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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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4話


 大聖堂へと急ぎ向かったアルヴィスは、大司教に案内されてとある場所へ足を踏み入れていた。そこは以前アルヴィスも訪れた場所だ。

 あれは建国祭の前に遠征へ向かう頃だった。アルヴィスはレックスたちを連れて、大聖堂にある書庫を訪れていたのだ。案内されたのは、まさにその書庫だった。その場所に踏み入れた瞬間、何の異変が起きたのかすぐに理解する。とある一角、その本棚が光っていたのだ。


「これは、一体……」

「この書庫は殿下が訪れて以来、一度見直しをするということで司教と共に整理をしていたのです。昨日は新年開始ということもあり、こちらを訪れることはありませんでした。そうして朝方見回ったところ……」

「既にこの状況だったということか」

「はい」


 既に大司教の方でも、近づいてはみたようだ。しかし、近づいたところで何も起きなかった。光が収まることもなく、かといって放置しておくわけにもいかない。

 そこで以前アルヴィスが訪れた時に起きた現象を思い出し、アルヴィスを呼ぶべきだと判断したらしい。王太子に助力を請うのが正しいとは言えないが、大聖堂には多くの人々が訪れる場所だ。人々の目に入り、余計な不安を与えたくはない。それも新年早々だというのならなおさらだ。今は状況がよくわからないため、一時的に大聖堂を閉じてはいるが、可能ならばなるべく早く開けたいというのが大司教らの心情だろう。

 事情を理解した上で、アルヴィスは改めて書庫の中を見回す。異変があるのはその一点だけだ。そして確信に近い形で、アルヴィスはその異変が例の書物であると認識していた。直感なのか、アルヴィスが得ている加護が影響しているのかは判断が付かない。とはいえ、だ。


「俺も前科がある以上、不用意には近づけないが」


 このまま放置しておくこともできない。そう理解しているものの、そこにはリスクがある。以前と同じようなことになりかねないというリスクが。アルヴィスは共に同行してきていたディンへと顔だけを向けた。


「ディン」

「はい」

「万が一の場合は、後を頼む」

「……承知しました」


 捨ておくことのできない状況。その対処が可能なのがアルヴィスという事実。新年に大聖堂へと人々が訪れるのは、毎年恒例となっている。それを遮るようなことをすれば、人々へと不安が広がりかねない。わかっているからこそ、ディンも受け入れざるを得ないのだろう。しっかりと頷くディンを確認してから、アルヴィスは問題の本棚へと歩み寄り手を伸ばす。


「っ⁉」


 おそらくはそれに触れた。問題の書物に触れたと思った瞬間、アルヴィスは目の前が真っ白になるのを感じた。

 思わず目を閉じてしまったが、光が弱まったあたりで再び目を開く。するとそこは、今までいた書庫ではなく、真っ白な空間だった。あたりには机どころか、壁すら見当たらない。どこまで行っても白い、そんな空間だ。


「こ、こは……?」

「貴方が、現世の贖い子なのですか」

「⁉」


 真っ白な空間だったはずのその場所に声が届く。アルヴィスが声がする方へ振り返った。そこにいたのは、白銀の髪色を持つ少女。大きな瞳は真っ赤な色をしていた。


「貴女は……?」

「初めまして。私は聖国スーベニアのレンティアースと申します。いずれスーベニアの女王を受け継ぐ者です」

「……ということは、シスレティア陛下の後継ということですか」

「はい。どうか見知りおきくださいませ。次期ルベリア国王であり、現王太子のアルヴィス殿下」


 聖国スーベニアの後継者。スーベニアの後継は、血筋で決まることはない。先代からの指名を受けることで決まるという。ならばこのレンティアースという少女も、シスレティアの子というわけではないのだろう。ないのだろうが、とてもよく似ている。髪色といい顔だちといい。いや、それ以上に感じるものがある。纏う空気がシスレティアが持っていたそれよりも強いのだ。貫禄とはまた違う空気。それこそ女神ルシオラと対峙した時にも似たようなものだ。

 アルヴィスがそう思考していると、目の前のレンティアースが顔をほころばせる。


「どうやら貴方は今までの贖い子よりもより近しい力をお持ちのようですね。この状況ではそういう相手を選ばなければならなかったのでしょうが」

「……貴女は一体何を言っているのですか?」

「私の力を無意識に感じ取っているのでしょう? 無理もありません。私は陛下よりも強い力を持っていますから」


 外見はおそらくエリナと同じか、それより年下かというところだろう。しかしその風格は少女の域を超えている。人の上に立つ人間が持つそれを、既に目の前の少女は持っていた。


「貴方が手に取った書物は、かつての神々となった者たちが撒いた道の一つ。帝国の少女も招いたつもりだったのですが、どうやらあの子は大人しく招かれてはくれなかったようです。別の手を考えなくてはなりませんね」

「帝国……テルミナ嬢のことですか」

「はい。あの子も、そして貴方も、未来の世界のために残された道しるべですから」


 そうして上を見上げたレンティアース。当然、この空間に空などはない。あるのはただ真っ白いものだけだ。


「そろそろ時間ですね」

「時間?」

「またお会いしましょう。今度はあの子も一緒に。ではこれで失礼いたします、アルヴィス殿下」

「まっ――」


 レンティアースが頭を下げて邂逅を終わらせようとしている。アルヴィスが今の状況を問い質そうと声をかけるが、その声は届かずに空間が消え去った。


「殿下⁉」

「っ」


 気が付いた時、アルヴィスは書庫にいた。手を伸ばしたままの状態で。



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