幕間 暗躍とその姿
次回から新たな部です!
この先もこの物語の行く先を見守っていてください(*´ω`)
昏い夜、マラーナ王国の城。今はもうかつての華々しい姿など一切ない、廃れた城の更に奥。そこから向かうことのできる森。狩りなどが行われていたのはいつだっただろうか。そこには昏く深い湖があった。
「ほんと、いい駒ではあったんだけどね」
湖の傍に姿を現したのは少年。金色の髪の一部が闇に染まり、それらの前髪の奥には怪しく光る赤い瞳があった。
「瘴気の発生源か……よくもまぁそんな言い訳を作ることができたものだね。そうしたのは貴女だというのに、ルシオラ」
少年の赤い瞳が鋭い眼光でもって水面を見据える。何もない湖。だが少年は知っていた。そこにあるものが何かを。
「アルヴィス、か。今のルベリア王太子……あの姿、その力。本当にそれは偶然なのかな。あいつが契約するルベリア王族は、前の奴だって同じ姿だったってのに。まぁあの時はそういう意図はなかったっけ。ただ瘴気を減らしたかっただけで……それでも女の方がいいのに、わざわざ僕に似た相手を選ぶところが姑息なんだよ……」
女神が選ぶ契約者。それは女の方が良い。同じ器を持つ存在同士の方が馴染みやすいから。そしてそもそも契約者を選ぶのは、神という立場になってしまったものが現世に対して接触できるために、である。どちらにしても、神による傲慢さの結果でしかない。そう、アルヴィスも、テルミナも。
契約を行う神は少ない。創世神話に出てくる神々の中で最も名の知れた存在なのは、ゼリウムとルシオラ。子どもでも知っている名だ。それ以外の神々について知るのは、スーベニア聖国出身者か、熱心な創世神話信者のどちらか。バレリアンの名が浸透しつつあるのは、テルミナの影響に他ならない。それか、最期までルシオラと共に戦ったという物語の所為か。
「まぁどちらでもいいか。あれから何千年も待ったんだから。僕と同じく、あいつの血を濃く持つ存在を」
昏き夜、雲が風に流されていく。そうすると姿を見せるのは月。闇夜の中で強く輝く光を持つもの。女神ルシオラの紋章の中で、最も強い存在感を示している存在。月はルシオラ、太陽はゼリウム。創世神話では描かれていないが、その二人には子どもがいた。月と太陽の子。太陽を色濃く受け継いだ子が。
「因果なことだね……ほんとうに、ねぇ父さん」
月明りの下、少年の纏う服がはためく。その時、何かの形を模したものが首筋に見えた。ルシオラの加護を受けたアルヴィスのそれと、よく似たもの。だがそれは一瞬のことで、直ぐに覆い隠されてしまう。
口元に弧を描いた少年は、空を仰ぐ。月の形が赤い瞳に映しだされた。はっきりと見える少年の顔だち。雰囲気は違うものの、それはまさにアルヴィスのそれと酷似していた。年齢だけでいえば、アルヴィスの方が上に見えるだろうが、顔立ちは同じ。髪と瞳の色を除けば、瓜二つと言っていいだろう。
「僕はあんたも憎い。僕を裏切ったあいつも、あんたも……それに賛同した連中も」
赤い瞳が色濃く輝く。鋭利さが増した瞳が見つめる先にあるのは月だ。
「たった一つ、大事なものを守れなかったあんたたちを……僕は絶対に許さない。その上で生きている今の人間たちも……何よりもあのスーベニア女王も、それにルシオラの血筋も」
少年の周囲に闇色の霧が立ち込めていく。負の感情、陰の気配。言葉は違えど、それは人々が瘴気と呼ぶものだ。それが少年を取り巻くように渦を巻きながら、空へと上がっていく。
「何かを犠牲にする世界なんて……そんなものは必要ない。思い知らせてやるよ……そしてあんたを、今度こそ僕が殺す、ルシオラ」
いつも誤字脱字報告ありがとうございます!
毎度申し訳なく思いつつ、とても感謝しております(*- -)(*_ _)ペコリ




