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15話

 

 息苦しさに目を開ければ、そこには不安そうにしているエリナの姿があった。


「アルヴィス殿下っ、わかりますか?」

「はぁ……エ、リナ嬢……ここは……」


 周囲を見回せば、己の部屋であることがわかる。レックスかディンが運んでくれたのだろう。アルヴィスはゆっくりと身体を起こそうとすると、エリナが背中を支えてくれた。


「ありがとう、ございます……」

「……その、お身体はお辛くはありませんか?」

「えぇ……また、心配をさせてしまったようですみません、エリナ嬢」

「アルヴィス殿下……」


 返事の代わりに苦笑するアルヴィス。エリナは何か言いたいことを堪えるように口を噤んだ。


「……申し訳ありませんが、レックスを呼んでもらえますか?」

「あ……はい、わかりました」


 タタタタと足早に去るエリナ。恐らくは目覚めるまで、ずっと傍らにいてくれたのだろう。この間のように。その証拠に左手には微かに温もりが残っていた。


「……これじゃあ婚約者じゃなくて、夫婦だな」


 眠る度に、エリナは手を握ってくれているようだ。それが不安からなのかどうかは、アルヴィスには知り得ない。しかし、こうして毎日のように部屋に通われると、それが当たり前になってくる。不安を安心に変えるために、アルヴィスの元にいるとすれば懸念しなければならないことがある。


「トラウマになっていなければいいが……」


 依存という形になっていないことを祈るしかない。温もりが残る掌を見つめていると、そこへ扉が開かれる。


「……お邪魔するぜ」

「ルーク隊長? 副隊長も……」


 部屋に入ってきたのは、アルヴィスが呼んだレックスだけではなく、ルークやハーヴィもいた。人数が多いことは構わない。アルヴィスは人払いを頼んだ。間違ってもエリナの耳には入らないようにだ。


「ちょうど様子を見に来たんでな……それで、大丈夫か? 話しても」

「俺のことはいいです。それより……急ぎ、確認をしてほしいことがあります」

「……ったく仕方ねぇな。それで、わかったことは?」


 アルヴィスが視たのは、ザザ視点ではあるが、とある連中の会話だ。そこにいた登場人物。商人と貴族。その繋がりと、リリアンとの関係。その目的を話す。全てアルヴィスが視たというだけで、証拠がない。


「状況証拠で追い詰めることもできるが……今回は、流石に負傷した王太子殿下を連れ出すわけにはいかないからな」

「っ……」

「隊長、そこは私が何とかやりましょう」

「ハーヴィ……珍しいな、お前がやる気になってるなんて」

「我が国を侮っているような輩みたいですし、手心は必要ないようですから。ですから殿下……後は我々に任せて、貴方は身体を治すことだけを考えて下さい」


 ハーヴィは話術に長けている。誘導尋問によって証言を出させることを得意としているのだ。それでも吐かない場合は、拷問に近いことも平気で行うようなところがあった。視たままを話して証言を得るアルヴィスの方が、犯人にとっては良かっただろうが。

 どちらにしてもアルヴィスは動けない。ハーヴィが向かうのなら、(まか)せても大丈夫だ。


「……副隊長、お願いします」

「そういう時は、命令して構わないのですよ。貴方は、既に我ら近衛隊の主に等しいのですから」

「……そう、ですね」

「レックス、ディン……アルヴィスとリトアード公爵令嬢のことはお前らに任せる。次はないからな」

「「はっ」」


 時間が惜しいとばかりにルークとハーヴィは出ていった。これから、捕獲に動くのだろう。あとは、結果を待つだけ。


「はぁ……傀儡にする、か」

「アルヴィス?」

「…………たかが一人の令嬢に骨抜きにされると言われるほど、俺は侮られてるようだな……」

「……そりゃ、学園の令息らが夢中になったとんでもない令嬢という噂だからな。……お前のタイプではなかったのか?」

「タイプも何も……根本的に違う。俺は……他の誰かなど望んでいない」


 尤も、正確には誰かを望んでいる訳ではないのだが。

 万が一、リリアンが側に来たとしても、アルヴィスが受け入れることはない。容姿が優れていようとも、アルヴィスが今の立場になる原因を作った相手に、好意を抱くはずがない。むしろ、逆の感情を持つだろう。


「そうかよ……」

「殿下、レックスも。お喋りはそこまでに。……殿下、片付くまではリトアード公爵令嬢と共にいるようにしてください」

「警護のため、か。わかった……出るついでに呼んできてくれ」

「はい。では。行くぞ、レックス」


 二人が出ていくと、アルヴィスは一人きりになる。ベッドに倒れ込むと、深く息を吐いた。流石に疲労感を覚えてしまう。


「これで、片が付けばいいが……」


 王国の近衛隊は優秀だ。恐らく騎士団も動かすだろう。アルヴィスの負傷ではなく、謀反を企んでいるとでも罪名を造って。それ自体は嘘ではない。どのように追い詰めるかは、ハーヴィの手腕にかかっている。万が一にも、取り零しはしない筈だ。

 そんな事を考えながら、アルヴィスはうつらうつらとし始めた。



多くのブックマーク、評価、そして感想ありがとうございます。

本日をもって投稿してから1ヶ月となりました。連日投稿出来たのも、皆様のお陰です。

至らない点も多く、誤字脱字の指摘も沢山頂いております。文章の表現の仕方についてもアドバイスを頂きました。この場をお借りして感謝を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。


これからも本作品を宜しくお願いします。



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