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2話

いつもご覧いただきありがとうございます!

ルベリア王国物語の書籍版の刊行ノーベルであるオーバーラップノベルスf様より

レーベル創立5周年記念として、書き下ろしイラストを使ったグッズの予約が開始されました!

もし、興味がある方がいましたらサイトを覗いてみて下さい(*´ω`)


対象作品となったのも、読んでくださる皆さまのお陰です!

web版も含め、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ



 グレイズからの手紙。そこに書かれていたのは、簡単な挨拶とマラーナの件についての補足事項だった。帝国にある港町には、マラーナの元貴族が数人押し寄せてきたという。事が起きる前にスーベニア聖国へと亡命したものの、満足な待遇を得ることができずにザーナ帝国に助けを求めてきたと。だがそこでひと悶着が起きた。

 スーベニア聖国からザーナ帝国に入国する形となったため、その身元確認を行っていたときのことだ。彼らは自らをマラーナ貴族であると持ち出し、待遇について改善を求めてきた。改善も何も、まだ身元確認の段階であるため、何をどうすることもできない。けれど彼らは己が優遇されることを当然と考え、帝国側の対応に不満をあらわにした。


「面倒ごとが来たか……」

「帝国側で何かあったのですか?」

「マラーナの元貴族たちが少しもめごとを起こしたという報告だった」


 マラーナという名前が出てきたことで、エドワルドの表情が厳しいものへと変わる。最早ルベリア王国では最悪の印象しか抱かない国名。マラーナ国というのは既に形として失われた。あの土地にいるのは、元マラーナ王国の民。それを束ねる役割は元王族のガリバースではあるけれど、既に多くの人々は土地から離れつつある。あの土地に残っているのは、行く当てのない者や離れることを良しとしない頑固者たちばかりだ。

 そんな中、離れた者たちの多くが移住先として求めたのがスーベニア聖国。あの国は宗教国家であるため、信仰心が全てだ。信仰心さえあれば、たとえどのような過去を持っていようとも受け入れるという国。逆に言えば、信仰心がなければ受け入れられることはない。そうした一部の者たちが帝国へと居場所を求めた。既に彼らに貴族という地位はなく、何かを求める権利も力もない。あることが当然だったものはすべて失われているというのに、それを主張し帝国で騒ぎを起こした。グレイズからしてみれば、それはほんの些細なこと。けれども念のためと前置きしてアルヴィスへと伝えてくれた。


「大した事じゃない。既にグレイズ殿が処理しているし、ルベリアが同行する必要もない。ただ情報の共有はしておいた方がいいだろうということだった」

「そうですか」

「わざわざ手紙という形をとったのは、あまり声に出して伝えることでもないからだろう。血なまぐさいことをエリナには知らせたくないしな」


 そういう気遣いもあったのだろう。アルヴィスは手紙にマナを込めると、そのまま燃やし尽くす。残しておいて誰かの目に触れさせるわけにはいかないものだ。だからこそグレイズも返事は不要と言ったのだから。


「エド、疲れているところ悪いが、リヒトに伝えてほしいことがある」

「何でしょうか?」

「三日後くらいでいい。時間をとってもらいたいんだ。父上とリヒトとで色々と打ち合わせをしておきたい」

「……叙爵と、リティーヌ様とのことですね」


 エドワルドにアルヴィスは頷く。今日明日は予定が詰まっているため動けない。四日後にはラクウェルが公爵領へと戻ってしまう。つまり空いているのはその日しかなかった。といっても終日時間があるわけではないので、こちらに予定を合わせてもらわなければならないけれど。


「承知しました。お伝えしてきます」

「頼む」


 頭を下げたエドワルドが執務室を出ていくのを見送って、アルヴィスはゆっくりと息を吐いた。

 体制が変わったルベリア王国。王はアルヴィス、王妃はエリナとなった。後宮の主はエリナとなり、今は限定的に元王妃であるシルヴィが滞在している。キアラとリティーヌの二人は、王太子宮……この後は西の宮という呼称を使うことになっているが、そこに住居を移している。といってもリティーヌは状況が整うまでの限定的な居住だ。後々、西の宮はキアラが主となっていく。

 リティーヌの状況が整うというのは、リヒトとの関係が明確な形となって落ち着くまでということだ。新年の儀でリヒトは褒賞を受け取ることになっていた。望むものを何でもという当時の国王ギルベルトの言葉に返す形で、リティーヌを求めた。その時点で二人の婚約は内定したも同然ではあるが、リヒトが平民である今は現実的ではない。そのための環境を整える必要がある。


「ベルフィアス公爵家が後見につくことで、ある程度下世話な対象にならなければいいんだがな」


 リヒトは領地を持たない法衣貴族になる予定だ。貴族としての最低限の務めである社交界、国の行事参加や税を納めるなどを除けば、これまでの生活と大きく変わることはない。ただそう言えるのは、アルヴィスが貴族家の生まれだったからだろう。実際にリヒトがどう思うかはわからない。アルヴィスらからすると当たり前であることが、リヒトの当たり前であるとは限らないのだから。

 アルヴィスは立ち上がると本棚に収められている分厚い書物を手に取った。この書物の内容は法典。机の上に書物を置き、頁を捲る。何度も見たことのある書物だ。確認したい事項がどの頁に記載されているのかは把握していた。


「……」


 王族との婚姻が認められる最低限の爵位。それは高位貴族とされている。爵位でいえば伯爵位相当から。だがリヒトは平民だった。どれだけ功績を上げようとも、いきなりその爵位を与えることはできない。だからこそ後見はベルフィアス公爵家でなければならない。

 コンコン。

 そこへ扉が静かに叩かれた。執務室の端に立っているディンに目配せをして頷く。アルヴィスの意図をくみ取ったディンが扉を開いた。相手が誰かを確認し、中に入るように促す。姿を見せたのは、今まさにアルヴィスが思い描いていた人物、父ラクウェルだった。





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