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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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閑話 成長の喜びと寂しさ


「行ってしまいましたね」

「あぁ」


 王家の馬車を見送ったラクウェルは、しばしその場から動けなかった。それほどゆっくり時間を過ごしたわけではない。アルヴィスは視察の名目で、エリナは出産前では最後となるだろう遠出に。そしてキアラは、初めての外遊で。三人とも、その目的は違った。三人が共に過ごすことはほとんどなかったし、そのうちキアラはどちらかというとミリアリアと過ごすことの方が多かった。年も近い従姉妹同士だ。良好な関係であることに越したことはない。近い将来のことを考えれば、より広い友好関係がキアラには必要となってくるだろう。その足掛かりにでもなればいい。

 馬車の姿は既に見えていない。けれども、ラクウェルはその場から動かなかった。それは隣にいるオクヴィアスも同じだ。どこか寂し気なまなざしで、過ぎ去った馬車の方を見つめている。


「次にここへあの子が来ることはあるでしょうか……?」

「わからん。だが、この先に何があろうとも、この屋敷があの子の生家であることに変わりはない。それだけのことだ」

「そうですね」


 この屋敷で生まれたアルヴィス。視察の名目とはいえ、この屋敷に戻ってきたことはこの屋敷にいる全員が喜んだ。手紙のやりとりもまばらで、学園の長期休暇でさえ戻ってこなかった。卒業してしまえば、長期休暇など取ることも叶わない。だから、もう帰ってこないのではと思っていた者たちも多かった。ゆえに、その姿を見ることが出来て嬉しかったと口々に聞かされた。当人、アルヴィスには伝わっていないだろう。


「あの時」

「ん?」

「陛下からのお手紙をいただいた時、私は後悔していました」

「……」


 何を、とは聞かなかった。聞かずともわかったからだ。それに既に過去形となったその言葉を蒸し返すことに意味もないとわかっていたから。


「ですが、結果としてこれでよかったのかもしれません。あの二人にとって、お互いがそうあるべき相手だった。すべては女神様の導きだったのかもしれないと」

「……それを聞けば、あの子は複雑な顔をすることだろう」

「うふふ、そうですね。でも私は本当に良かったと思っています。あの子がいずれ王家を担うのだとしても、それが先代陛下の意志ではないということに安堵もしています。そうであったならば、アルは今のような気持ちでいることはできなかったでしょうから」

「あぁ」


 その地位に置かれたのが半ば強制的だとしても、今のアルヴィスは己の意志でそこにいると決めたのだ。先代国王が望んだ結果ではあるけれども、先代国王に強制されたわけではない。同じであっても違う。大切なのは、己が決めたという点のみ。責任感が強いアルヴィスのことだ。一度そう決意したからには、その意志は強固なものだろうから。


「アルヴィスが国王となれば、またルベリアは変わるのかもしれないな」

「旦那様?」

「キアラ王女殿下の将来、そしてこの先生まれるアルヴィスの子。その子たちの未来の選択肢を広げてやりたいと、そうアルヴィスは考えているようだ」


 その根底にはリティーヌの存在もあるはずだ。長子であったのにただ女という理由だけで、弟であるジラルドのために世界を狭めさせられてしまった。学園にも通えず、望む知識を得ることも叶わずに。おそらくはジラルドよりもよほど王位を継承するにふさわしい人物であっただろうに。研究という道を見出した今は、実際にそれを望んだかどうかは知れないが。いずれにしても、王家が女児に継承を認めるという動きをみせれば、男児たちにも多少は危機感を与えることも可能だ。特に、最近の貴族令息の一部にはどうも危ういところがある。


「貴族令嬢たちの意識も変わりつつある。それが良い後押しになってくれるだろう」

「そうですね」


 すぐに変わるというものではない。少しずつ、もしくは一部だけに留まることだって十二分にあり得る。だが議論するだけでも意味はあるとアルヴィスは言っていた。実行しようとするのであれば、ラクウェルはただそれを見守るだけだ。既にアルヴィスは王太子としてルベリア王国の国政の中心を担うようになっている。ラクウェルの手からは完全に離れてしまった。成人すれば親の手を離れるのは当然だ。それでも遠くに行ってしまったような気になってしまうのは、それだけアルヴィスが成長したという証なのだろう。


「……あっという間だ、本当に」

「そうですね」

「覚悟はしていた。子どもの時分しか親としてしてやれることはなかったのに、私たちはそれさえも放棄していた。今更なのだとわかっているが」

「それでも寂しいですね」


 乳母や侍女、侍従。自分たちの代わりに傍にいてくれる人間を置いた。彼らの方がよくアルヴィスを理解している。そう仕向けたのは他ならぬ自分たちだ。わかっていても、寂しくなってしまう。


「感謝しかない。皆には」

「はい。昔、イースラにも何度も泣きながら怒られましたし、エドワルドには溜息を吐かれて……本当にアルのことを大事にしてくれる子たちばかりでした」

「私もナリスには説教されたこともあった」


 使用人たちに怒られる当主夫妻など、おそらくここだけではないだろうか。その理由も意味もわかっているからこそ、ラクウェルもオクヴィアスもアルヴィスについてだけは彼らに頭があがらない。彼らのいう通りだと思っていたから。だからこそ、アルヴィスの周囲に人が必要だと言われた時、真っ先に彼らに話を通したのだから。誰よりも信用できる者たちだからと。


「アルヴィスの代わりだったのでしょう。あの子は私たちには何も言ってくれませんでしたから」

「そうだろうな」


 この先も、時にはアルヴィスを叱咤し、励ましながら傍に仕えてくれるはずだ。そういう意味では、この先もナリスをはじめとした彼らには一生頭が上がらないのだろう。


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