11話
アルヴィス視点に戻りました!
改めてグレイズからブラウを紹介され、アルヴィスは己がどういう状況だったのかを知った。あの場所にガリバースがいたということが未だに信じられない。アルヴィスの中では、昨年の建国祭での振る舞いが残っている。
「アルヴィス殿下が信じられないのは当然かと思います。我々も、内心では何か企んでいるのではと思っている者も多い。残念ですが、現段階で王族に従う人間は、元部下の中にもほぼおりません。そういう意味では、王太子は孤立無援と言えるでしょうね」
「……なるほど」
この状況で己の立ち位置すら失ったガリバース。彼が何をしたいのか。その意図が全く見えない。本当に善意でアルヴィスを助けたとは考えられないからだ。
「先ほど、アンという女性の部下らしき男が戻ってまいりました。アルヴィス殿下の護衛とご友人は無事だと」
「⁉ ……そう、か」
ディンとレックス、リヒトも無事らしい。そのことに安堵を覚える。彼らに何かしら危害が加えられたのならば、悠長にしていられる時間などないのだから。ただ、アルヴィスが戻らないことに不信感を抱いているはずだ。どう誤魔化しているのか知らないが、このような状況は半日と持たない。相手が宰相である以上、動きにくいのは確かだが。
「そういえば、グレイズ殿と共に滞在している例の令嬢のことは……」
消息がわからなくなっているのはグレイズも同じ。ということは、残された令嬢も心配をしていることだろう。そう思いグレイズに問いかけると、彼は肩を竦める。
「あれは放って置いても大丈夫ですよ。むしろ、暴れて備品などを壊さないか冷や冷やしているところです」
「……」
「……」
ブラウとアルヴィスは思わず顔を見合せる。暴れて備品を壊す。それが想像出来ない。その令嬢は高位ではないが貴族令嬢。暴れるという言葉が最も似合わない立場の人間ではないか。
「グレイズ殿、それは流石にないのでは?」
「あの子ならやりかねませんからね。お淑やかとは程遠いんですよ」
「……まぁ多少なら羽目を外してもいいんじゃないですかね。どうせ城の備品なんて大したもの置いてません」
ブラウの言葉は令嬢に対するフォローなのか、それとも本当にそう思っているのか。判断に困る微妙なラインだ。そもそも城の備品は消耗品ではないし、管理者とて報告されれば困惑するだろう。と考えながら、アルヴィスは首を横に振った。ここはルベリアではないのだから、アルヴィスが考える事ではない。
「ともかくあの子の心配はいりません。万が一のことが起きても、彼女は大丈夫ですよ。あの子には加護がありますからね」
「……そうですね」
神の加護を持っている人間。それが絶対的なものではないが、グレイズはその恩恵に自信を持っているようだ。彼がそういうのならアルヴィスがこれ以上言う事はない。
「それとこの後はどう動きましょうか。下手に動き回るのも危ういですし、そもそもアルヴィス殿のその髪色は目立ちますしね」
「確かに。マラーナ王国ではアルヴィス殿下のような髪色は珍しいですし……」
アルヴィスの髪は金色だ。これはルベリア王家の血が入っている証でもある。どういうわけか、ルベリア王家の血を引く男児は必ず金色を持って生まれてくる。尤も色合いは個々で違っており、中には白銀に近い色となる者もいる。女児であっても金色を持つ子もいるので、男児に限っているわけでもない。この件については、ただそういうものだと認識されているだけで理由はわかっていない。今更それについて論議している者もいないので、アルヴィスもこれ以上のことは知らない。いずれにしてもこれはルベリア国内に限った話だ。
他国に出ればそのような特別性はないし、意図的に染めるという人間もいるという。ただ、マラーナではほぼそういう人間はいない。このまま外を出歩けば、直ぐにアルヴィスだと気づかれてしまうだろう。
「アルヴィス殿は城下に向かう場合、どうされているのですか?」
「特に何かをしたことはありませんよ」
「それでは気づかれてしまうのでは?」
王都でもベルフィアス公爵領都でも、顔を隠したことは一度としてない。一人で出歩くことも少なかったのもあるが、アルヴィスが人を近づけさせない雰囲気を纏っていたというのもある。気づかれたとしても話しかけてくるような猛者はいなかった。貴族であれば違ったかもしれないが、そもそも貴族が城下を歩くこと自体少ない。不便を感じたことはほとんどないと言っていい。
「問題を感じたことはありませんので……ただ他国においては違うという事は失念していました」
出歩くのならばこのままではいけない。ただ、髪色を染めるというのも道具が必要だ。ならばフードを被るくらいしかないだろう。
「ブラウ殿、外套か何かがあれば貸してもらいたいのですが……」
「その……団の備品でよければありますが」
「団というと、近衛騎士団の?」
「えぇまぁ」
近衛騎士団。既に解体されてしまっているが、ブラウの傍には未だに元団員たちがいるという。アンナと出会ったのも、そこのたまり場だったようだ。アルヴィスはあることを思いつく。
「なら、それを貸してください。あとグレイズ殿にも」
「私もですか?」
「えぇ。そのままブラウ殿の部下ということで、同行しましょう。その方が情報も手に入りそうですし」
既に解体しているため団員服というものはないので、このままの服装でも問題はないだろう。アルヴィスもグレイズも、王族として立ち振る舞うわけにはいかない。ならばこの方が紛れる手段として手っ取り早い。
「俺は構いませんが、王太子殿下方を部下扱いというのは少々……本当に構わないんですか?」
「はい。言葉遣いも他の部下の方と同じで構いませんよ」
「アルヴィス殿がいいのであれば私も乗りましょう。中々に楽しい経験になりそうですし」
楽しいと言ったグレイズは、満面の笑みを浮かべていた。帝国の皇太子に対してお願いするようなことではないが、グレイズは全く気にしていないらしい。本当に楽しみだと、その表情が言っている。
「えっと……まぁ、その貴方方がいいのでしたら」
「ブラウ殿」
「……わぁーったよ。んで、アンタらはどう呼べばいい? 流石にそのままってわけにはいかないだろう?」
半ば諦めたように頭をガシガシと掻きながら、ブラウが呼び名を聞いてきた。確かにアルヴィスとグレイズでは駄目だ。
「では私はレイとでも。アルヴィス殿は?」
「愛称ということであれば、アルだな」
「アルとレイだな……似ている名前だが、そもそも俺と同行しているとは思われんだろうし、それはそれでいいか。んじゃ俺は外套を取ってくる。少し待っていてくれ」




