12話
本日、第7巻が発売しました!
宜しければお手に取ってもらえるとありがたいです(*- -)(*_ _)ペコリ
これからもよろしくお願いします。
その後、アルヴィスはラクウェルと共に領都を回った。よく知っている場所とはいえ、領主としての視点から聞く話はやはり違う。帰路につく頃には、すっかり空は茜色になっていた。
「領都だけであればこんなところだろう。あとはお前自身がその足で見るのもいいが、どこか気になる場所はあるか?」
あくまでラクウェルが案内してくれたのは表向きとしての視察。領都は王都ほど広くはないが、それでも細部まで見ていたら時間がいくらあっても足りない。気になる場所があるならば、己の足で動いた方が速い。それでもラクウェルは領主として承諾するわけにはいかないのだろうけれど。
気になる場所と問われて、アルヴィスは記憶の片隅にある場所を思い出す。今日歩いた場所からも見えてはいたものの、すぐに通り過ぎてしまった場所。かつて孤児院や荒くれ者たちが蔓延っていて、アルヴィスもたまに足を運んでいた場所だ。そしてアルヴィスが彼女と出会った酒場もその近くにある。
「……父上、元スラム街だった場所なのですが」
「ん? あぁ。あの場所にはあまり人は住んでいない。以前は流れ者たちの住処ともなっていたが、数年前にな」
「数年前というと、俺が学園に行く前ですか?」
「あぁ、そうだ」
ラクウェルが肯定する。学園に行く前だが、アルヴィスは知らなかった。あの後、アルヴィスが黙って外出する機会も減ったため、気づく機会がなかっただけかもしれない。ただなんとなく、それがアルヴィスとは無関係だとは思えなかった。
「父上はもしかして――」
「あの地に住んでいた人々は、領都ではない場所にいる。火山口、麓にある町だ。孤児院は残っているが、ほとんどの者たちは共にそこへ移住していった」
「……」
つまり、あの時アルヴィスが関わっていた人たちは既に領都にはいないということだ。それがいい事なのかはわからない。だが、あの酒場を含めてヴェーダと関わりがなかったと言えない以上、何かしら手を打つ必要はあった。そういうことだろう。
「今回の浄化に同行するというのなら、元々そこに住んでいた者たちと顔を合わせることがあるかもしれんがな」
「そうですか」
あくまで客観的に話すラクウェルは、アルヴィスから何か言われるのを避けているようにも見えた。ラクウェルは領主だ。この地、領都で起きたことを知らないはずはない。知っていてなお、そのことには触れないようにしている。少なくともアルヴィスからはそう見えた。
なんとも言えない空気が流れる中、屋敷へと到着したのか馬車が止まる。ラクウェルが先に降りて、その後アルヴィスが馬車を降りた。屋敷内へ入ろうとすると、ラクウェルが足を止めてこちらへと振り返る。
「いちいち言わなくとも今のお前なら理解していることと思うが、領都内を歩くことは構わない。だが一人になることだけはするな。それが見知った場所であってもだ」
「わかっていますよ」
念を押されなくともわかっている。ここはアルヴィスの故郷だが、視察という公的な目的で訪れているのだ。観光しにきたわけでも、故郷を懐かしむためにきたわけでもないのだから。
「今日はありがとうございました、父上」
「私もお前との時間を楽しませてもらった。少し休んだら夕食だ。またあとでな」
「はい」
そういって手を振り中へと入っていくラクウェルに続いて、アルヴィスも屋敷の中へと入る。その足で客室へと入れば、そこには書物らしきものを手にソファーに座っているエリナがいた。アルヴィスが入ってきたことに気が付くと、手をとめて書物をテーブルへと置いてからエリナが立ち上がる。
「おかえりなさいませ、アルヴィス様」
「ただいま。今日は、何をしていたんだ?」
朝食を摂ってからエリナとは別行動だった。その間何をしていたのかと尋ねると、エリナは笑みを見せながら話し始める。
「お義母様とお茶をしたり、執事の方に屋敷を案内していただきました。あと、侍女長の方ともお会いしてイースラとアルヴィス様のお話も少し伺いました」
「……まぁそうなるよな」
エリナと共通の話題を選ぶとなれば、それはアルヴィス以外にない。それは母だけでなく、この屋敷にいる人間ならば誰でもそうなる。ここへ来ると決めた時点であきらめていることだ。
「楽しかったか?」
「はい、アルヴィス様の小さい頃の話が聞けて楽しかったです」
楽しかった。問いかけておきながら複雑な心境だった。幼少時の頃の自分など、思い出したくもない。記憶にある限りでもだいぶひねくれていたというのに、第三者から見られた姿などどれほど酷かったのか。
「小さい頃からイースラとハスワーク卿とは一緒だったのですよね」
「イースラがいつからいたのかは覚えていないが、エドは物心ついた時には傍にいたよ。それでもイースラが侍女として傍にいたのは、学園に入る少し前だった気がするな。俺付きになる前は母上の傍にいたはずだ」
見習いであってもその姿はいつも見ていたし、付く人間が違っても遠くに感じることはなかった。それでもイースラを侍女としてみたのは、大体その辺りだろう。
「幼い頃のイースラのお話も聞きました。とてもませていたと仰って、隣でイースラは顔を真っ赤にしてましたよ」
「……それはまた」
当人がその場にいたというのならばなんという苦行だろう。アルヴィスならば耐えられない。イースラは侍女という立場上動けない。ゆえにその場にとどまり、耐えるしかなかった。ここへきて過去の話を話題にされるのはアルヴィスだけではなかったらしい。イースラも、おそらくエドワルドもこの地ではその対象になるということだ。そのことに、アルヴィスは少しだけ気が楽になったように感じた。




