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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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320/383

1話

新章が始まりました!

関係性が色々と変化していくと思います。

アルヴィスとエリナだけでなく、他のキャラクターにも!



  新年を祝う催事として王城では簡単なパーティーが開かれる。これは毎年のことだが、今年はその前に国民への祝辞を終えた国王から特別な褒賞を与えるとして、先のマラーナ国葬に伴ったリヒトが呼びだされた。騎士でも、貴族でもないリヒトは本来ここに参加する立場にはない。そもそも賞与や褒賞を与える場は、国王の生誕祭にて行われるのが常だ。ゆえに、最低限の貴族たちの前に出るだけで済んだのだが……。


「全く……お前は本番に強いと言うか、伯父上の前でよくもまぁ堂々と言い放ったな」

「ん? そうか?」


 謁見室で爆弾発言をしたリヒトは、その後のパーティーにも参加している。その場の流れもあって、アルヴィスはリヒトと共にいた。エリナは挨拶を終えた後で、早々に退出し王太子宮へ戻っている。各生誕祭とは違い、新年は簡単な挨拶をするだけでそれ以外は自由な場だ。王太子妃がこの場にいなくとも、さほど問題はない。パーティーとはいえダンスがあるわけでもなく、ただ立食形式の食事をしながら話をするだけの場なのだから。だからこそ、アルヴィスが友人であるリヒトと共にいても、眉を寄せる貴族たちもいない。否、今はそれ以外の意味で注目を浴びているのだけれども。アルヴィスは思い出しながら、溜息を吐いた。


「なんだよ、ちゃんとお前にも言ってただろ?」

「それはそうだが……お前シオから聞いた作法とか全部無視してたからな」

「あー……まぁなんていうか面倒になっちまって」

「だから言っただろう。アルスターには無駄だと」


 そこへ声をかけてきたのは、シオディランだ。アルヴィスからリヒトへ謁見室での作法を教えるように言われ、シオディランは時間の無駄だと一蹴した。それでも最低限でいいからとお願いしたのだが、今回はほとんどそれが生かされなかった。最初の段階で顔を上げなかっただけかもしれない。


「言いたいことがあるなら、面と向かって言うべきだろ? それが誰であろうと。相手の顔を見て話すことに意味があるって俺は思うからな」


 リヒトの言葉にシオディランとアルヴィスは顔を見合わせて苦笑した。貴族は相手を見ているようで見ていないことも多い。それが後ろ暗いことがあるからなのか、本心を悟られたくないからかは別として。そういうものだと身に染みている。だが、確かにリヒトは必ず顔を見て話をする。そういう人間だ。


「アルヴィス、陛下は問題なさそうだったか?」

「まぁ衝撃は受けてたみたいだが、既に何でも構わないと言った後だから、何を言われようとも断れないからな。俺も一応フォローはしておいたつもりだけど」


 国王がそう発言すると言うことを見越してだったのだから、こちらは確信犯である。それでもだまし討ちのようなことをしてしまった自覚はある。


「ちょっとアルヴィス兄様、最初から説明をしてほしいんだけど、一体何が全体どうなってるわけ?」

「来たか、リティ」

「来たか、じゃないでしょう。いつもならこんなところすぐに帰るのに、今日に限って何かと思えば……」


 ジト目でリティーヌがアルヴィスを見てきた。謁見室での出来事は、既にリティーヌには伝わっているらしい。おそらくは国王か宰相から言われたのだろう。リティーヌは当事者なのだから当然だ。


「兄様、まさか私のためにリヒトを利用したわけじゃないのよね?」

「当たり前だろ」

「どこまで見越してたわけ?」

「どこまでって……」


 アルヴィスは隣に立つリヒトへと振り返った。リヒトをどうしたかったのか。アルヴィスの中でそういった考えが皆無だったとは言えない。誰かに利用される前に盤石にしたかったのは事実だ。リヒトが家族のために動く人間だということは知っていた。だからこそ、誰かではなくリヒトが選んで進む場所を作りたかった。


「俺の立場から見ても、迷惑をかけることはわかっていた。だからいずれは、そういう立場を用意することになるだろうとは思っていたさ。今回のことがなくても、それはそう難しくなかっただろうからな。リヒトの実力なら、何かしら成果を出していただろうし」

「そりゃまぁ、俺は天才だからな」

「その自信が嘘でないからこそ性質が悪いんだ、お前は。自重することを覚えろ」

「ランセルにだけは言われたくねぇ」


 シオディランに噛みつくリヒトに、アルヴィスとリティーヌは頷く。王族である自分たちであるからこそ、その傍にいる人間は選ばなければならない。マラーナ王国に向かい、今置かれている環境がどれだけ恵まれているのかを思い知った。先代である祖父が生きていた時代は、今よりももっと殺伐としていたらしい。上昇志向が強いといえば、悪くないかもしれない。けれど、相手を蹴落とすために生きるのは、偽りを続けて上を目指すのは、ひどく疲れてしまう。今のルベリア王国が風通しが良い世界であるのは、父たちの代が変えてくれたおかげだ。ルークのような人間が頑張ってくれたおかげだ。


「アルヴィス兄様が計算高いって言われるのは、意図したわけじゃないのよね?」

「……さぁな」


 曖昧に濁すと、リティーヌはアルヴィスの右腕をひっぱりその手を取って握りしめてきた。


「リティ?」

「でもそっか……もう兄様は、私を庇護下として見てくれてるのね。だから見せてくれないか」


 リティーヌはアルヴィスにとって幼馴染であり、家族だ。この先立場が変わってもそれは変わらない。ただ昔の様に、一番傍にいた相手ではなくなった。守るべき対象であることは変わらないが、アルヴィスが弱みを見せられる相手ではなくなった。


「ありがとう、兄様。私が惹かれてること、気づいてくれてたんでしょ?」

「言っただろ。リティの相手は俺が見定めるって。それがあいつなら文句はない。今回のことも、たまたまそういう機会があっただけだ」

「うん、わかってる」

「けど……あいつには爵位を与えることも出来た。それを断ってまで、望んだ意味がリティにはわかるだろ?」


 リヒトに爵位があればすんなりと進めることも出来た。アルヴィスもそうするつもりだった。それでもリヒトはそれを断った。そうして得た褒賞は、単なる平民が高望みした結果ではない。


「リヒトは俺に言ったからな。だから認めたんだ」

「……私の前に兄様に言うのが許せないけど、まぁ仕方ないか」


 あのリヒトが、飄々として嫌なことであればのらりくらり躱すようなリヒトが言葉にした。


『リティのことをどう思ってる?』

『姫さんのことは、好き、だと思う。たぶん。いやまぁ、尊敬もしてるかな。どっちの方が強いかはわからねぇかも』


 尊敬している。同じ研究者として。共に研究をするのも悪くない。籠の中にいるなら、出させてやりたい。そうも言っていた。そんなリヒトが国王に宣言した時、その瞳は許可をもらう者の瞳ではなかった。鋭く、相手を射抜くような視線。


『姫さん、リティーヌ王女と一緒に研究がしたい。この先も』


 国王がタジタジになった瞬間を、ぜひともリティーヌに見せてやりたかった。この先も共に生きたい。リヒトは国王にそう宣言したのだから。それは事実上、リティーヌを貰い受けると同義だった。



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