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3話


 国王の執務室でテーブルを挟むようにしてアルヴィスはラクウェルと向かい合って座っていた。こうしてラクウェルと正面で向かい合って座るという経験はあまりない。そのことにどこかくすぐったさを感じる。


「この部屋にお前が主としていることを実感すると、感慨深いな」

「昨日の今日で、俺もまだ慣れていませんが」

「それはそうだろう。昨日の朝までは兄上がここの主だった」


 昨日の朝。戴冠の儀を終えた瞬間から、この部屋の主はアルヴィスとなった。雰囲気も多少なりとも違っているのだろう。ラクウェルは室内を見回してから、改めてアルヴィスを真っすぐに見つめる。

 今のアルヴィスは王冠こそ被っていないものの、王太子として動いていた時の様相とは違っていた。この部屋にいる時はマントを羽織るようにしている。戴冠の儀で身に着けたような厳かなものではなく、身動きしやすい軽いものだった。


「兄上はしばらく我が家に滞在することになっている。シルヴィ殿にも了承は得ているが、お前もその方がやりやすいだろう?」

「お気遣いありがとうございます。ですが伯父上はそれでいいのですか? キアラたちに会う機会もそうそうなくなりますが」


 西の宮にキアラとリティーヌは移り住んでいる。王城の外に滞在しては、元国王だとしても会う時間を設けるにはそれなりの手続きが必要となってしまう。近いうちに王都を出るギルベルトからしてみれば、リティーヌは元よりキアラとも今のうちに会っておきたいのではないだろうか。


「流石の兄上も寂しいと感じているらしいが、この先は関われることもない。手を離すと決めお前に任せると決断したのだ。今会ったところで未練がましくなってしまうだろう」

「……そうかもしれませんね」

「キアラ王女は見た目以上にしっかりとしている。先の視察でもそう感じた。父親の手など必要ない。親としては寂しい限りだがな。それも兄上の自業自得という奴だ」


 父親としてギルベルトはキアラにもそう多く関わってこなかった。リティーヌのことがあったからこそ、余計に距離を掴みかねていたのかもしれない。だから一度はキアラを手元に置き、父親として傍にいたいと望んだのだろう。けれどもその手を離すと決めたのだ。ゆえにもうその手をキアラに伸ばすことはしない。その判断をラクウェルも推した。ギルベルトが王城に出向くことはあっても、もうキアラたちと会うことはない。


「お前も時間があるわけではないだろう。早速本題に入ろうか」

「はい」


 ラクウェルを呼んだのはアルヴィスだ。特に時間を定めてはいなかったが、昼前には来てほしいと伝えていた。その要件というのはもちろんリヒトの件だ。リティーヌとの婚約が内定していることは貴族間では既に知れ渡っているだろう。それを確定するために、ラクウェルの力が必要だった。


「リヒト・アルスター。私の方でも多少調べさせてもらった。お前もリティーヌも認めているのだから悪い人物じゃないのはわかる。調査でも悪い報告が上がっていない。だが、そう安易にベルフィアス公爵家が後見人を務めることに頷くわけにはいかない」

「えぇ」

「前国王が認め、褒賞を得るほどの功績を得たこととは別に、ベルフィアス公爵家として実際に会い、人となりを見定めたい」


 アルヴィスが息子だからと、無条件にすべてを飲むわけにはいかない。褒賞を得るまでの相手だとしても。


「とはいいながらも、私も姪の婚約に関わるというのだから、叶えてやりたいのは山々だがな」

「それとこれとは別だということは俺もわかっています。だからこそ父上にお願いしたいのです。何よりも、リティには幸せになってもらいたい。これまでリティは沢山のことを諦めてきましたから」

「わかっている。あの子は王家の柵にとらわれ過ぎていた。そこから解放してやりたいとお前が望んでいるのはわかっているさ」


 女児であり継承権が与えられなかったが、長子であったがために弟と比較されてきたリティーヌ。学園にも通いたかっただろう。王城の外に出て、花の研究を精力的にやりたかったかもしれない。だがリティーヌに許されたのは王城内だけでの制限された自由。そんな限られた世界で生きてきたリティーヌが出会うことができた相手がリヒトだ。そのことを大切にしてやりたいというのは、ラクウェルとて同じ。


「三日後、リヒトを交えて色々と今後の動きについてすり合わせを行いたいと思っているのですが」

「ならばその前に、私は(くだん)の人物と会ってこよう」

「……リティも呼びますか?」

「いや……彼と二人だけで話がしたい」


 ラクウェルがリヒトと会いたい理由はわかるし、見定めてから内容を詰めたいということなのだろう。その場にリティーヌを呼ぶでもなく、二人だけで腹を割って話をしたいと。


「それは公爵としてですか?」

「無論だ。お前の父として、リティーヌの叔父としてならば、即座に許可してもいいくらいだからな」

「流石にそれは安易すぎます」

「お前たちの目を信頼している。それだけだ」


 ただ当人たちはそれでいいとしても、貴族社会はそう簡単ではない。すべてわかった上でラクウェルは動いてくれるという。これほど心強いことはない。おそらくリヒトにとっても。


「よろしくお願いします、父上」

「あぁ」


 


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