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15話

漸く再会させられました!

早く暴れさせてあげたい、と思いますのでもう少しお待ちください。。。


 朝起きたアルヴィスに伝えられたのは、衝撃的な知らせだった。

 アルヴィスが亡き者となったことについてはまだいい方だ。問題はその後、処罰するとした対象が国葬の参列者であり、他国の要人たちだということ。そこに、ディンとレックス、そして何故かガリバースが含まれていることだ。


「……」

「意外と冷静なんだな」


 この情報を持ってきたブラウからしてみれば、暴れ出すか直ぐにでも飛び出していくとでも思われたのだろう。否定しきれない部分があるので、アルヴィスはただ苦笑する。そうして見えるだけで、ただのやせ我慢をしているというのは、もしアルヴィスをよく知る者であれば感づいたかもしれない。

 本心では、直ぐにでも駆け出して行きたい。彼らを助ける為ならば、多少の危険は覚悟している。そう言い切って走り抜けたい。だが、それは出来ない。万全の状態で動かなければならない。その為に、アンナは王城へ出向いたのだから。


「今、私がすべきことは部下を信じること。あいつらが、無事であることを信じて動くことだけですから」

「アルヴィス殿」

「ただ侵入するというのは、少々厳しくなりましたか」


 王城内も騒いでいるはずだ。既に準備は始まっているだろうし、警備も変わっている可能性がある。昨日までの考え方ではなく、別の策を練り直す必要も出てくるかもしれない。とアルヴィスが告げると、ブラウは頭を掻きながら首を横に振った。


「……いや問題ないだろう」

「どういうことでしょうか? アルヴィス殿の言う通り、警備は厳しくなっていると思われますが」


 グレイズもアルヴィスど同じ考えだったようだ。だが、ブラウからしてみれば問題ないという。それは一体なぜなのか。


「あんたがたの国では当たり前かもしれんがな。現時点で、王城内を警備しているのは貴族上がりの子息か、その七光りにあやかっている連中ばかりで、本当の意味での警備として力がある連中はほぼいないんだよ」

「……それは、警備として機能はしていないということですか?」

「通常なら、近衛騎士団と王騎士団とで警備を担っていたんだ。ご存じの通り、近衛騎士団は解体され、王騎士団しか残っていない」


 王騎士団が警備を担っているとのことだが、彼らは国王を守るだけの存在で、実力は二の次。最近では、国王が臥せってることもあってただ見回るだけの仕事となり、王城にいる人数も減っているということだった。


「……」

「……何と言いますか、国としてそれはいかがなものかと思いますが」

「こういっちゃなんだが、ルベリアとザーナは他国を侵略するという考えがないだろ? その両国にはさまれているマラーナからすれば、そういう方面の力があっても使わない。無駄だと言われるんだ。だからこそ、娯楽に耽る王侯貴族が多くなって……まぁこういう有様というわけだ」


 思わずグレイズと二人で顔を見合せた。平和な世界を良しとしてきたため、確かに他国を侵略するという考えはない。だが魔物との戦闘は決して少なくない。それを踏まえても、力が必要ないなどと言えるわけがなかった。他国と戦うための力ではなく、自分たちの国を守るための力だから。

 マラーナでは、傭兵という存在が各地にいる。貴族たちは高い給金を払って傭兵を雇うらしい。国は各地に騎士団を派遣するなどしないからだ。己の領地は己で守るしかない。給金が払えない場合は、非合法なやり方で人を集める。つまり奴隷制度のこと。この制度はかなり根強く蔓延っていたようだ。彼らをただの道具として使い捨てるために。

 王都の周辺には高い石造りの壁があり魔物たちの侵入を防いでいる。それなりの強度を誇るため、これまでに魔物の侵入を許したことは一度もないらしい。尤も、以前は騎士団が出向いて討伐もしていたらしいが、ブラウでさえ又聞き程度の情報なので、かなり昔の話なのかもしれない。


「なるほど。ならばここの国王が存命だとしても、建設的な話は出来なさそうですね」

「腐ってるんだ、この国は。王族も全てな。だから宰相については評価していたんだが……それも全部覆りそうだ……」

「ブラウ殿……」


 平民出身の宰相。国王が不在だからこそ、彼ならば変えてくれる。そんな一抹の期待を抱いたこともあるという。だが、それもただの幻だった。


「他国の王族であるあんたらを巻き込んでまで何がしたいのか。俺にはわからん。だが、それでもせめて無事に国に戻ってもらいたい」

「ありがとうございます」

「えぇ、無事に戻って見せますよ。アルヴィス殿と共に」

「……ありがとうよ。ぼちぼち刻限だ。準備はいいか?」


 これで話は終わり。アルヴィスはフードを深く被って顔を隠すと、己の愛剣の柄へと触れる。体調に問題はない。十二分に動ける。

 グレイズと目を合わせれば、強い頷きが返ってくる。


「よし、行きましょう。王城内へ」


 夜に紛れるのもありだが、逆に夜に動くと怪しまれる。アルヴィスたちは、王城内の巡回をしている警備の穴をついて、内部へ侵入するつもりだ。使用人用の入り口へ向かうと、ブラウは王騎士団の隊服をまとった。


「知り合いのものだが、あいつらは顔を確認することをしないんで、服装が立場を現すことと同義だ」

「何故ですか?」

「関わりたくないから、だな。王城内に残る騎士連中はそういうのばかりなんだよ」


 人同士の関係が希薄。己の事だけを考えて行動する。そういう人間ばかりなせいか、王城内は薄汚れていて全体的に昏い印象を与える。働く人間の感情がそうさせているのかもしれない。


「おっと、前から人……ん? あれは」

「……どうやらうちのお転婆娘が行動を起こしていたようですね」

「グレイズ殿?」


 人が来たということで、ブラウを先頭にしながら柱の陰に隠れた。その様子をグレイズが顔だけ出して確認している。


「侍女服を着ていますが、間違いなくテルミナですね。なるほど、こういう行動力もあったのですか。とはいえ、同行者の知恵でしょう。あの子にそのような考えはありませんから」

「あんたの知り合いか。なら大丈夫そうだな」

「えぇ」


 柱からグレイズ、そしてブラウが出る。すると、女性の声が届いた。と共に、パタパタと足音も聞こえてくる。


「あー! グレイズ様――!」

「はしたないですよ。大きな声を出さないでください。でも……無事で何よりですテルミナ」

「グレイズ様もですよ。心配、はほんの少しだけしてました」

「そうですか。まぁその位でいいです」


 グレイズの前に立つのは、小柄な少女だった。彼女がテルミナ。神の加護を得たという、もう一人の人間。じっと視線を送っていた所為か、テルミナと視線が合う。といってもアルヴィスはフードを深く被っているため、テルミナからは視線が合ったという認識はないだろうが。


「……グレイズ様、あの人は?」

「あぁ。彼は」


 自己紹介をしようとしたグレイズが口を紡ぐ。流石に王城内では隠さなければならない名だと思ったのだろう。アルヴィスは宰相に未遂であろうとも殺されかけたのだから。

 アルヴィスは柱から出て、少しだけフートを上げた。こうすれば顔も見える。


「申し訳ありません。今は挨拶も出来ない事、お許しくださいご令嬢」

「……わぁ、王子様だ!」

「テルミナっ」

「あわわ、すみませんっ! でもだって……実物の王子様みたいですよー」


 額に手を当てて呆れるグレイズだが、アルヴィスは困った顔をすることしか出来ない。実物も何も、王子なのだから。


「お前……アル……」

「え?」


 聞き覚えのある声がしてアルヴィスは横を向いた。そこには、料理人の服装をした青年が立っている。


「リヒ、ト?」

「っ! お前……」


 駆け出してくるリヒトは、アルヴィスに抱き着いてきた。勢いが良かったためか、アルヴィスは受け止めきれずに床にリヒト共々倒れてしまう。


「痛っ……」

「アルヴィス……無事で、良かった……お前」


 小さな声だった。ここでアルヴィスの名前を呼ぶことが出来ないため、こういう行動に出たのだろう。だが、震える声からどれだけ心配をさせたのかが伝わってきた。


「ごめん……心配かけた」

「……あぁ。心臓に悪い」

「お前も無事でよかった」


 顔を上げたリヒトは、いつものような笑みを向ける。アルヴィスは指でリヒトの頭を小突いた。


「とりあえずさっさと退け」

「感動の再会が水の泡だぜ?」

「うるさい」


 アルヴィスの上から退けたリヒトが手を差し出してくる。その手を取って、アルヴィスも立ちあがった。リヒトに倒された所為で外れたフードをまた深く被る。そのフードの先をリヒトがもっと強く引いた。


「リヒト?」

「前見えない程度まで隠した方がいい。隠れてないんだよ、お前は」

「見えないって、歩けないだろうが」

「手で引っ張ってやるよ。ほら?」

「いらん」


 差し出された手を今度は払いのけたアルヴィスだった。




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