22話
糖分補給!
になっていたらいいな(;^ω^)
王太子宮へと帰ってきたアルヴィスは、エントランスでエリナたちに出迎えられた。王城に到着した時とは違い、エリナも笑みを浮かべている。アルヴィスは優しくエリナを抱き締めた。エリナもその腕を背中へと回してくれる。
「おかえりなさいませ、アルヴィス様」
「あぁ、ただいま」
王城ではなく、王太子宮へ戻ってきた。数日だったはずなのに、随分と長いこと帰ってきていなかったような気さえする。アルヴィスにとっての帰るべき家はここなのだ。それを改めて実感させられた。
エリナと身体を離してから、アルヴィスは出迎えてくれる侍女たちを見つめた。その中に、エドワルドの姿を見る。彼はどこか堅い表情をしていた。
「エド」
「ご無事のお戻り、何よりでしたアルヴィス様」
「……そっか、お前は聞いているのか」
「はい」
マラーナ王国の王都で何が起きたのか。この様子だとエリナは知らされておらず、エドワルドには伝えられている。そう判断したのは国王だろう。もしかしたら、その内容は多く知らされていないのかもしれない。
「アルヴィス様、ハスワーク卿」
アルヴィスとエドワルドの会話の内容がわからないエリナが、二人を心配そうに見つめている。何かがあったことはエリナもわかっているだろう。詳しいことを知らないだけで。
「妃殿下には、アルヴィス様からの方が宜しいでしょう」
「そうだな。お前の判断に感謝するよ」
エドワルドが深々と頭を下げる。まだ陽は高いし眠る時間でもない。夕食にもまだ早かった。それでもアルヴィスは帰還したばかりだ。そのため一旦、湯あみの為部屋へと下がることになった。
湯あみを終えていつもの服装へ着替えたアルヴィスは、自室のソファーへと座り背中を預けた。既にトーグから受けた怪我の痛みはない。今回の怪我といえば、掌のものくらいだろう。アルヴィスは、包帯をしている左手を眺める。
セリアン宰相のナイフを握った手。予想よりも深い傷となったためか、包帯はしたままだった。エリナと会った時は手袋をしていたので、見られてはいない。それでも直ぐに気づかれてしまうものだ。今もまだ完全に塞がっていないため、自分で簡単に手当てをして包帯を巻いている状態だった。後で、フォランには見せなければならないかもしれない。だが、今は動く気になれなかった。
「……疲れたな」
誰もいないことを良いことに、アルヴィスはソファーに横たわった。そしてそのまま目を閉じる。気を張ることなく休むことのできる場所。ルベリア王国内に入ってからは、さほど気を張り詰めて居ないつもりだった。けれど、それでも無意識のうちに力んでしまっていたのだろうか。ここまで疲れを感じたのは、本当に久しぶりだ。
睡魔に襲われそのまま寝入りそうになったその時、コンコンと扉がノックされる。ハッとしてアルヴィスは身体を起こした。
「っ……入っていい」
「失礼します」
そうして入ってきたのはエリナだった。その後ろにはティレアとサラがいて、手には何かを持ってきていた。それをテーブルへと置いて、二人は黙ったまま部屋を出ていく。置かれたのはティーセットのようだった。エリナはアルヴィスの隣へ座ると、手慣れた様子で用意を始めた。
「お疲れだと思いましたので、ハーブティーをお持ちしました。リティーヌ様が、アルヴィス様が戻ってきたら飲ませてあげて欲しいと仰っていたので」
「そうか。リティにも気を遣わせたな」
「……眠っておられたのですか?」
「いや……まぁ眠りそうだっただけだ」
少し声が掠れているのが自分でもわかった。眠ったつもりはなく、眠りそうだっただけ。それでも掠れているということは、知らずのうちに寝ていたのかもしれない。
「起こしてしまってすみません」
「わざわざ俺の為に用意してくれたのだろう? なら謝る必要はないさ。ありがとう、エリナ」
ポンと頭に手を乗せて、エリナの頭を撫でた。すると、エリナが何かに気が付いたように顔を上げて撫でていない方のアルヴィスの手を取る。そう、包帯をしている方の手だ。
「アルヴィス様、これ……」
「あ、あぁ。さっきは手袋をしていたからな」
「この怪我は、マラーナで、ですよね?」
「……そうだな。明日にでも、一応フォラン特師医には見せようとは思っている。リヒトの奴が手当してくれたし、後は完全に塞がるのを待つだけで痛みはない。だから、そんな顔をしなくても大丈夫だ」
目に見える怪我はこれだけ。それもどちらかといえば自分でつけた傷のようなものだ。あの時、掴む以外に選択肢はなかった気はするけれども。それでも悲しそうな表情をしているエリナの頬に、アルヴィスは右手を添える。
「何もなかったとは言わないし、無傷だったわけじゃない。それでも、俺はここに帰ってきた」
「アルヴィス様……」
「危うい時に君の顔が浮かんだんだ。だから、俺はエリナに感謝している。ここに戻って来れたのは、エリナのお蔭だから」
湖に落とされた時、アルヴィスはエリナの顔が見えた。助けてくれたガリバースによると、光がアルヴィスを守っているように見えたらしい。同時期に見えたのだ。それはエリナがアルヴィスにくれた力だったのだろう。
「俺を助けてくれて、ありがとう」
頬を撫でて顔を近づければ、エリナは応えるように目を閉じてくれた。アルヴィスはそのままエリナと唇を重ねる。ゆっくりと顔を離したアルヴィスは、そのままエリナの胸に頭をくっつけて目を閉じた。するとエリナはアルヴィスの頭を抱き締めてくれる。
「君のところに戻って来れて良かった」
「……戻ってきてくださって、ありがとうございます」
「あぁ」
目を閉じれば、温かい気配がする。エリナは常々マナの力が低いことを気にしていた。確かに、エリナの保有量は少ない。出来ることだって限られている。けれど、このマナの力はアルヴィスにとっては心地いい力だ。その力にアルヴィスは助けられている。リュングベルの時だってそうだった。感謝してもしきれない。
そんなことを想いながら、アルヴィスはエリナの声がどこか遠くなるのを感じていた。




