15話
既にご存知の方もいるかもしれませんが、2月に8巻が刊行します!
続報は、Xまたは活動報告にて改めてご報告しますね(*- -)(*_ _)ペコリ
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どれほど眠っていたのか。アルヴィスが目を開けると、カーテンの隙間から差し込むのは茜色の夕日だった。
「はぁ……」
ベッドから身体を起こしたアルヴィスは、大きく深呼吸をする。今は胸に痛みは感じない。あれほど酷いのは本当に久しぶりだった。病気でも体調不良でもなく発生する痛み。おそらくは、ルシオラの契約者であることが起因している。いつまでもこのまま放置しておくべきことではないだろうが、そのためには向かわなければならないのだろう。かの地、スーベニア聖国へと。それこそ、マラーナ王国の一件に裏で関わっていたあの少年の存在と相対するために。
「アルヴィス、起きたのか?」
「レックス」
ノックもなしに扉が開けられた。まだアルヴィスが眠っていると思ったのかもしれない。レックスはアルヴィスの顔を見て安堵した表情へと変わった。あのような場面を見せてしまったからだろう。大丈夫だと伝わるようにアルヴィスは笑みを浮かべた。
「すまなかった」
「いいや構わないさ。ただ……ああいうのは何度もあるのか? 俺たちが傍にいる時、そうそう見たことはないだろ?」
ベッドから足を下ろしてアルヴィスは立ち上がると、レックスが上着を羽織らせてくれる。礼を言いながら、アルヴィスは上着に袖を通した。
「さっきのようなことはそうそう起きないんだ。たまたまというか……」
「じゃあどういうのなら起きてるんだよ」
そのまま仮眠室を出て行こうとするアルヴィスだったが、レックスは言い逃れは許さないとばかりに、その前に立ちふさがってしまう。誤魔化しは許さないとばかりに、レックスの表情が強張っている。どうにもならない状況だからこそ、アルヴィスは口にしない。何も変わらないし、緩和することだってできない。耐えうるしかない状況で、下手に伝えると不要な心配を与えてしまうだけだから。
「アルヴィス」
「……エリナには黙っておいてくれ」
「わかってる」
念を押してからアルヴィスはそのまま壁際に移動し、腕を組みながら壁へと寄りかかる。
「建国祭前に、大聖堂にいっただろ?」
「あぁ。お前が変な書物を手に取って倒れた時のことだな」
「……その直前にこもっていた書庫でも今のようなものは起きた。ルシオラから言わせると、どうやら俺は親和性というものが高いらしい。意図せずにそれを感知してしまうんだと」
具体的に何を感知しているのかは教えてもらえなかった。ただ、アルヴィスは何となく理解している。それが何なのか。言葉にして伝えることはまだできない。いやそうではないのだ。言葉にすることは、今はできないと言った方が正しい。他の者たちならばまだしも、ルシオラとの契約をしているアルヴィスが口にすることはできないのだと。
案の定、レックスも意味がわからないと言った風に眉を寄せた。当然の反応だ。それでも、アルヴィスが伝えられるのはこの程度でしかなかった。
「何を感知してるっていうんだよ」
「……さぁな」
「アルヴィス、お前なぁ」
「だから言わなかったんだ。俺が説明できることなどないからな。余計に不安にさせてしまうだけだし、これにも大分慣れてきた。よほどのことがない限り、あんな姿は見せないさ。ちょっと疲れてただけなんだ」
疲労感が強かった。だからこそ誤魔化すこともできなかっただけだ。そう伝えると、レックスは大きく溜息を吐く。
「俺が目撃してよかったと言っていいのかわからなくなってきたぜ」
「ディンさんよりはお前でよかったとは思うけどな」
「そりゃそうだろうさ。あの人なら何もなくとも、特師医を連れてきたはずだ」
「……かもしれないな」
診察されたところで、疲労というくらいしか言われないだろうけれど。無理やり休まされるくらいはさせられてしまいそうだ。
「女神関連っていうことなら、俺たちにできることはないか」
「そういうことだ」
「でも疲れてるのは本当だろ?」
「否定はしないが」
疲れているし、可能ならばエリナとルトヴィスの顔は見ておきたい。王太子宮に帰ることもままならない状況なので、ここ二日ほどは顔さえ見られていないのだ。
「そんなお前に朗報だ。宰相閣下がさっききて、明日はお前も休めだとよ」
「……宰相こそ休むべきだと俺は思う」
「あの人はそういう病気って思ってる。いつ帰っているのか不思議でたまんないんだよな」
「以前、ザクセン侯爵夫人も似たようなことを言っていたな。そういう病気なんだと」
仕事をしていなければならない。休むよりも仕事をしていたいという仕事人間なのだと。その息子も似たようなものらしく、あの家の女性陣は苦労をしているらしい。
「そういえば、宰相のところの嫡男が直に戻ってくるらしい」
「へぇー、ってことは次期宰相候補ってところか?」
「一応な。俺も幼少期に顔見せした程度だからよくは知らないんだが」
他国へ留学しているザクセン侯爵家の嫡男。戴冠式前には戻ってくると宰相から聞いている。アルヴィスが即位した後も、宰相はそのままだ。だがいつまでもそういうわけにはいかない。そのための宰相候補として名を挙げるつもりではいるらしい。尤も、息子というだけで宰相になれるわけではない。当人の意志も、実力も必要だった。その見極めはアルヴィスに一任されている。
「まっ、それも会えばわかるか。お前と気が合うといいけどな」
「それこそ会ってからだ」
徐々に進んでいく世代交代。これもその一環だろう。王城内の人事も少しずつ変わっていく。その時がそこまで近づいてくることが、じわじわと実感させられることでもあった。
「とりあえずお前は今日のところは帰って休めよ。送ってく」
「……わかった」




