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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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27話

書籍版では先に匂わせがありましたが、こちらでもその関係性は変わりません。

エリナの前とシオの前のアルヴィス、違いがはっきりと判りますね(笑)


 戴冠の儀に身に着けていた正装は赤を基調とした正装だったが、夜会で身に着けたのは藍色を基調とし、白色を指し色として入れた正装を纏った。対するエリナは水色を基調としたドレスを纏っていた。

 夜会の登場はアルヴィスとエリナが最後で、挨拶を終えたところで歓談、ダンスの時間となる。


「アルヴィス様、ラナリス様のことが気になるのですか?」

「いやまぁ、気にならないといえば噓になるか」


 ファーストダンスを終えて、アルヴィスたちの周りでもダンスを楽しむ人々の姿が見られた。エリナと続けてダンスを踊るのも毎度のこととなっているので、アルヴィスにダンスを請う令嬢たちの姿もない。それでも視線を向けられていることには気づいている。その上で、アルヴィスが別のことを考えているとエリナは気が付いたのだろう。


「先ほど、お義父様が公開すると仰っておりました。その相手についてアルヴィス様はご存知なのですよね?」

「あぁ。在学中に決めるというのは以前から言われていた。俺のところにも知らせは来ていたし、当然相手も知っている。知ってはいるんだが……改めて公開されるとなると、複雑な気分だなと」

「まぁ」


 目の前のエリナは楽しそうに笑う。母親となってからのエリナは、以前よりも穏やかに微笑むことが増えた。婚姻をする前は、どちらかというと憂いを帯びた表情をすることが多かったし、そうさせる原因はアルヴィスにあったので、エリナがどうというわけではないのだけれど。それでも今は何か角が取れたような、心から穏やかな表情を作るようになったように感じられる。綺麗な笑みではなく、何かを包み込むような雰囲気を纏っている。


「アルヴィス様はラナリス様を大切に想っていらっしゃいますから、そう思ってしまうのも無理はないと思いますよ」

「……大切、には違いないが」


 同母妹であるラナリスは、他の弟妹よりも特別なのは間違いない。ただその意味するところは、恐らくエリナが考えているものとは違う。

 王立学園での創立記念祭の時、アルヴィスはラナリスと話をした。婚約が整うことと、その覚悟について。アルヴィスが即位した後、ラナリスの立場が変わってしまうのはわかっていたことだし、今更と言えば今更な話だ。それでもあえてラナリスはアルヴィスに言葉として告げてきた。それ自体がラナリスの意志表明だったのだろう。アルヴィスの妹として、ラナリスも覚悟を決めていると。だから、こちらのことは気にしなくていいと。


「学園の創立祭に俺が顔をだしただろ?」

「はい」

「その時に話をして……ラナも守られるだけの子どもではなくなったんだなと、そう感じたよ」


 学園に入学する前の印象がどうしても抜けきらない。弟妹に対しては特にそうだ。いつまでも幼い子どもではないのに、どこかで幼い印象のままに弟妹たちのことを考えてしまう。それではいけないのだと、改めて言われた気がした。


「それとは別に、相手がよく見知った相手というのがな……あいつに兄と呼ばれるのは遠慮したい」

「アルヴィス様ったら」


 大きく溜息を吐く。この場には不似合いだとわかっていても、そうせざるを得ない。幸い、エリナが楽しそうに笑っているため、他愛ない会話をしているとしか周囲も受け取らないだろう。


「良縁だと思いますよ。私も、ハーバラ様と縁続きになることが出来るのはとても嬉しいです」

「そうか」

「はい」


 心から嬉しそうにするエリナに、アルヴィスも笑みを向けた。複雑な想いはあるが、エリナの言う通り良縁なのは間違いない。アルヴィスの立場からしても、悪くない組み合わせ。わかっているし、不満がないからこそ複雑なのだ。


 エリナとのダンスを終えたアルヴィスは、その足でラナリスの下へ向かった。傍にいるのは父であるラクウェルと、アルヴィスの友人であるシオディラン、その父であるランセル侯爵だった。アルヴィスとエリナの姿を見て、彼ら全員が頭を下げる。


「皆、頭を上げてくれ」

「はっ」


 この場では身内であっても臣下。その姿勢を崩さないラクウェルにも最早慣れてきた。以前ならば出てこなかった言葉も、すらすら出てくる。それだけアルヴィスも今の立場に慣れたということだ。


「ここからは私的な立場で話させてもらうから、楽にしてくれ。ランセル侯爵、シオも」

「承知しました」


 ランセル侯爵が頷くのに合わせてシオディランは目線だけで返事をした。こうした場にシオディランが父親といることは珍しい。実際、アルヴィスもランセル侯爵とは単独で会う機会の方が多かった。こうしてみると、シオディランはその顔つきも父親似なのがよくわかる。ハーバラは母親似なのだろう。二人とも髪色は父親であるランセル侯爵のモノを受け継いでいる。


「陛下、それに王妃殿下、直接お祝いを申し上げる機会が遅れましたことお詫びいたします。第一王子殿下の誕生、おめでとうございます」

「ありがとうございます、ランセル侯爵様」

「ありがとう。祝いの品も受け取った。ただ、次は私の方から贈らねばならないだろうな。だろ、シオ?」


 名指しをすることで話に加わらざるを得ない状況を作ると、シオディランは腰に手を当てながら息を吐いた。


「……それは妹君に。私は不要だ」

「お前、せめてその無表情はやめろ。ラナの隣に立つのが不満か?」

「そういうわけじゃない。私はこれが普通だ。お前も知っているだろ」


 無論知っている。この男が仏頂面がデフォルトだということは。何年もの付き合いで心から笑った顔を見たことは数えるほどしかない。眉をひそめていることの方が多いくらいだ。不敵な笑みや作り笑いは見たことはあるが、それは大体が不機嫌な時である。わかっていても、この場で公表するのだからせめて笑みくらいは見せてもらいたいものだ。


「ラナ」

「は、はい」

「少し俺に付き合ってくれるか?」


 シオディランの仏頂面は放置したままで、アルヴィスはラナリスに手を差し出した。驚きながらもラナリスは差し出された手に己のそれを重ねてくる。


「エリナ、少しラナと踊ってくる。ここで待っていてくれ」

「わかりました。いってらっしゃいませ」

「シオ、戻ってきたら公表する。それまでにその表情を崩しておけ」

「……」


 返答はなかったが、アルヴィスは構わずにラナリスをダンスの輪へと連れ出した。




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