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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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閑話 思うのは後悔


「余の退位とは別に、宰相の方も動かねばならぬな……そろそろ戻ってくるのであろう?」

「はい。見聞を広めるということで他国を回っておりますが、春までには帰国の予定です」

「そうか……」


 国王は執務机の前で大きく息を吐いた。ようやくこの時期が来たと言えばその通りだ。だが、己が国王となった直後に想像していた形とは全く違うものとなったことに、思うところが何もないとは言えなかった。


「あの子は、既に任に就いたのだったな」

「そう報告を受けています。現段階では、不平不満を言うことなく真面目に勤めていると」

「そうか」


 国王には想像することしかできない。己の唯一の男児であり、唯一の王子だったジラルド。決まっていた未来。決められた定め。当たり前のように用意された椅子。小さい箱庭の中で起きた出来事が、すべてを変えてしまった。描いていた未来とは違う過酷な場所に追いやられ、生きていくことを強制された。

 元々国王は、人の営みから隔離された人生を送らせるつもりだった。たった一人で会話をする相手もおらず、ただ生きているだけ。何をすることも許されず、何をすることも求められない。ただそこに在るだけ。それが王族に与えられる懲罰の一つだった。弱い人間であれば一年も持たずに己を失うこともある。それでも死ぬことは許されない。生かさず殺さずではなく、それは死んでいるも同然のもの。

 しかしそれを良しとしない被害者らにより、その場から出ることを求められた。彼女たちは知ってほしいと。己の罪を、人々の暮らしを、そして己が王族として相応しかったのか否かを。知った上で苦しんで生きてほしい。それが彼女たちの望み。人生を狂わされた者たちからの切なる願い。地位ある人間が発する言葉の重みを知れと。知らずにいるのは許せないと。そう願って。

 貴族令嬢たちの意見。それは国王からすれば、全く想像していなかったことだ。女性が、強固な意志を持って意見をするということが。そこまで考えて国王は首を横に振る。そうではないのだ。身近にいた。強固な意志を持ち、己に意見をする女性が。己の娘が。


「陛下?」

「以前リティーヌにも言われたことがあった。父としての言葉なのか、それとも国王としての言葉なのかと」


 王女は王女らしく、前に出ることは許されない。姉なのだから弟に譲るのは当たり前だし、王子はいずれ王となるのだからその邪魔をするなと。行動するにも発言するにも、そのことを踏まえて動けと。第一王女として誰の下に嫁いでも良いように、社交界の振る舞いと相手を楽しませるだけの知識を持つようにと。予想外に優秀だった所為で、学問を学ぶような家庭教師は付けなかった。王子より優秀などと思われるわけにはいかなかったからだ。


『お父様は、私に考える必要はないと仰いますか?』

『お前はただ言われるとおりにしていればいい。これまでの王女たちもそうだった。必要などないだろう? 王女に意志は不要だ。それにどうしてもというならば、ラクウェルの子たちのいずれかに嫁がせてやる』

『……最低、私だけならともかく……そうですか、わかりました。ならば私は叔父様のところに行きますから。もう結構です。では失礼いたします、陛(・)下(・)』


 そういえばあの頃からだ。リティーヌが本格的に国王へ嫌悪感を示してきたのは。以前からそういう節は見せていたが、強くあからさまになったのはあの頃だろう。

 ラクウェルは国王にとって弟だ。身内にも等しい。その子たちならばリティーヌも構わぬだろうと思って出た言葉だった。当然、本気ではない。しかしあとからそれを説明したラクウェルからは、大層深いため息を吐かれてしまった。


『兄上、その言い方は私からも少々不満がありますね』

『だがお前の子ならば優秀だろう?』

『……そういう意味ではありません。兄上は昔から機微に疎いところがありますが、リティーヌは王女である前に、兄上の娘でしょう。あの子にも意志はあります。王女は道具ではありません。それこそ、父上と同じ考えではありませんか?』


 指摘されてから気が付いたことだった。嫌悪していたはずの父と同じ考えを持って、娘に接していたことに。それでも一度失った信頼は取り戻せなかった。

 国王は子どもたちの私生活を知らない。王女、王子としての姿は目にするが、その子がそれぞれ好きなことも知らなければ、興味があることも知らない。遊んでいた姿も見たことはない。こうあるべきだという型にはめて、それを逸脱するような行動をしないようにと注意をしてきた。王族として相手を従えている姿の王子を褒めたこともある。さすがに王子の行動が身に余ることはわかっていたのだが、きっと小さな頃から綻びはあったのだろう。それに気づくどころか、気づこうともしなかったのは国王自身だ。娘も息子に対しても。


「ラクウェルか……思えばあいつも父上には反抗していた」

「あのお方は先王様を特に嫌っておられましたから……それこそ後継の件についてよく言い合いをしておられました」

「そうだったな」


 昔を懐かしく思う。後悔も沢山ある。だがそれを変えることなどできない。この先のルベリア王国の未来は次世代へと譲られるのだから。




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