驚きだった。


「その名を、どこで」

「女神ルシオラから。それに、私は会いましたから。彼に……あの地、マラーナで」

「……そうでしたか。あれは疾うに貴方に会ってしまっていましたか」

「それはどういう意味――」


 再び光がアルヴィスの視界を覆い始める。邂逅の刻は終わりということだろう。まだ何も聞いていない。答えは得られていないというのに。


「贖い子、真実それを知りたいのであれば……そうですね、其方の名代として貴方の妃を我が国へ」

「え……」

「彼女にならば私は話します。いえ、彼女は知らなければならない。それが創世国に嫁いだ者の運命です」

「そ、れは……」

「待っています」


 それを最後にアルヴィスは執務室へと戻された。書物を持ったまま、アルヴィスは棒立ちになっていたらしく、宰相が何か気にかかることでもあったのかと心配してきた。その後どうやって宰相と会話をしたのかあまり覚えていない。アルヴィスの頭の中は困惑でいっぱいだったからだ。

 ルークがスーベニア聖国に行きたいと望み、それをせずともレンティアースと連絡を取る手段があったと例の書物を手にした。だがあれはほんのわずかな邂逅のみでしか果たせず、じっくりと腰を据えて交渉をするようなものには使えない。しかも邂逅を終えた後は言い知れぬ疲労感に見舞われる。何度も続けて使うこともできない。

 一人きりとなった執務室で、アルヴィスは椅子に座ったまま背中を預けて天を仰ぐとそのまま右手で目元を覆った。


「エリナをスーベニア聖国になんて……できるわけがないだろう……」


 距離的な問題ではない。スーベニア聖国までの道のりはマラーナやザーナ帝国よりも時間がかかる。移動だけでどれだけ急いでも一週間はかかってしまうだろう。陸路だけでなく海を渡る必要もある。エリナはルベリア王国の長距離移動には不慣れだ。ましてや今はまだルトヴィスも母親を必要としている時期である。

 そんなことをつらつらと考える。だが今回の件を知れば、エリナは間違いなく是と答えるだろう。それが王妃として国のためにすべきことならばと。


「否、そうじゃない。俺は……知ってほしくないんだろうな。総てを……」


 ルベリア王国の王族に嫁いだならば知らなければならない。レンティアースはそう言っていた。だが、アルヴィスは殊更エリナにだけは伝えずにいた。女神ルシオラに関わること、アルヴィスの身に起きていることも。巻き込みたくないというアルヴィスの身勝手な願いだったが、知ることでエリナにも女神ルシオラとの関わりができてしまうことを畏れているからだ。女神ルシオラと本来契約を交わすはずだったのはリリアンという少女。それが叶わなかった場合の代わりのような存在がアルヴィスだ。アルヴィスと交わり、その子を宿していたエリナの身の内にはアルヴィスの力が残っている。それがもしもの事態を引き起こさないかという不安がぬぐい切れない。リリアンの代わりとまではいかずとも、何かしらの因果を背負わされてしまうのではないかと。

 王家としての因果であれば、アルヴィスもここまで不安視することはなかった。エリナには王家の人間として生きる覚悟が既にあるのだから。しかし女神ルシオラ関連は違う。背負うのはアルヴィスのみであってほしい。それなのに、レンティアースはエリナを指名してきた。王であるアルヴィスの名代であるならば、王妃が担うことは当然だ。それ自体は間違っていない。わかっている。

 これまで通りアルヴィスが独自で調べる道がないこともない。ただバージニ公国の件もあり、あまり悠長に構えていてよいことではなくなってきた。ルークがスーベニア聖国に向かうと言い出したのはそこに理由がある。そして今の話でルークのみがスーベニア聖国に行ったところで、こちらが求める回答は得られないということだ。アルヴィスが出す答えは一つだった。





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