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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第三部

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5話

新キャラ登場です!

少しだけ匂わせていたあの人の子になります。


 そうしてアルヴィスが国王となってからひと月が経過した頃、謁見の間にてアルヴィスは一人の青年と会っていた。


「ご挨拶が遅れましたことと、陛下の戴冠の儀に間に合わなかったこと、重ねてお詫び申し上げます」

「事前に話は聞いていた。気にしなくていい」

「ありがとうございます」


 青みがかった癖のある黒髪に灰色の瞳を持ち、今現在アルヴィスの隣にいる宰相を父に持つザクセン侯爵家嫡男、キリアス・フォン・ザクセン。王座に座るアルヴィスから少し離れた階下に膝を突き、顔を伏せている彼とは初対面ではないものの、さほど親交がある相手ではなかった。マグリアと同時期に学園に通っていたので、ちょうど王太子宮を訪ねてきていたマグリアにそれとなく人となりを聞いてみたのだけれど、返ってきた言葉は……。


『誤解されやすい人だが、悪い人ではないんだ。それに、どことなくお前にも似ているよ……何よりもその在り方がな』


 マグリアはキリアスのことをそう話していた。父である宰相は、本人を見てから判断してほしいと言われているので、それ以上の他者からの評価は耳にしていない。

 戴冠式には参列すると一時は知らされていたが、諸事情により王都への帰還が遅れると連絡があった。謝罪は宰相からも受け取っている。顔を上げるように伝えれば、キリアスは真っすぐにその瞳をアルヴィスへと向けてきた。その視線はまるでアルヴィスを見定めているようにも見える。注がれた視線を逸らすことなく、アルヴィスも真っ向からその視線を受け止めた。


「……」

「……」


 どちらともなく口を開かず、しばしの間沈黙が続く。どれだけそうしていたのか。キリアスがスッと口角を上げ笑みを溢した。


「陛下は真っすぐなお方ですね」

「……そんな風に言われたことはないが」

「真っすぐですよ。父とは親交があってもほぼ知らぬ相手と言える私が、不敬とも取れる行動をしても陛下は咎めることはなさらない。逸らすことも、言葉で逃げることもせず……ただ私の出方を見ているのですから」


 そういった意図があったわけではなく、ただキリアスという男を計りかねているだけだ。その思考も行動倫理もまだわからない。


「ただそうですね。先代陛下もそうでしたが、ルベリア王家の方々は甘いところがあります。陛下ご自身が暗殺されかかった件についても、例の元王太子の処罰についても」


 キリアスは淡々とアルヴィスへと告げた。アルヴィスが暗殺未遂に遭った折に行った後始末、ジラルドの処罰、そのどれもが甘いと。


「国外にいた私は、ルベリアに対する外からの意見を耳にしています。身の内にいては知らないことをしることができる」

「確かに国外にいれば、ここにいるよりもより客観的に物事を判断することができるな」

「その上で、陛下が行ったことは甘いと私は判断しました。例の元令嬢も、何故処刑せず放置しているのかも理解できません。世の中には、今回陛下が生かした者たちすべてを処するべきだという声も多くあるのです」


 そういった声があることはアルヴィスも知っている。今なお、リリアンが生きていることを不満に思う者たちが少なくないことも。


「っ……」

「宰相」

「……失礼しました」


 流石にこの状況は宰相も黙ってみて居られなかったらしい。だがそれもアルヴィスが止める。キリアスの言葉は貴重だ。アルヴィスもマラーナという国を見たけれど、それはあくまで通り過ぎただけの姿でしかなく、その声を聞いたわけではない。キリアスは実際にその国に赴き、人々と接し、声を聞いてきた。ましてや彼はアルヴィスの事情も心情も知らない。その意図も知らない。ゆえに真実、世論――一般の人々が感じる思いを口にすることができる。


「女神の加護という恩恵にあずかったこと、それは陛下の治世にとって大きな力とはなるでしょうが、それだけで動かせるほど国も人々も卑小な存在ではないのです」

「あぁ、わかっている」


 ルベリア王国の人々の多くが信仰している女神ルシオラ。その存在がアルヴィスと切っても切れないものとなってきていることは、誰よりもアルヴィス自身が理解している。スーベニア聖国ほどではないにしろ、宗教という存在が人々に与える影響は大きい。ましてや国王がその恩恵を受けているともなれば、より深い信仰心を抱くようになるかもしれない。そしてアルヴィスとルシオラを同一視することにもなりかねなかった。


「……」

「キリアス?」

「だから甘いと申し上げているのです。他の国であれば、陛下を非難した時点でつまみ出されます」


 そう言って目を伏せたキリアスの表情は、心底呆れたというものだった。アルヴィスからしてみれば、つまみ出すほどのことではない。もしアルヴィスがこの場からつまみ出すことがあるとすれば、斬りかかってきた時くらいだろう。それ以外のことで、この場から追い出そうとは思わない。何を言われようと、無礼を働こうとも話は最後まで聞くつもりでいた。


「挨拶ついでに何かしら外からの話を持ち出してくるという予想はしていた。つまみ出すほどのことを言われたつもりもないし、そもそもお前はルベリアの貴族の一員。話を聞いて当然だろう」

「陛下を非難するお話でもですか?」

「この国の外にいたお前は結果しか知らない。そこに至る過程も、事情も又聞きだ。見えていないものがあれば、思うことが違うことは当然のこと。それを非難だと決めつけるのは違わないか?」


 過ぎたことを議論するつもりはないけれど、見方が変われば景色も変わる。考え方も変わるのは当たり前だ。同じ結論に至ることができるとすれば、同じ景色を見て同じものを知り、同じ立場にいる者のみ。そもそも別の人間である以上、完全に一致することは難しい。ましてや同じ情報を持っていないのだから。


「確かに道理です。私は陛下を知りませんから、そういう意味ではお互いに納得することは今は無理ということでしょう」

「だろうな」


 どちらにせよ、結果には納得していない。ただ現時点の話だ。これからキリアスはルベリア王国に留まる。その上でどう評価が変わるかといったところだろう。


「キリアス、それでお前は宰相預かりということで配属が決まっているが構わないのか?」


 事前にキリアスはのちの宰相候補として名乗りを上げる想定でいた。多少帰還が遅れたが、その意志に変わりはないのか。宰相は国王の右腕としてその治世を支える役割。公私共にとまでは言わないけれど、それに近い形で傍にいることになる。己よりも国王を、国を優先することになる。国王に対する敬意がなければできないものだ。今現在、キリアスからそういう敬意は感じられない。無論、宰相とならなければいけないというわけではないので、その先はキリアス次第だが。


「構いません。私が仕えるに値するかどうか。これからの陛下を見て、私もその先を決めたいと思います」

「……わかった。宰相、後は任せる」

「はっ、承知しました。キリアス、こちらに来なさい」


 謁見の間での話は終わり。その後は親子の会話となるだろう。言いたいことがあると顔にはっきりと書いてある宰相に連れられるようにして、キリアスは謁見の間から出ていった。出る際に深々と頭を下げていたが、その仕草が全く同じだったのでアルヴィスは思わず笑みが零れる。


「とはいえ……あれがキリアスか。全く俺と似ている感じがしないんだけど、兄上……」



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