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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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第六章 希望と始まり プロローグ


 新しい年を迎えたこの日、新年を祝う行事が王城でも行われていた。国民への新年の挨拶を終えたアルヴィスは、エリナと共に謁見室へと向かっていた。そこには数人の貴族と騎士、そして国王と宰相が揃っている。アルヴィスたちは最後だったらしい。


「遅くなりました、陛下」

「構わん、エリナの体調を気遣いながらだということはわかっている」


 国王はエリナへと視線を向け、柔らかく微笑んだ。エリナも深々と頭を下げる。身重であるエリナのお腹は、誰の目にも大きくなっているのがわかるようになっていた。王城内を歩くだけでも、以前よりは歩みは遅くなっているし、足元も見えにくくなっている。アルヴィスがエスコートをする形でここまできたが、その速さはゆったりとしたものだった。


「お気遣い感謝いたします」

「エリナ、こちらに」

「はい、アルヴィス様」


 エリナのために用意された席へと連れて行き座らせる。そしてアルヴィスは国王の隣に立った。


「ではアルヴィス」

「はい」


 国王からアルヴィスは詔書を受け取りそれを開きながら、先ほどからずっと国王たちの前、謁見室に入ってからずっと膝を折り頭を下げている人物を見据えた。


「リヒト・アルスター」

「っ、はい」


 友人の名をアルヴィスが呼ぶ。いつもの気さくな形ではなく硬い声色で。ビクリとリヒトの肩が揺れたのがわかった。こういう場所は苦手だろうに、それでもせめて人数を少なくしてやることしかアルヴィスにはできなかった。

 リヒトはマラーナ王国に国葬の参加として向かったアルヴィスの同行者だった。暗殺未遂が起きたマラーナでの出来事。当人はただ共に居ただけだというが、それだけで終わらせることはできない。既にマラーナ王国はその形を失うことが決まっている。宰相が犯した罪は、それほど大きいものだからだ。だからこそ共に同行し、アルヴィスも無事に帰ってきたというだけで、十二分に任を果たしてくれたと言える。褒賞を与えないわけにはいかないのだ。事前にリヒトへと伝えてある。そのうえで、リヒトがどう回答するのかは本人次第だ。


「先のマラーナ王国国葬、危険が伴うとわかっていながらも私に同行してくれたこと感謝している。陛下も、妃からも何度礼を言っても足りないくらいだ」

「……」

「その働きに際し、王家から褒賞を与えようと思っている。与える褒賞は、子爵位と――」

「えっと発言をしても宜しいですか?」


 アルヴィスの言葉を遮る形でリヒトが声を発した。せめて言い切ってからにしろと内心悪態を吐きながら、アルヴィスは溜息を吐きそうになるのをなんとかこらえた。


「いいだろう。許可する」

「あの……俺は貴族に興味はないっていうか、爵位とかいりません」

「ふむ、どういうことだ、アルスター?」


 聞き返したのは国王だった。思わずアルヴィスは国王を振り返る。この場に同席している貴族らからも小さなざわめきが聞こえてきた。その中の一人シオディランとアルヴィスは視線が合う。シオディランはゆっくりと首を横に振った。ここでの作法について教えるようお願いしたのだが、やはりリヒトは真面目に聞いてはいなかったらしい。アルヴィスもシオディランも期待していたわけではないが、ここは学園ではなく国王の謁見の場だ。無作法がまかり通る場ではない。


「俺はただ、アルヴィスが、友人が頼ってくれたからそれに応えただけです。別に王太子殿下のためにやったわけじゃありませんから」

「リヒト……」


 その言葉は嬉しいが、ここで発する言葉ではない。アルヴィスは人前だというのに頭を抱えてしまった。すると視線を感じたアルヴィスはその方向、国王へと顔を向けた。いつの間にか国王がアルヴィスを見ていたのだ。


「陛下?」

「お前は、良き友人に恵まれているのだな」

「……はい。彼は私にとって大切な友人ですから」

「そうか。だが友人だとしてもアルヴィスが王族であることは事実。其方の働きに対して何も贈らないということはできん」


 それとこれとはまた別問題。リヒトが望もうと望まぬと、そういうものだと理解してもらうしかない。もちろん、リヒトにも断ることはできない旨を伝えてある。リヒトにも、そのまま受け取るという判断をしたくなかったのだろう。リヒトにとってアルヴィスは王太子ではない。ただの友人であるのが先にくる。王太子だから手を貸したのではない。つまり、リヒトにとって地位は関係ないのだと他の貴族たちに示したということだ。


「アルスター、其方が望むものを言ってみるがいい。それを授けるとしよう」

「宜しいのですか、陛下?」

「お前の友人だ。信に値する人物だと、余は判断した」

「……ありがとうございます」


 言質は取った。望むものを言えばいい。そうなることはアルヴィスもわかっていた。爵位をリヒトが望まないこともわかっていた。リヒトが望むもの。国王からのお墨付きだ。言えば後戻りはできない。それでもそれを口にするのか。アルヴィスはリヒトをじっと見つめた。


「リヒト・アルスター、お前が望むもの。それを言ってみろ」


 アルヴィスが催促をすると、リヒトが顔を上げる。そしていつものように飄々とした笑みを見せ、口を開いた。


「私が望むものは――」



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