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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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18話


 エリナから話を聞いた後、アルヴィスはキアラの下に向かった。話があると言っていたキアラの予定は、頭に入っている。この日、アルヴィスの方は比較的余裕があった。キアラと予定を合わせることも難しくない。そう思い、キアラを直接訪ねることにしたのだが、キアラに与えられていた客室にその姿はなかった。


「あ、お兄様!」

「キアラ」


 侍女たちからキアラは中庭のガゼボにいるというので、中庭に出たのだが、当のキアラは花の観察に夢中だった。その様子がどこか姉であるリティーヌを彷彿とさせる。やはり姉妹だなと感じていたところで、キアラがアルヴィスに気が付いたのだ。


「キアラから俺に話があると、エリナから聞いたんだ」

「うん! そうなのだけど、アルヴィスお兄様の時間は大丈夫なの? 帰ってこられたばかりだし、まだお忙しいんじゃ……」

「あぁ、大丈夫だよ」


 そういって微笑みかければ、キアラも笑顔を見せてくれる。ならばこのままお茶にしようと、改めてガゼボへ二人で向かうのだった。

 侍女たちが準備をしてくれている間、アルヴィスはキアラに尋ねる。


「そういえば、やけに真剣に観察していたようだけど、何を見ていたんだ?」

「観察というほどのものじゃないんです。でも、ただここにはお姉様のお花がないんだなって思って」

「あぁ、リティの花か」


 リティーヌが品種改良した花。王都でもあまり出回っていない花であり、育てているところもない。あれはリティーヌのものであり、その栽培には王家が関わっている。尤も、繊細な花であるので、労力を考えるとあまり積極的に栽培したいという花ではないだろう。リティーヌもあの花の栽培については、さほど意欲的ではない。


「叔父様のお屋敷なら、あるかもしれないって思ってたから」

「……なるほどな。まぁ種さえ持ち込まれれば、難しいなりに庭師たちも頑張るだろうけれど」


 王女の花なんて大層な名前が付いた花だ。その扱いは慎重にならざるを得ない。ベテランの庭師たちは、花を愛でることが好きな連中が多いので、意気揚々として取り組むかもしれない。ただ、それにはリティーヌだけじゃなく、その母であるキュリアンヌ妃の承諾を得なければならないだろう。リティーヌの名を外に出したくないと考えていたのは、あの人だから。そういったことが面倒だと考えている部分がリティーヌもある。


「お姉様のお花綺麗なのに。他のみんなにも、たくさんの人たちにも見てもらいたいのに」

「それはきっと、リティがそう思った時に変わることもあるだろうさ。あいつは今でもその研究をしている。より強い花が生まれるかもしれない。そうすれば、いずれ王都だけじゃなく国全体へ流通させる日がくるかもしれないさ」


 今はないけれど、いつかはここにもその花が咲き誇る日がくるかもしれない。そう伝えれば、キアラは嬉しそうに頷いた。本当にキアラはリティーヌを慕っている。遠くない未来、この二人が離れる時がくることを想像すれば、ほんの少しだけ申し訳ない気分になった。


「アルヴィスお兄様?」

「いや、何でもない。それより、俺に話があるんだろ?」


 本題はそこだ。エリナからそう聞かされていた。キアラが改まってアルヴィスに話をしたいと。アルヴィスの言葉に、キアラは笑みを消して真剣な表情をアルヴィスへ向けた。


「アルヴィスお兄様、私はミリアリアと友人関係になりました」

「そうか」

「レオナ夫人からは反対されましたが、それでも私がミリアリアと友人になりたかった。それが私に必要だから。ミリアリアの視点はきっと私にはないもので、王女としても世間知らずな私には別の視点から物事を見て、私に媚びることなく正面から話をしてくれる人が必要だと思ったからです」


 これはキアラがアルヴィスを従兄としてではなく、王族の一人として話をしているということだろう。ならばアルヴィスも王族として応える必要がある。


「ミリアリアは確かに第二夫人の子という目で見れば、王女のキアラと友人関係になるには少し弱い。身分的には申し分ないし、公爵令嬢でありなおかつ国王陛下の姪であることに変わりはない。ただ正妻の子ではないという点でつついてくる輩はどこにでもいるからな」

「はい、わかっています」


 正式に法律で認められているもの。ルベリア王国では複数の妻を持つことが許されているし、その子にも継承権が与えられる。ただ正妻という名称が示すように、それを第一に考えるという人間はいる。第二という名前から、下位に見られることがゼロとは限らない。特に古い考えを持つ古参の貴族たちは。アルヴィスたちの代であれば、気にする方が少数派。いずれ、世代交代が行われれば風向きは変わる。しかし、そうとわかっていても、少数であろうとも意見する者が皆無にはならない。それで傷つけようとする者たちがいなくなりはしないのだから。


「だがラナリスでは年齢も離れているし、妥当といえばそうとも言えるだろう。でも一言言わせてもらうなら、キアラと年回りの近い令嬢は他にもいるから、その侯爵令嬢や伯爵令嬢ともいずれ顔合わせをした方がいい。かの令嬢たちも、キアラと同年代だからな」

「わかりました」

「その上で、ミリアリアを連れまわすのは別に構わない。ついでにミリアリアにも、いい勉強になる」

「はい!」


 あと数年で、ミリアリアもキアラも社交界へ出ることになる。その前に人脈を作り、友人の輪を作るのもいいだろう。ただそのためにはキアラの立場をはっきりさせておく必要もある。キアラなりに、考えていることがある。いつまでもリティーヌの庇護下にいるわけではないということだ。そのことをアルヴィスは頼もしく感じた。ならば、キアラにも伝えておかなければならない。


「キアラ」

「はい」

「俺は、キアラに言っておかなければならないことがある」

「……お兄様が私に?」

「近いうちに、伯父上は……国王陛下は退位される。それは聞いているな?」


 キアラは頷いた。王宮では既にその準備が始まっている。少しずつ、だがそれは確実に迫っていると。と同時に、それに伴うリティーヌとキアラの進退も決めなければいけない日も迫ってきているということだ。


「キアラには三つの選択肢がある」

「三つですか?」

「あぁ、成人するまでの間にはなるが……」

「聞かせてください」


 少しだけキアラの瞳が揺れる。それでも先を促すキアラにアルヴィスは頷いた。


「お前に示す選択肢、それは俺の庇護下に入り王女として残るか。伯父上たちと共に城を出るか。それとも、ここ……ベルフィアス公爵家の庇護下で過ごすかだ」



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