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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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閑話 帝国の皇帝と皇太子

帰国後のグレイズのお話


 アルヴィスがルベリア王国へ到着した翌日、マラーナ王国を出発したグレイズも帝国へと到着していた。いつもの出迎えを受けて、当たり障りのない対応をしたグレイズはテルミナを置いてから、皇帝の下へと向かう。状況が状況だけに、テルミナを同行させることはできない。何より、これは皇帝と1対1で話さなければならないことだ。

 グレイズの申し出に、皇帝は執務室でも謁見室でもなく、皇帝の私室へとグレイズを招き入れた。久方ぶりに入るこの場所。グレイズは思わずため息を吐いた。


「どうした? ここがそんなに苦痛か?」

「いえ、いい思い出がないだけですよ、父上」

「研究を止めろと散々説教した場所だからな」


 そう言いながら快活に笑う彼は、現ザーナ帝国皇帝でありグレイズの父。ほとんど己と同じ容貌を持つからこそ、幼い頃からグレイズは父の幼少期と比較されて育ってきた。研究者としての道に走ったのも、父への反抗心からだった。この部屋はそれを思い出させる。今となっては、父も周囲もグレイズの道を認めてくれているのだろうが、古い考え方の祖父たちの代はあまりいい顔をしていない。尤も、グレイズがそのようなことで引き下がるわけもなく、やられたからにはやり返してきた。面と向かって、グレイズを非難するような身の程知らずは帝国にはそうそういないだろう。


「隠居した爺連中のことなど、もう気にする必要はないだろう。それに、お前は反骨精神が強いからな。口を出せば、その倍になって返される。やつらも流石に思い知っただろう」

「黙っているのは性分に合いませんから。それに、昔の事です」


 いずれにしろ、過去の事だ。今はそれより話すべきことがある。思い出話に花を咲かせに来たわけではないのだから。


「父上、先のマラーナの件ですが」

「お前からの報告書は受け取った。実際に、お前がルベリア王太子を手に掛ける手伝いをしなかったのは僥倖だったな。帝国としても、かの国に恩を売れる。他国の連中にも、融通が利くようにもなった。こちらとしては、利しかない」


 ルベリア王国に対しては、王太子であるアルヴィスと共に行動し、彼を手助けした。そして何よりあの中に於いて、彼の暗殺に加わらなかったのが一番大きい。ルベリア王国からの信頼を勝ち取り、尚且つ恩を売れる。本意ではなかったとはいえ、彼を暗殺しようとした例の国賓たちは間接的にではあるが、グレイズに恩がある形となった。暗殺が回避されなければ、国賓たちの国は世界中から非難を受けただろう。それを回避したのだから。

 グレイズは帝国の利を考えて動いていたわけではない。個人的にアルヴィスという人間が気になっていたし、興味は尽きなかった。王族であるというのに率先して動く異質さ。それはおそらく彼の性質のようなものなのだろう。短い期間だったが、グレイズはそう感じ取った。生まれた時から培われてきたものは、そう簡単に覆すことはできない。公爵家の人間としても彼は異質なのだから。これまでの人生の中で、彼がそうなるに至った何かがあるのだ。それを知ることはないだろうけれど、もしその中に彼が神に選ばれた理由があるのならば、暴いてみるのは面白いだろう。テルミナに至っても、好みだったというくらいしかわかっていないのだから。


『好み、ですか? 本当にそう言っていたのですか?』

『はい。顔とマナが好みだって。面白いって言われましたよ?』

『……そう、ですか』


 神の契約者となるには何が必要なのか。ますますわからなくなった。気まぐれだったのか、それともテルミナが特別だったのか、アルヴィスが特別だったのか。アルヴィスは特別な血を引いているのはわかる。彼は、ルベリア王族。ルベリア王族は創世神話において女神とされているルシオラの子孫だと言われている。ではテルミナは……。


「おい、グレイズ。聞いているか?」

「っ⁉ 申し訳ありません。聞いておりませんでした」

「お前は……何を考えていたのかは知らんが、報告に来たのであれば相応の態度を最後まで取れ」

「失礼いたしました。ただそうですね……私は、恩を売りたくてルベリア王太子殿と行動をしていたわけではありませんので、父上のお考えには恐らく賛同できませんよ」

「……聞いていなかった、のではないのか?」

「えぇもちろん」


 聞いていなかった。それは間違いない。ただ、皇帝である父が何を考えているかなど想像することは難しくない。何を言おうと、賛同できないことだけは間違いないと断言できる。


「……そういうところは、お前は妃にそっくりだな。あいつもわかっていないようで、見通しているようだ」

「母上は、見た目通りの人ではありませんからね」


 裏では皇帝の参謀とも言われている皇妃。常に柔和な態度ではあるが、その頭の中は常に策略を練っている。テルミナには決してできない芸当。いや、そんな母が皇妃だからこそテルミナのような天真爛漫な女性を皇室は求めているのか。


「お前も妃の事は言えまい」

「誉め言葉として受け取っておきます。それと、各国の国賓たちの処遇を待っていただけるように父上からも助力をお願いできますか?」

「彼らからしてみれば、そのまま死なせてやる方が救いだろう?」

「だとしても、彼らが死すればかの国たちは責任を果たしたと忘れてしまうやもしれません」

「……」

「国を出たいというならば、帝国とルベリア王国で引き取ります。かの王太子殿とも、そう話をして参りました」


 これは事前にアルヴィスと打ち合わせていたことだ。アルヴィスからすれば、単純に巻き込まれた彼らを死なせたくないという想いからだろう。だが、彼とてわかっている。死した方が救いだということは。国賓側の国としても、その方が楽になる。わかっていて、この提案だ。


「ルベリアも直ぐに対応されるでしょう」

「こちらも急げと、申すのか?」

「えぇ」

「いずれにしろ、こちらにも受け入れた方が彼らの国民たちからは理解を得られます。そのご家族含めて」


 何をしたかはどうであろうとも、家族からしてみれば生きている方が嬉しいはずだ。それに国同士の問題で処罰されたということは、この先本人だけでなく家族にも大罪としてのレッテルが貼り続けられてしまう。しかし少なくとも、生きていれば最悪を防げる。罪は罪だが、当事者であるルベリア王太子本人が望んでいることだからと。これを無視することなど出来はしない。本人や国がどう思っていようとも。


「我が国はまだしも、ルベリアからの提案ならば受け入れるしかあるまい」

「その通りです。アルヴィス殿は、ただ優しいだけの王太子ではないようです。意外と、強かな部分もあるご様子。だからこそ、異様に見えるのでしょう」

「どういう意味だ?」


 父にしては珍しく困り顔だった。グレイズが言っている意味が分からないのだろう。当然だ。父はアルヴィスに会ったことがないのだから。会えば理解する。その在り様にも、異質さにも。だからこそ、興味が尽きないのだということも。


「なんでもありません。非常に面白い素材というだけです。可能ならば、そのマナを調べられるのならばいいのですが」


 それはそれで面白いだろう。テルミナも面白いが、アルヴィスはより面白そうだ。他国の王太子であることが非常に悔しい。簡単に呼びよせることが出来ないのだから。


「次に会える日が楽しみです」

「……相手は王太子だ。わかっているんだろうな?」

「わかっていますよ」


 わかっていると言ったのに、父は呆れた顔をしたままだった。信用されていないということだ。とはいえ、これはいつものやり取り。グレイズはたいして気にしていなかった。


「では私はこれで失礼します」

「あぁ」

「あ、忘れていました。テルミナをアルヴィス殿の妃にという打診ですが、きっぱりと断られましたよ。では」


 言うべきことを言ってグレイズは、その部屋を後にする。その後で……。


「ついでのように報告するな……」


 一人残された彼の呟きは、グレイズには届かなかった。



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