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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第三部

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閑話 婚約と想い


 リティーヌは今現在、西の宮に居を構えている。国王として即位したアルヴィスがエリナと共に住んでいた場所だ。何度も訪れていたので、勝手知ったる場所ではあるけれども、実際に住むともなれば色々と見えてくるものがあった。

 キアラの部屋は二階で広めの部屋を、リティーヌの部屋も二階にあるけれど小さい部屋にしてもらった。王太子夫妻の私室を使うわけではなかった。その二つは使えないと、二人とも拒否したからである。部屋数はそれなりにあるので、不便は一切ない。そもそもリティーヌはいずれここを出ていく身。西の宮に長く住む予定はないのだから。


「リティーヌ様、陛下からの通達がありました」

「お兄様から?」


 環境が変わってから四日。アルヴィスからの通達として文が届いた。国王となったアルヴィスは毎日忙しい。戴冠式を終えてまだ間もないのだから当たり前だろう。王城内も慌ただしいので、リティーヌも研究をすることなく、西の宮でキアラと共に大人しくしていた。そんな中で届いたもの。何か緊急のようだろうかと文を開く。


「……これ……」

「リティーヌ様?」

「リヒトとの婚約成立したって。お兄様から」

「まぁ!」


 手を叩いて喜ぶ姿にリティーヌ付きの侍女であるジャンヌが口に手を当てるようにして声をあげた。その声色は嬉々としていて、この婚約を喜んでくれていることが伝わってくる。


「良かったですね、姫様!」

「ジャンヌ、私はもう王女じゃないのよ」

「いいではありませんか。私にとっては姫様ですもの。それにしても、嬉しゅうございます!」

「……そうね、ありがとう」


 アルヴィスが即位し国王となったことで、リティーヌは王女という立場ではなくなった。王族の姫ではあるけれど、王の娘ではないのだから。それでも興奮しているジャンヌには通じない。それだけ喜んでくれているのは嬉しく、リティーヌもそれ以上強くは言えなかった。言ったところで、この場にはジャンヌとリティーヌしかいないのだけれど。


「近いうちに日程についてのすり合わせをリヒトとしてほしいって書いてあるわ。あとは二人で決めてっていう感じね」


 婚約成立について、貴族たちへ周知済みとも書いてあった。新年の儀から内定しているようなものではあったが、こうして実際に成立したと言われると不思議である。


「姫様、どうかなさったのですか?」

「不思議ねって思ったのよ。私が望む相手に嫁ぐことができるなんて、夢にも思っていなかったから」

「……私はその相手がアルスター卿であることの方が驚きですけど」


 ジャンヌからすればリヒトはリティーヌに不遜な態度を取っていた平民でしかなかった。アルヴィスの友人であるということを踏まえても、決して好ましい相手ではなかったと。


「あの出会いがまさかこんな形になるなんて、想像さえしてませんでした」

「それは私も同じよ。兄様も驚いていたもの」

「陛下からすれば、全く知らないところでお二人が出会っていたのですから当然でしょう」


 昨年に開かれたアルヴィスの生誕祭。そこでリヒトと公的な場で顔を合わせた時、リヒトとリティーヌとのやり取りにアルヴィスは驚いていた。いつの間に出会っていたのかというよりも、リティーヌが気安く会話していることに驚いていたように思う。リティーヌの世界が狭いことをアルヴィスは知っていた。だからこそ予想外だったのだろう。


「私もあんなに自信家で、自分勝手な人は初めてだったわよ」


 いつだって自信に満ちていて自然体だった。平民だからと蔑むどころか、天才だとひけらかす。相手がどんな立場であろうともリヒトの前では関係なかった。だからこそリティーヌも王女ではなく、ただのリティーヌとしていられたのだろう。それが心地よかった。それが始まり。リヒトとリティーヌの関係の。

 研究所にいけば、いつだってリヒトがいた。会話するのが楽しかった。それでもどこかで無理だと思っていたのだ。この想いが恋心になったところで、その先はないのだと。どれだけ気にしないといったところで、現実はそう簡単じゃない。だから黙っていた。気づかないフリをし続けていた。


「私は姫様、リティーヌ様についていきます。この先もずっと」

「苦労させてしまうわよ。王城にいた頃とは全然違うもの。リヒトはそういうところ無頓着だろうし」


 婚姻してもジャンヌはリティーヌに付いてきてくれるという。有難い申し出だが、ジャンヌは既婚者で騎士団に夫がいる。王城で過ごすときとは違い、行き来だけでも面倒になってしまうだろう。


「問題ありません」

「でも――」

「二人でリティーヌ様の下に向かいますから」

「え?」

「夫も、騎士団から姫様の護衛にと希望を出してくれるそうです。後宮の近衛隊士はキアラ王女のために残さなければなりませんので連れていけません。とはいえ数人はリティーヌ様と共に向かいますけど、それでも足りませんから」


 降嫁するとはいえリティーヌは王族。確かに護衛は必要だ。そこにジャンヌは夫婦そろって付いてきてくれると。


「ありがとう、ジャンヌ」

「これからもお傍にいさせてください。不届きなことをしようものなら、夫に成敗してもらいますからご安心を」

「……ほどほどにお願いするわね」

「承知しました」


 そんなことを話しつつ、リティーヌはジャンヌと顔を見合わせて笑い合った。


 





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