20話
帰国の途……マラーナ編ももうじき終わります。
ここまで見守ってくださり、本当にありがとうございます!!
翌日、アルヴィスは予定通りに王城を出立することが出来た。マラーナ側からの見送りはガリバース一人だった。ただテルミナからの一撃によるダメージから回復がしていないらしく、フラフラ状態で立っているのもやっとという風に見えた。必死に取り繕うとしているが、足は震えているし常にお腹を押さえていて、誰が見ても辛そうだった。
あくまであの時のテルミナはガリバースを助けようとしたということで、マラーナ側からは何も言われていない。そもそも現状に於いてマラーナは他国に意見をするようなことは出来ないだろう。この先も……。
馬車の中で肘を突きながらアルヴィスは過ぎゆくマラーナ王都を見つめていた。短い期間だったはずなのに、随分と長い間ここに居たような気分になる。それだけ濃い時間だった。喜ばしいことなど何一つなかったというのに。
「アルヴィス、大丈夫か?」
「あぁ。俺は問題ない。リヒトは?」
「あるわけないだろう。俺はただ見てただけなんだから」
「そうはいっても、お前は騎士たちの薬の処方やらなんだかんだと動いていただろう」
特師医はいないため、操られていた騎士たちの対応はリヒト一人で行っていた。加えて他国の来賓たちの対応もだ。
「お前ほどじゃないって。お前と帝国の皇子には、あの人たちも頭が上がらないだろうな」
「俺よりグレイズ殿の方が色々とお前と動いていたけどな」
「まぁ研究者という意味で馬が合ったんだろう。薬自体に興味はなさそうだったけど、今回の解毒薬は気になっていたみたいだし。それよか……あの来賓の人たちはどうなるんだ?」
「……わからないな」
正気に戻った彼らからは、一斉の土下座を食らう羽目になってしまった。あれは彼らにもどうすることも出来なかった。知らぬとはいえ、手を汚したのは事実だからと帰国したら別途謝罪をするとも言われた。公にしたくない出来事ではあるが、彼らの立場上黙っていることも出来ない。王には全てを報告する義務が彼らにはある。事が事ゆえにどういう処分を受けるかはアルヴィスも気がかりだ。
「表面上は彼らが宰相に手を貸したようにも見える。正気の状態ではなかったのは確かだが、それを証明できるのは俺とグレイズ殿だけだ。他者から見れば、あれが彼らの意志でなかったかどうかなどわからない」
アルヴィスほどではないにしても、グレイズにも違和感はあった。だとしても、どのような状況であろうと襲った相手が悪かったとしか言えない。どういう判断を下すのかは、各国の王の采配による。グレイズも陳情を送るとは言っていたし、アルヴィスもそのつもりではある。しかし、それがどれほどの効力を持つかは微妙なところだ。
すると突然パチンと、額を小突かれた。
「っ」
「しけた面してんなよ」
小突いてきたのはリヒトだ。馬車内には二人しかいないので、そもそも犯人はリヒト以外にあり得ない。突然の痛みに、アルヴィスは思わず額を空いている方の手で押さえた。
「お前が全員のことに対して責任を感じる必要なんてないんだ。お前の所為じゃないんだからさ」
「それは……」
「巻き込まれたんだよ、お前は。その契約にしたってそうだ。たまたま、お前が都合のいい場所にいた。親父さんとお袋さんの力をいい具合に継いだ上、ルベリアの王族だった。全部、お前が決めたことじゃない。そういう場所にいた。ただ、そこに生まれただけだ」
「リヒト」
リヒトの見解は、確かに間違いではない。それでも責任を感じずにいることなど出来なかった。アルヴィスは聞いたから。ルシオラと契約をしたアルヴィスをマラーナにおびき寄せることが、目的の一つだったということを。それがセリアン宰相の中にいた彼が求めていたということを。
「でもそれお前じゃないだろ? その目的はルシオラだ。女神様であってお前じゃない」
「それは屁理屈じゃないか」
「だがそうだろ? 戻ったら、大聖堂にでも行って文句でも言って来たらどうだ?」
「簡単に言ってくれる……」
言えるならば苦労はしない。大聖堂よりも墓所の方がルシオラに会える可能性は高い。しかし、アルヴィス一人で墓所に向かうことなど出来ないし、また近衛を振り回すことにもなる。となれば大聖堂の方がはるかに行きやすい。ルシオラと会話ができるのはどういう条件なのかが全くわからないのが一番の難題だ。
「落ち着いたら大聖堂に行ってみるか」
しかし今回の件について話を聞いてみるのはありだ。話ができないとしても、もう一度書庫に行ってみるのもいい。彼が何者なのかも、明確な答えが欲しい。この胸に抱いた懐かしい感覚が本当なのかどうかも含めて。
ルベリア王国へと入ったのはその翌日。そして王都に到着したのは、その三日後だった。




