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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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25話


 国民たちへのお披露目を終えたエリナとアルヴィス。控室に戻り、アルヴィスはルトヴィスをエリナへと渡した。


「ではアルヴィス様、私は一度宮に戻ります」

「あぁ」


 大人しくエリナの腕に収まっているルトヴィスの頭を撫でる。疲れたのかルトヴィスの目は閉じられていた。まだ何もかもがわかっていない赤ん坊だが、今頃城下の人々の噂の中心にいることだろう。それをルトヴィスはまだ知る必要はない。


「アルヴィス様?」

「何でもない。また後でな」

「はい」

「私も一度失礼いたします」

「よろしくお願いします、義姉上」


 エリナと共にミントも控室を出ていった。本来ならばミントも次期公爵夫人としての立場がある。それでも今はルトヴィスを優先してくれていた。母親であるエリナが公式行事、しかも戴冠式という儀に参加しないわけにはいかない。だからこその人選であり、マグリアもアルヴィスもわかった上でミントにお願いをしており、ミントも理解して引き受けてくれているのだ。それでいても、ミントには疲労感が見え隠れしていた。当然だ。相手は甥とはいえ第一王子。精神的疲労を感じないわけがない。この後夜会の前に、ベルフィアス公爵家の者たちを王太子宮に招くことになっている。そこが多少なりとも、ミントにとって気を抜ける場であればいいのだが。


「アルヴィス様、お着替えを」

「わかった」


 夜会まではまだまだ時間がある。来賓たちもしばしの休息というわけだ。同じようにアルヴィスもようやく一息つける時間でもあった。王冠を取り、ジュリンナへと渡す。この先はもう王冠を被る必要はない。厳かなマントを脱いだアルヴィスは肩に手を置き、軽く腕を回した。


「マッサージをしましょうか?」

「……大丈夫だ。ありがとう、アンナ」

「いえ」


 侍女として相対していると、アンナが裏の人間だということを忘れそうになる。傍に付いたばかりの頃ならばいざ知らず、今となっては影という認識の方が強くなっているため、こうしてたくさんの人たちの前で自然に侍女として振舞われるとその演技力に感嘆せずにはいられない。

 控室から執務室へと戻ったアルヴィスは、正装から普段着へと服装を変える。左耳につけている装飾品も外し、完全にいつもと変わらない状態になったところでアルヴィスはソファーに腰を下ろした。


「何か召し上がりますか?」

「そうだな、頼むよ」

「承知しました」


 イースラが持ってきた軽食を口にし、紅茶を飲みながらこれからの予定を改めて確認する。今日の公的な予定は夜会を残すのみとなった。無事にここまで終えることが出来たことに安堵しつつ、大聖堂から帰った時の疲労感は抜けきっていないことに苦笑する。倒れるとまではいかないものの、アルヴィスを知る者が見れば気づかれてしまうだろう。

 私的な用事として、王太子宮で父たちと会うことになっている。彼らにルトヴィスを会わせるために設けた時間だった。約束した時間までは二時間といったところだ。両親を初めとして、心配をかけるわけにはいかない。それまでに可能な限り、体調を戻しておきたかった。


「イースラ」

「はい」

「仮眠をとってくる。一時間後に起こしてくれ」

「……もう少しお休みになられた方が宜しいのではありませんか?」


 アルヴィスがどこか本調子ではないことをイースラも知っている。だからこその気遣いだとわかっているが、アルヴィスは首を横に振った。


「今日が終われば休めるから大丈夫だ」

「本当に頑固ですね。わかりました。ひとまず時間になりましたら起こします」

「助かる」


 呆れた顔をしながらもイースラは承諾してくれた。長い付き合いだからこそ、これ以上言っても無駄だとわかっているのだ。上着を脱いでソファーの背もたれに掛けると、アルヴィスは寝室へと入った。


「ふう」


 そのまま背中からベッドに倒れこむ。ようやく一人きりになれる。そう考えながらアルヴィスは目に腕を当てるようにして見える景色を覆い隠す。

 朝からずっと傍には誰かいた。いつも以上に、視線を浴びていた。当然なことだとわかっている。戴冠の儀にて、あの場にいた全員から注がれる視線。あの緊張感はこれまでに感じたことのないものだった。あれがどういう意味を持つのか。アルヴィスとてわかっていた。

 あの場にいる人数以上の視線を、目に見えて居なくともアルヴィスはこの先受けることになる。ルベリア王国に生きる者たちから、その他の国に生きる者たちからも。王太子であった頃よりも、自由には動けなくなる。それは国を出れないとか、王城から出れないと言う物理的な意味ではない。


『今日からお前が、ルベリアの王だ』


 伯父から告げられた言葉。家族としての付き合い方においては伯父に対し敬う気持ちはない。けれどああいった場面において、王とは何かと問う場面においてはその威厳を感じることはある。かつて建国祭においてもそうだった。


『ただ都合がいい、それだけでお前を選んだわけではない』

『王は自ら動くのではなく、動かす者だ』


 その言葉を告げられたのがもう遠い日のようだ。今、アルヴィスはその伯父から王位を受け取ったのだから。

 そのようなことを考えながら、アルヴィスは眠りに落ちていった。


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