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14話

 

 同じ日の昼頃。アルヴィスは寝室で国王と対面していた。二人だけで話がしたいということで、人払いをしてある。


「……今回は、ご心配をおかけしました」

「そうだな。目覚めの報告を聞くまでは、気が気ではなかったが……だが、良く戻ってきてくれた」

「はい……」


 ベッドから起き上がれないアルヴィスは上半身だけを起こしている状態だ。国王は椅子に座っている。国王を少し見下ろす形にはなるが、この場合は仕方がない。


「容態は報告を受けている。今は養生することを優先すればいい」

「はい……わかっています」

「それと……お前のことは、ラクウェルとリトアード公爵以外には伝えていない。近衛隊もルークと、他数名のみだ」


 箝口令が敷かれている。それはレックスからも聞いていたことだ。下手に情報を与えることもない。貴族らに己の負傷が伝わっていないことだけで、アルヴィスは安堵していた。不安要素は少なければ少ない方がいい。


「それと、エリナ嬢だが……まだ判明していないことが多いことから、外に出すわけにはいかん」


 狙いがエリナならば、学園に戻すことも危険だ。しかし、城に留めておくのにも限界はある。ならば、直ぐにでも黒幕を捕まえなければならない。


「……伯父上、犯人は今どこに?」

「アルヴィス?」

「私が倒れてから、4日は経っています。5日以上経てば、流石に追えません。今ならばまだ間に合います。私を犯人の元に行かせてください」

「だが、お前はまだ動けぬだろう。無理をすれば―――」

「亡骸には、マナを保つことができません。日にちが経過すれば、それだけ足跡を追えなくなります」


 いくらアルヴィスの力でも、マナが消えれば何も出来ない。アルヴィスはマナを読み取ることができる。人は誰しも必ずマナを持っており、そのマナにはその対象の記録が宿っており、その記録をマナを操作して読み取っていくのだ。だから、マナ自体がなければ話にならない。


「伯父上の許可があれば、ルーク隊長も認めざるを得ないでしょう。無茶無謀は承知です。ですが、道筋は近い方がいい」

「……一理ある、か。調査部隊の進捗も芳しくない。致し方ないかもしれんが……」


 だがすんなりと認めるわけにはいかない。そう国王の顔に書いてあった。今回の事実を突き止めることができるなら、多少の無理は仕方ないとアルヴィスは思う。国王の許可なくとも行うことは出来る。しかし、ルークらに掛け合うならば、やはり許可はあった方がいい。


「アルヴィス、お前にばかり……済まない……」

「……伯父上?」


 国王がアルヴィスへと頭を下げた。国王自らが頭を下げることなどあってはならないが、ここには他に誰もいない。困惑しているアルヴィスの肩に手を置くと、国王は頷きを返した。


「地下に安置してある。行くがいい。……首謀者が分かればいい。無茶はするな……」

「ありがとうございます」


 間違いなく身体には悪影響だ。国王もそれは理解している。それでも言わずにはいられなかったのだろう。

 そうして国王の命という名目を得て、レックスらに支えられる形でアルヴィスは亡骸が安置されている地下へと向かった。



 地下ではルークとハーヴィが待っていた。亡骸もそのままにしてある。


「……どうだ?」

「……マナは、まだ残っています。ギリギリ、か……」


 ルークに問われ、アルヴィスは亡骸を視る。漂う力は小さい。拾える情報も最低限となる可能性は高いが、何もないよりはマシな筈だ。


「レックス、少し離れてくれ」

「……わかった」


 手を離され、亡骸の前に膝をつく。左手で亡骸の身体に触れると、意識を集中させる。アルヴィスの全身が淡く青白い光を放った。体内へ侵入させたマナを操作して、記録を探す。直近の記憶だけで構わない。そうして辿ると、複数人での会話の記憶に触れた。


『カバーチェ商会?』

『もしこの少女が王太子妃になれば、色々と融通できますよ』

『なるほど……では隣国のルートも?』

『既にあちらは押さえてあります。商品も』

『ルベリアでは奴隷売買は禁止されている。そのようなことがバレれば只ではすまない』

『法など変えればいい。娘を使って、王太子を傀儡に出来ればそれも可能となる』

『チェンバー卿……謀反を企むか?』

『そのようなことは考えてませんよ。ただ、ジラルドよりも御しにくい王に成りかねないのでね。今、知られるわけにはいかないのですよ』

『己の罪を隠すために、か……そしてこれを知った私も同罪と』

『お願い出来ますかな?』

『白々しい……わかった。リトアード公爵令嬢を始末すればいいのだろう。小娘一人容易いことだ……ザザ、聞いたな』

『はっ……』

『失敗は許されん』

『御意に』


 会話とそれぞれの顔が消えたかと思うと、次にはパーティーでの場面に移り、直後にザザは自ら毒を(あお)った。記録を読んでいたアルヴィスにもその苦痛が及ぶ。呑み込まれる前に、アルヴィスはマナの操作を止めた。


「ぐっ……がはっ」

「アルヴィスっ」

「殿下っ!」


 読み取っただけだが、ザザの苦痛がアルヴィスにも伝わってしまう。喉が焼けるような感覚にアルヴィスは気を失ってしまい、後ろにいたディンに倒れかかってきた。


「アルヴィスっ、しっかりしろ! ちぃ……」

「隊長っ……」

「死ぬ瞬間を見ちまったんだろう。くそっ、だから死者の読み取りはさせたくねぇんだ……」

「……隊長、殿下はお部屋に」

「頼む、ディン。ただ、どんな影響を及ぼしたかわからん。マナの消費も激しい。気を付けるように侍女らに指示を出しておけ」

「はい」


 ディンはアルヴィスを横抱きに抱えて持ち上げると、レックスと共に地下から出ていった。



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