2話
少し書きなぐりに近いです(;^ω^)
各貴族たちの姿もまばらになり、そろそろお開きになるといったところでアルヴィスは後片付けについて指示を出していると、リティーヌが声をかけてきた。
「アルヴィス兄様」
「リティ?」
「少し話をしたいのだけど、いい?」
「それは構わないが」
まばらとはいえ、まだ人の目がある。過去には何度も社交界で噂になっていたこともあり、エリナの妊娠を周知した後では極力二人だけの姿を見られないようにと、アルヴィスもリティーヌも意識してきた。この場にエリナがいないからこそ、二人だけということはできない。
「ここでいいわ。移動したらそれはそれで下世話なことを言われそうだもの」
「まぁここなら侍女たちも騎士たちの目もあるからな」
とはいえ念には念を入れておく必要がある。アルヴィスはちょうど近くを通ったアンナを呼び止めた。
「何でしょうか?」
「悪いが、エドを呼んできてもらえるか? シオたちの見送りをしているはずだ」
「承知しました」
アンナが足早に立ち去っていくのを見ながら、リティーヌは溜息を吐いた。どうしたのかとアルヴィスが首を傾げる。
「別に侍女でもいいけど」
「……俺は構わないが、リティはあまり関わりがない相手だろ?」
「それこそ今更よ。そもそも兄様の専属の人でしょ? 信頼できる人だってことはわかってるもの」
「否定はしないが」
アンナはアルヴィスの専属侍女だ。元王妃付きでもあり、信頼に足る人物という意味では間違っていない。ただ、アンナの本性を知る立場として、あまりリティーヌには接触させたくないと思っているだけだ。
そうしている間にエドワルドがやってきた。急いできたらしく、息が乱れている。
「アルヴィス様お呼びでしょうか?」
「あぁ。お前にも同席してもらいたいんだ」
「え?」
「リティと二人で話をするには、少々目立つからな」
「なるほど、そういうことでしたか」
エドワルドは心得たというように首肯して、アルヴィスの後ろから少し離れた場所に立つ。従者たるエドワルドを傍に置く意味。アルヴィスとリティーヌの関係は周知の事実だ。そこにエドワルドも加わるとなれば、アルヴィスとリティーヌが二人で話をしていたと言われても、色恋沙汰につなげる人間はいないだろう。そのために、エドワルドも会話に加われる位置にいてもらう必要があった。
「エドならまぁ聞かれてもいいか」
「悪いなリティ」
「わかってるし大丈夫。エリナも気にすることはないだろうけど、あまり下手なことに巻き込みたくないものね」
疑われることがなくとも、そういった吹聴をされるだけでも負担はかかる。不安定な時期は過ぎたとはいえ、いらぬ心配を与える必要はないのだから。
「話というのは、もちろんリヒトとのことなんだけど」
「具体的な話をするというのであれば、まだ何も決まっていないが?」
「それくらいわかってるわよ。あの人が退位して、兄様が即位してからの話でしょ? それくらい待てるし、その前に追い出されるとは思ってないわ。そもそも……私にそういう居場所を作ってくれるとは思わなかったから、驚いてはいるけど」
「リティ」
少し寂しそうにリティーヌは表情を曇らせた。後宮を出るのが現実的になっている今、王女として降嫁するならばこのタイミングだけだ。国王が在位している間だけ。しかし、国王が退位することが決まっている現状で、リティーヌが有力貴族に降嫁する意味はない。次の王となるアルヴィスの周囲が盤石だからだ。
リトアード公爵家をはじめとしてベルフィアス公爵家、講師という形に近いがユスフォス公爵家も力を貸してくれている。また、ランセル侯爵家をはじめとした高位貴族家とも関わりを持っている。リティーヌとアルヴィスは従兄妹だが、兄妹に近い関係だ。更に有力な貴族に嫁ぐ意味はなく、そういう意味では自由に選べる環境にある。だがそれは逆に、どこの家も王族としての影響力をリティーヌに求めていないと同義だった。
「私が外に出されるとしたら、それこそ何にも影響を与えないようなところで隠居生活でもしようかなって考えてたくらいだもの。研究さえできればどこでも良かった」
「そんなこと俺が許すわけないだろうが」
「うふふ、そうね。きっと兄様は私のことを考えて動いてくれるってわかってた。あの人よりよほど頼りになるし。わかってたけどそれでも、私にとって良い環境を整えてくれるっていう意味では、これ以上ない人選だったから」
リヒトの傍にいく。リティーヌの相手としてリヒトを選んだことを言っているのだろう。だがそれは違う。アルヴィスは首を横に振った。
「俺が選んだんじゃない。リティとリヒトを見てたから気づいただけだ。それに何より、リヒトが望んだ。いくら友人でも、リヒトが本気じゃないなら俺はリティを渡したりしない」
「……そういうこと言うから誤解されるんだけど」
「それでもだ。あと……これは友人としてだが」
「何?」
「リヒトが、そういう風に思える相手と出会えたことには驚いているし、単純に嬉しいって思ってる」
リヒトは当人も言っているように、自分本位な人間だ。自分と意見が合わないなら平気で去っていくし、別に誰かが自分から離れて行っても引き留めはしない。知識欲が高く好奇心が旺盛。闇社会などには手を出さないが、金を稼ぐことに関しては貪欲。それでもって家族愛が強いやつ。それがリヒト・アルスターという人間である。
「家族以外で、あいつが誰かを好きになるってことが信じられないってシオも言っていた。それくらい俺たちにとっては驚きだったんだ」
「確かにそうかもしれないわね。自信家だし、そもそも女の子と話なんて合わないでしょう? あいつってば、研究のことしか話さないもの。あとアルヴィス兄様の話とか」
二人の共通する人間といえばアルヴィスなので、話題にされるのもわからなくはない。研究と同列に扱われるのは不本意だけれど。
「まぁそれはともかくとして、リティとリヒト、二人ともそうだと判断したから認めた。前に俺には相談しろって言ったが、リティは言わないだろうしな」
「そんなことないわよ。出ていく前にはちゃんと兄様にだけは伝えてたと思うもの」
「リティ……」
キュリアンヌ辺りに色々と言われる前に動いて良かったと言わざるを得ない。行動力があるリティーヌだ。昔ならいざ知らず、何かと吹っ切った今ではやりかねないことだった。
「でも感謝してるの。私に居場所を作ってくれるよう動いてくれて。これだけは言っておかないとって」
「そうか」
リティーヌはそういってアルヴィスへ向けて深々と頭を下げた。まだ残っている貴族たちからどよめきのような声が届く。
「ありがとう、アルヴィス兄様」
「……あぁ」




