4話
マラーナ到着!
そしてようやく出せたあの人!!
シリアス風味続いてごめんなさい。。。
マラーナ王国との国境を抜けて途中大きな街に立ち寄りつつ、アルヴィスら一行は無事に王都へと到着した。
「……」
「アルヴィス、どうかしたのか?」
正面に座るリヒトが怪訝そうな視線を向けてきた。今、アルヴィスは馬車の中にいる。ルベリア国内と違い、馬車の窓はカーテンを閉めた状態だ。外から内部を窺い知ることは出来ない。そんな中、アルヴィスはカーテンの隙間からほんの少し王都の様子を盗み見た。王都の入り口、そして恐らく貴族らが住んでいるだろう居住区。見ることが出来たのは、ほんの一瞬の様子。それだけでもちょっとした違和感を抱いた。
「国王が崩御してまだ日が浅い。国中が喪に服す期間だ。恐らく国葬が終わっても、数週間はそれが続くだろう。大体一月程度は」
「まぁそれはわかるけど、それが?」
「……いや、ただちょっと不思議に感じて」
「だから何をだよ」
どう説明すればいいのか。アルヴィスは困り顔になる。マラーナ王国の王都。ルベリア王国でも王都は日中は賑やかだった。恐らく常ならば、ここマラーナ王国もそうなのだろう。今は喪に服すという例外期間。そして亡くなったのは国の最高位に当たる人物だ。敬意を払い、賑やかさは身を潜め閉じこもる人々もいるだろう。しかし、流石に一般国民が誰一人として姿を見せていないというのは不思議だ。
そういう周知でもされているのだろうか。不用意な外出を控えるようにと。であるならば、貴族に対しても同様に周知されるはずだ。だというのに、貴族の居住区らしき部分に入ると空気が変わった。それは喪に服すなどといった雰囲気ではない。
「お前は、伯父上……陛下をどう思っている?」
「どうって……別に何とも。頼りになるとは思えないし、頼れないとも言えないけど特別関わる必要があるわけでもないからな」
「だろうな。陛下と顔を合わせるような貴族でなければ、それほど何かが起きても意識することはない」
敬意を払っていないわけではなくとも、遠い存在として考えるのが普通だろう。平民にとってはそういうもの。悲しいとか感情的になることはない。ただ貴族は違う。体裁を取り繕う意味でも、表向きは悲しむ形をとる方がいい。本心でどう思おうが、そこは関係がない。少なくともアルヴィスはそういう考えだ。だからこそ、ここの貴族居住区の雰囲気が腑に落ちない。
「普通は逆だろう? 如何にマラーナ国王が親しまれていなかったとしても」
「そりゃま、普通はな。次期国王への配慮というか、この先目を掛けてもらうためってやつ?」
「あからさまに言えばそういうことだ」
派閥というものがあるとすれば、あの王太子派と幼い王子のどちらか。ただ立太子している以上、王太子が即位するのが道理だ。幼過ぎる王子では議論にさえならない。そうだとしてもこの状況は可笑しい。まるで、王族に対する敬意など必要ないとでもいうようだ。
「……」
「アルヴィス、お前何を考えている?」
「いや、考えすぎであることを祈りたいと思っているだけだ。もうすぐ王城へ着く。そうすれば会話には特に注視しなければならないだろうな」
「わかっているって。お前も、一人にならないようにしろよ」
「あぁ」
本来ならこのような面持ちで来る場所ではない。表向き友好国だというのにこの緊張感。一体この国で何が起きているのだろう。
そんなことを考えていると、馬車が止まる。どうやら到着してしまったらしい。ここから先は、常に緊張感を抱いたまま過ごさなければならない。馬車の扉が開くと、ディンが顔を見せた。
「アルヴィス殿下」
「今いく」
「はっ」
ディンに促されるままアルヴィスは馬車を降りた。続くようにリヒトも馬車を降りてくる。
「遠いところを良くおいでになりました。ルベリア王国のアルヴィス王太子殿下。私は、宰相をしておりますシーノルド・セリアンと申します」
「ルベリア王国王太子、アルヴィス・ベルフィアス・ルベリアだ。出迎え痛み入る、セリアン宰相殿」
笑みを浮かべながらアルヴィスは挨拶をした。宰相である彼は国王亡きいま、彼がマラーナ王国を動かしていると言っても過言ではない。そんな相手が出迎えに来るとは予想外だった。内心では驚きつつも、アルヴィスは笑みを浮かべることで隠す。
「お目にかかることができて光栄でございます。お噂に違わず美しい方で、少々気後れしてしまいました」
そう言葉では言っているが、全くそのようなそぶりはない。シーノルド・セリアン宰相は、アルヴィスよりも身長が高くがっしりとした体格だった。彼を見て、誰も文官だとは思わないだろう。軍出身者とは聞いていたが、かなりの強者だというのが気配でわかった。剣だけでやりあえば、確実にアルヴィスの方が力負けする。
「お疲れのところ申し訳ありません。国葬は明日ですので、今宵はごゆっくりお休みください。護衛の方々にもお部屋をご用意しましたので」
「感謝する、宰相殿」
「アルヴィス王太子殿下方のご案内を」
後方へと控えていた騎士と侍女二人にセリアン宰相が指示を出すと、彼らは言葉を発することなく深々と頭を下げた。
「どうかごゆるりとお休みくださいませ」
セリアン宰相に見送られてアルヴィスはその場を後にした。
案内された部屋は貴賓室だろう。広々とした部屋の奥には寝室がある。護衛であるディンたちは、少し離れた場所に部屋を用意したとあるが、ディンとレックス、リヒトはそちらではなくアルヴィスと同じ部屋で過ごす旨を伝えた。離れた場所では護衛の任が務まらないからだと。すると彼らは目を見合せて困った顔を見せた。それでも要望には応えなければと思ったのだろう。侍女の一人がアルヴィスの前で頭を下げる。
「……承知いたしました。そのようにお伝えしてまいります」
「ありがとう」
「っ⁉ い、いえ、失礼いたします」
面倒な真似をさせたことを謝罪すると、侍女は驚いたように顔を上げた。そして慌てた様子でもう一度頭を下げると、足早に部屋を出ていく。騎士と残りの侍女も後を追っていった。
「アルヴィスー」
「何だ?」
「お前さ、愛想振りまき過ぎるなよ」
「してない。それに今の反応はそういうことじゃないだろう……」
アルヴィスの言葉に照れたわけではない。驚いたというか、信じられないという風に見えた。ディンとレックスに同意を求めれば、二人は頷く。
「恐らく、アルヴィス殿下がというよりも王族の方から感謝されることがなかった、ということでしょう」
「……あいつは言いそうにないし、あの王女に至ってもそうだろうな」
「同感」




