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閑話 建国祭開催

エリナ視点となります。



 ルベリア王国では、建国祭が始まっていた。その初日のパーティーも終わりに近づいている。既に退席している来賓や参加者もいる中で、エリナは改めて会場を見渡した。昨年よりも少しだけ華やかさが足りなく感じるのは、やはりアルヴィスが不在だからだろうか。


「はぁ」

「エリナ? 疲れたの?」

「いえ、そうではないのですが……何となく」


 物足りなさを感じてしまう。いるはずの人がいない。あるはずのものが欠けているという感じだろうか。たった一人がいないだけで。

 チラリと国王らへと顔を向けてみると、国王と王妃は揃って来賓たちと談話を楽しんでいるようだった。エリナも先程まで、リティーヌと共に他国の外交官夫妻と話をしていた。来賓たちとの挨拶も談話も、ほぼエリナの役割は終えたと言えるだろう。ここで退席しても文句は言われない。それでも今宵は、最後まで会場にいたかった。エリナは王太子妃、そして王太子であるアルヴィスは不在。その代理としての役目を以て、エリナはこの場にいる。ならば最後まで見届けるべきだと。

 今回はダンスをすることはなかった。本来ならば、率先して相手を務めるべきだろうが、エリナの体調を考慮しすべてのダンスは断らせてもらっていた。懐妊したことは周知の事実であるので、機嫌を損ねることもない。そもそも断られることを承知で、という人ばかりだった。


「今回の会場についても、来賓たちの対応についてもエリナはよくやっていたと、シルヴィ様も仰っていたわ。やり切れたと言ってもいいと思うわよ?」

「はい、ありがとうございます」

「……それとも、アルヴィス兄様が心配、とか?」

「……」


 リティーヌが少しだけ躊躇うようにその名を告げる。名を出すのを躊躇ったのは、アルヴィスからの便りがないことが原因だろう。マラーナ王国を出立する時には連絡をすると告げていたのに、今もそれがない。予定からすれば、既に出立をしていていいはずだった。

 エリナは両手を胸元で組むようにして握りしめる。何事も起きていなければいい。ただ連絡が遅れているだけ。そうに違いない。


「あの人からも何も言ってきていないのよね?」

「はい」


 もし、何か異常事態でも起きていれば国王へ連絡が届いているはずだ。しかし国王からも何も言ってきてはいなかった。建国祭を無事に終わらせることに専念しようと、それだけだ。


「まったく……本当に役に立たないんだから」

「陛下が仰らないということであれば大丈夫だとも思うのです。でも、マラーナ王国へ入った後からは一度も連絡が来ていませんから」


 国境を越えてからは一切の連絡がない。アルヴィスのことだから、不測の事態が起きたならば必ず連絡をしてくると思う。だからこそ不安なのだ。まさか、手紙を送ることが出来ない状況に陥っているのではないかと。


「なら、ルーク隊長に言ってマラーナの状況を確認してもらえるようお願いしてみる?」

「アンブラ隊長に、ですか?」

「建国祭が落ち着けば可能だと思うのよね。でも、行き違いになっちゃう可能性もあるけど。何もしないでいるよりいいじゃない?」


 便りがないことは、エリナだけではなくエドワルドはもちろんのこと、ルークたちも心配だろう。頼めば伝令を飛ばしてくれるかもしれない。だが、エリナは首を横に振った。


「それでも、近衛隊の皆さんに無理をお願いするわけにはいきません。それに、私は大丈夫です」

「でも、エリナは不安でしょ?」

「不安じゃないといえば嘘になるかもしれません。ですが、この子が大丈夫だと言ってくれている気がするのです」


 そう言ってエリナはお腹を撫でた。先日、急に痛みを感じて以来、お腹が痛むことはない。時折、元気に動いているように感じるときもある。それが、エリナが不安に駆られそうになった時なのだ。まるで、エリナに大丈夫だよと言ってくれているように。


「……そっか」

「もしかしたら、何かが起きているかもしれません。私を案じて陛下も黙っていてくださっているのかもとも思います」

「あの人が? そんな気遣いができるとは思えないけれどね」


 リティーヌの中の国王の評価は限りなく低い。全く信用がないと言った方がいいだろう。それでも、国王がアルヴィスの事に一切言及せずに建国祭に専念すると言っていたのは、もしかしたら何かが起きたことを既に知っていたのではないか。建国祭が終われば、それをお話してくれるかもしれない。いずれにしても、エリナはアルヴィスの代理としてこの場に立っている。どのような事情があろうと、もしアルヴィスの身に何かが起きていたとしても、この場を放り出すことはできない。ならば、信じて待つことしか出来ないのだ。


「信じて待っています。きっともうすぐ帰ってくると。この子と共に」

「エリナ……そうね、その通りかもしれない。アルヴィス兄様も、リヒトもちゃんと帰って来る。まず私たちが信じてあげないとね」

「はい!」


 まだ初日。建国祭は始まったばかり。帰ってきた時に、胸を張っていられるように。己の責務を果たす。信じて待つ。それが今のエリナに出来る、精一杯のことだから。


(待っています、アルヴィス様)



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