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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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閑話 潜入調査


「それで、あんたはこの先どうするんだ?」

「出来れば宰相の傍まで行きたいところですが、あまり目立つ行動をするわけにもいきませんからね」


 リヒトたちがいるのは、使われていない空き部屋らしき場所。アンと名乗った女性に連れて来られた。埃が溜まっていてあまり長居したくないが、そうも言ってはいられない。そもそも埃が溜まっているということは、この部屋に来る人間もいないということだ。少なからず使った形跡があるのであれば、それなりに痕が残るもののそれさえもなかったのだから。


 アンと合流して、リヒトはまず安堵した。アルヴィスもグレイズという帝国皇太子も無事だということがわかったからだ。ただ、彼らが堂々と戻って来れないところを見るに、何かしらアルヴィスたちに不利な出来事でもあったと考えられる。


「アルヴィスたちと合流するわけにもいかないしな……」

「現時点において、貴方たちが城を出るのはやめておいた方がいいでしょう。下手をすれば殿下の居場所が知られてしまいます」

「わかった。そういや、シーリング卿たちには知らせたのか?」


 リヒトとは別に、貴賓室で留まっている二人の近衛隊士。彼らにこそアルヴィスの無事を伝えるべきだ。だが、アンは首を横に振った。


「あの部屋へも侵入しようと思いましたが、殊の外視線がうるさくてできませんでした」

「……もしかして、俺の所為?」

「かもしれませんね。あの周辺で突然被害にあった人達がいたらしく、警備を強化するというのが表向きの話で、もう一つはレオイアドゥール卿とシーリング卿を閉じ込めるためでしょう。同じようなことは、他国の貴賓室でも起きていますから、彼らだけ特別扱いというわけではないようですが」


 貴賓室エリアを一通り確認してきたらしい。それはそれでかなり危険な行為だが、アルヴィスの部下ならばある程度の変人がいてもおかしくはないのかもしれない。シオディランといい、変に癖のある連中に好かれるのがアルヴィスだ。リヒトは自分の事は棚に上げて、納得していた。


「ともあれ貴方方の恰好は目立ちますので、着替えていただきましょうか」

「着替え?」

「ミンフォッグ嬢は、私と共に侍女服へ。アルスター殿はこちらを」


 そういって手渡されたのは、白いエプロンにコック帽子、赤いネクタイだ。どこからどう見ても料理人の服装だった。


「おい、これ」

「宰相の部屋に行くのは無理ですが、厨房から潜入しましょう。多少酒が入れば、堅い口も開きますし、そういった手法をアルスター殿はお持ちでは?」


 人が少ないとはいえ、厨房には人がいるはず。確かに、あそこには人が集まりそうだ。学園でも研究室でも、食堂という場所はたまり場でもあった。教師たちの本音を暴くために、何度か実験もさせてもらった場所でもある。今度はそういったことを、他国の城でやれというのだろう。


「へぇ……楽しそうだな、それはそれで」

「……ここで緊張とか恐怖とか感じない当たり、貴方も大分普通ではありませんよね?」

「いざとなれば、俺はアルヴィスと無関係を装うさ。あいつに迷惑をかけないことくらい弁えている」

「それは殿下自身がお許しにならないと思いますが、まぁ使えるモノは毒でも使うということには賛成です。ミンフォッグ嬢はどうします?」


 リヒトとアンの会話に加わることなく、ただ聞いていたテルミナ。この先行動を共にするということは、今から起こす行動の共犯者となる。


「もちろん、一緒に行きます。なんか楽しそうですし」

「楽しそう、か」

「悪いことを暴くって感じですよね? なんかワクワクします‼ それにグレイズ様がここにいても、黒い笑みを浮かべながら便乗したと思いますよ」


 どうしてだろうか。テルミナから聞く帝国の皇太子がどうしても想像と違い過ぎて、帝国皇太子像がことごとく崩れていくような気がする。アルヴィスはあれでいて、王子様然としている。公子だったときから、染みついているものだから本人は意識せずにやっていることだろうけれど。


「帝国の皇太子さまか。なんか、俺と気が合いそうな気がする」

「そうすると、リヒトさんも変人認定されますね」

「……否定できないところを突くよな、あんた」


 ともあれ、テルミナも共に三人で厨房へと侵入することになった。三人とも王城の使用人を装ったためか、先程よりも視線を感じない。顔を見れば同僚かどうかわかりそうなものだが、それさえも興味ないということなのだろうか。


「ここまでスルーされると却って怪しく感じるんだが……」

「制服は単なる記号のようなものです。中身がどういうものかなんて、ここでは気にしないのでしょう。昨日までいた同僚が突然こなくなる、というのも当たり前にある職場だったらしいですし、一人一人を個として認識していないということです」


 アンの言葉が正しかったということは、実際に厨房へ入ってからよくわかった。リヒトたちがお辞儀をするだけで中に入ると、すんなりと同僚だと認識されてしまったからだ。彼らはリヒトたちの顔を見て判断したのではない。見たのは服装だけだ。たったそれだけで判断されてしまうことに、違和感を抱かずにはいられなかった。


「おい、お前らのどちらかでいい。宰相閣下の食事を下げてきてくれ」

「え……⁉」


 ガタイのいい料理人。ここでの責任者っぽい人が、テルミナとアンを指さして指示した。侍女服は着ているが、二人は王城の侍女ではない。突然そのようなことを言われては戸惑うだろう。と思っていたが……。


「私が行ってまいります」

「さっさといけ」

「はい」


 アンが向かうと即答した。リヒトと目が合ったアンは片目をつぶって微笑む。それはまるで、「任せて」と言っているようだった。


「見習いはさっさと倉庫を片付けてこい。そこの侍女も暇なら手伝え」

「……はい」

「はーい」


 そもそも倉庫ってどこにあるのか。そう思いながらも廊下を進む。


「アンさんって人、凄いですね。嬉しそうに向かっていきましたよ」

「元々宰相の部屋に行きたいって言っていたからなぁ。チャンスだ、とでも思ったんだろうけど、普通は即決しない」

「あはは、確かに」


 危険も危険な場所だ。それに顔だって見られる。いくら侍女服を着ていても、流石に宰相が相手では侵入者とバレてしまうのではないか。


「……え、それほんと?」

「うん。なんでも王子様が加担したとかで……らしいよ」

「……それほんとに大丈夫、なのかな。だって普通に考えてあり得ないと思うの」


 廊下の隅。そこでリヒトとテルミナは足を止めた。話し声が聞こえてきたからだ。小さな声だが、内容は聞こえる。テルミナと顔を見合せて、話し声がする方へと向かうと勝手口らしき戸が開いていた。その奥から聞こえるらしい。


「なんだか、気になることを話している気がしません?」

「同感」

「では突撃します?」

「……ちょっと気持ちよくなってもらってからにしようか」

「?」


 そういうとリヒトは懐から小さな瓶を取り出す。足音を立てないよう注意しながら戸へ近づき、テルミナに口を塞ぐよう指示をした。そうして瓶の口にあるコルクを取ると、彼女たちの前へと姿を見せた。突然現れたリヒトに、話をしていた侍女たちは驚き目を見開く。


「な、誰ですか⁉」

「何か楽しそうな話をしていたみたいだからさ、俺にも教えてよ」

「何故、貴方に……あれ? 貴方、誰でした、っけ?」

「ちょーっと聞きたいことだけ答えてくれればいいよ」


 瓶の口を彼女たちに向けながらリヒトは先ほど何を話していたのかを聞き出した。ペラペラと話をしてくれた彼女たち、ひとしきり話をしたあとはそのまま眠ってしまう。ただこの時のリヒトに、彼女たちを気遣う余裕がなかった。話をしてくれた内容に激しい憤りを感じていたからだ。


「……」

「あの、それほんとなんですかね?」

「……」


 テルミナの声などリヒトには届いていなかった。ただ、この先どう動くべきかを必死に考える。

 アルヴィスは行方不明という扱いならばまだわかる。しかし、彼女たちははっきりと言った。ルベリア王太子は亡くなったと。もし、それがルベリア王国にでも伝えられてしまえばどれだけの影響を及ぼすか。

 アルヴィスの妃であるエリナは妊娠中という大事な時。このようなことを聞かされてしまえば、どれだけエリナが気丈であっても耐えられるものではない。それはアルヴィスを従兄と慕っているリティーヌとて同じだろう。


「胸糞悪い……どいつもこいつも、何故アルヴィスに拘るんだ。あいつが何をしたというんだよ」

「……神の加護を得た人間は良くも悪くも人を惹きつける。それが摂理であり、道理」

「は?」

「だそうです。私はただ気に入られたから、それ以上の意味はないって言われました。けれど、ルベリアの王子様はきっと違います。だってルベリア王家ってルシオラ様の子孫なのでしょう?」

「……そう言われているのは確かだな」

「であれば、そこに意味があるはずです。何か、までは私にもわかりませんけど」


 何か意味がある。もしかすると、国葬自体がアルヴィスをマラーナに呼ぶための罠だった。国王の死すらそのための道具。では一体何のために。そこがわからない。だが、差し迫っているのは別のことだ。


「何にせよ……まずは宰相のやることを止めるのが先か」

「ですね。これで私も()()暴れられそうですし」

「その辺りは期待させてもらおうか」


 暴れるという言葉が比喩表現でしかないと思っていた。何故なら目の前にいるのは可愛らしい令嬢だからだ。そんな彼女が、まさか身の丈ほどもある槍を振り回すなんて、誰が想像するだろうか。



いつも誤字脱字報告ありがとうございます。

多くて申し訳ありません。。。

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