22話
コミカライズ版四巻発売まであと三日!
どうぞよろしくお願いします(*- -)(*_ _)ペコリ
ツェリーエと共にアルヴィスとエリナは墓地からほど近い教会へとやってきた。ここはアルヴィスが訪れたかった目的の場所でもある。何の因果か、こうしてエリナの旧知との出会いがあるとは思わなかったが。
アルヴィスたちを出迎えてくれたのは、教会の神父服を纏った初老の男性だった。
「ツェリーエ? と……貴方はアルヴィス様⁉」
「お久しぶりです、マルス神父」
「……大きくなられましたね。あの頃とは見違えるようです。お元気でしたか?」
「はい」
マルス神父から差し出された手をアルヴィスは握り返す。こうして顔を合わせるのは数年ぶりだった。そう、ここの教会も幼い頃アルヴィスが屋敷を抜け出して訪れていた場所の一つなのだ。
「アルヴィス様、こちらの方が」
「あぁ、君に会わせたかった人だ。まさか、エリナの知り合いがここにシスターとしているとは思わなかったが」
「そうか、ツェリーエが以前仕えていた屋敷のお嬢様とは貴女のことでしたか」
「はい、エリナと申します」
お互いに挨拶を交わした後、教会の奥にある談話室にアルヴィスとエリナは案内された。この教会はそこまで大きいものではない。ここにいるのは、住み込みで働いているツェリーエとマルス。それ以外のシスターも稀に来るが、基本的にはこの二人しかいないらしい。
「それにしても、お懐かしいです」
「ツェリーエ、まさかもう一度会えるなんて……本当に驚きました」
「うふふ、私に対してそのような話し方をなさるお嬢様なんて、不思議ですね」
「それはその……」
エリナは恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。サラの話だと、ツェリーエが屋敷を出ていったのはエリナが幼い頃であり、まだ令嬢としても未熟で礼儀も作法もままならない時期だった。だからこそツェリーエからしてみれば、淑女らしさを纏ったエリナの姿が新鮮に感じられるのかもしれない。
「本当に成長なされましたね。私も嬉しいです」
「ツェリーエのお陰でもあるんです。貴族らしさとか、公爵家の人間としてとか、そういうものがどうして必要なのかをあれからたくさん考えました。私はただの子どもで、みんなが私を褒めるのは公爵令嬢だからだって気づいたんです。ただのエリナとしての私を、叱ってくれたのはツェリーエしかいなかった」
エリナの言葉にアルヴィスは納得をした。正妻の子でありリトアード公爵家にとっては王家に嫁ぐことのできる有力な子女だったエリナ。最初から恵まれた環境にいながら、エリナにとっては祖父となるあの前侯爵の考えに染まらなかった理由。貴族として正しい感性を持ったのは、幼い頃にきちんとした人間が傍にいたからだと。もちろん、兄であるライアットや次兄のルーウェの影響もあるかもしれない。それでも、他人から受けた言葉たちというのは意外なほどその心に残るもの。アルヴィスがそうであったように。
「そんなことありません。ただ私は言わずにはいられない性分といいますか、気になったことは口に出ちゃうんです。それにちゃんと奥様にはバレないようにしていたんですよ。結構ずるい人間でしたから」
「そうだったんですね。でもそれは仕方がないと今なら思えます。だって、あの時のお母様にバレたらきっと追い出されるだけじゃすまなかったかもしれないもの」
「今は違うんですか?」
「えぇ、今のお母様はちゃんと私のことを考えてくれます。あの方との破棄の件も、あとで謝ってくれましたから」
「あの奥様が……にわかには信じられませんね」
「ツェリーエったら」
二人で談笑しあう姿をマルス神父と顔を見合わせて笑いあった。二人に聞こえないようにできるだけ小さな声で、耳元に寄せるようにしてアルヴィスへとマルス神父が話しかけてくる。
「ツェリーエは、自分に貴族としての生活は合わないと言って離籍を申し出たそうです」
「そうだったんですか」
「リトアード公爵家を出てからも、家には戻らず王都から出て転々と職を探していたそうですが、ここにも紹介で入ってきたんですよ。ちょうどアルヴィス様が学園に行かれた頃でしょうか」
すれ違うようにアルヴィスが王都へ行ってしまったことで、ツェリーエと会うことはなかったと。そのころからずっとツェリーエはこの教会で働いているということだ。
「王都の学園でのことはここまで届いてきまして、そのことを聞いたツェリーエはかなり憤慨していました」
「……そうか、ここにまであいつの噂は届いていたのか」
「なんといっても閣下は陛下の弟君ですし、継承権を持つ方々が多くいるということでも、ベルフィアス公爵家は特殊な立ち位置でしたから。まさか、お二人を飛ばしてアルヴィス様が王太子になられるとは想像しませんでしたけれど」
それは誰も想像しなかったことだ。アルヴィスもこうなることなど、夢にも思わなかったのだから。当事者でありながら、アルヴィスが本当の意味ですべてを受け入れることができたのも、半年以上が経ってからだった。
「ツェリーエはアルヴィス様のことも知らなかったようで、大分不満をぶちまけていましたよ」
「俺もそれほど社交界に出ていたわけではありませんでしたし、無理もありません。立太子後も、よく招待はもらいましたが」
正直、そんな余裕はなかった。貴族たちにいい顔をするよりも、王太子としての執務を覚える方を優先としていた。エリナとの時間を使うよりも。それを王妃たちや周囲の者たちからは、色々と指摘されはしたものの、エリナが行動に移さなければアルヴィスが変わることはなかったかもしれない。
「今は王太子夫妻が良好だというお話は、私どもにも伝わってきていますから。ツェリーエも喜んでいました。そこへの訪問ですから、嬉しいのだと思います」
「そうですね。きっと、エリナにとっても良い邂逅になったと思いますよ」
昨日の今日で噂の人物に会うことになるとは想像もしなかった。だがこれも巡り合わせというものなのかもしれない。
誤字脱字報告、いつもありがとうございます(;^ω^)
ほんと助かります。。。




