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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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11話

 

 アルヴィスが負傷してから3日が経った午後。高熱が下がり始めたその時、アルヴィスが身動ぎをし声を上げた。


「うっ……」

「っ! アルヴィス殿下っ!」


 エリナは身を乗り出してアルヴィスの手を両手で包むように握った。目蓋が揺れるのを見たエリナは、横にいたイースラに視線を向ける。


「直ぐに先生をお呼びしてきますっ」

「お願いしますっ」


 目が覚めるかもしれないと、イースラが慌てて飛び出していく。代わりに、レックスや侍女らが全員寝室へ揃った。その時、エリナは握っていた手が動くのを感じ、アルヴィスを再び見る。


「……アルヴィス殿下?」

「っ…………う」


 ゆっくりと水色の瞳が開く。少し掠れてはいるがアルヴィスは声を出した。待ちに待った瞬間に、エリナの瞳から涙が溢れる。


「良かっ……良かった……アルヴィス殿下っ」

「……エ、リナ……嬢……つっ!」

「アルヴィス様っ!」


 身体を起こそうとしたのか痛みが走り苦痛に表情を歪ませるアルヴィスを、ナリスが側に寄り身体を撫でる。そこへ、イースラが呼んだフォランがやって来た。


「お目覚めになられたと聞きましたが……アルヴィス様、儂がおわかりになられますか?」

「……フォ、ラン……師医?」

「貴方様の治療をしたのが儂なのですじゃ。さて……診させてもらいますので、じっとしていてくだされ」


 フォランはアルヴィスの身体に触れ、状態を確認していく。全員が固唾を呑んで様子を見守っていた。そうしてアルヴィスの額に手を当ててフォランは、眉を寄せながら説明を始める。


「……まずはアルヴィス様、ご自身に何があったのか覚えておられますか?」

「……あ、ぁ……矢を、受けた……あれは」

「覚えておられるようですな。では……その矢に毒があったことは?」

「…………やはり、か」


 肯定を得られたことで、フォランは頷いた。記憶には問題がないと考えたのだろう。高熱が続いた場合、何らかの支障を来すことが考えられる故の確認だ。


「アルヴィス様、熱は大分落ち着きましたが、まだ高いままでございます。まずは熱が下がるまで、安静にしていてくだされ。決して、動いてはなりません。理由はわかりますな?」

「……あぁ」

「あと、右腕についてですが……」


 矢を受けた腕には、今も包帯が巻かれている。化膿しないように一日に数回包帯を取り替える必要があり、これも動かすことは絶対にしないようにと厳命された。アルヴィスには指示に従うしか選択肢がない。


「……話すのもお辛いでしょう。明日の朝、また伺います。くれぐれも安静にお願いしますぞ。それと侍女殿、様子が変わりましたら直ぐにでも呼んで下され」

「はい、かしこまりました」

「ではアルヴィス様……失礼をば」


 フォランが出ていくのを見送るため、ティレアとイースラが部屋を出ていく。残った面子を確認するようにアルヴィスは、視線を動かした。侍女たちやレックスがいるのはわかるが、何故ここにエリナがいるのか。

 動くなとフォランより言われているため、アルヴィスは首だけを動かしてエリナを見た。己の手を握り、未だに泣いているエリナ。何と話しかければ良いのかわからず、アルヴィスはただ手を握り返した。


「っ……アルヴィス殿下」

「エ、リナ……嬢……何故……?」


 思うように声が出ない。出ている声も本来のアルヴィスのモノよりも、小さく掠れている。それでもエリナには届いたのか、ハンカチで涙を拭うと、近くにいる侍女に渡す。


「……あの」

「アルヴィス様、私どもは隣に控えております。エリナ様、お話が終わりましたらお呼びください」

「え……あ、ありがとうございます」


 エリナが話し出そうとしたところで、待ったをかけたのは年長者のナリス。侍女たちを先導してナリスは出ていった。この場には、アルヴィスとエリナだけが残される。


「……ずっと、いた、のですか……?」

「はい……」


 もしかしてとアルヴィスが問いかければ、返ってきたのは肯定。何故エリナが残っているのか。ここはアルヴィスの私室である。本来ならば、エリナが来ることはない場所なのだから。不思議に感じても仕方ないだろう。


「申し訳ありません。私が、我が儘を申しました。……怖くて、アルヴィス殿下の側を離れてしまうのが怖かったのです。だから……」

「……エリナ、嬢」

「父が陛下へお願いして許しを頂きました。それで、暫くは城にいても構わないと……」

「しば、らく?」

「……3日、です。ずっと、お目覚めにならなくて……心配で、私は」


 再びエリナの瞳から涙がにじみ出す。しかし、アルヴィスにはどうすることもできない。腕を動かすことも出来なかった。だから、その代わりに今も握られている手に力を入れる。弱々しくとも、エリナには伝わった。


「……わかった……もう、いいから」

「アルヴィス殿下……」

「すまな、かった……」


 声を出すのが辛くてそれでも話さなければと、アルヴィスは口調などに気を配ってはいられなかった。それでも涙を流すエリナに、どうしていいかわからず黙っていると、やがて眠気が襲ってくる。抗うことも出来ずに、アルヴィスはそのまま目を閉じた。


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