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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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閑話 王城での妃の様子

エリナ視点です。

次回はアルヴィス視点へ戻ります。

 アルヴィスが出立して二日が経ったこの日、エリナは己の執務室で迫る建国祭へ向けて、資料へと目を通していた。

 建国祭は王家主催のものだ。昨年のエリナは、王太子の婚約者として参加していた。その立場は、ホスト側に近いが、貴族令嬢ということでゲスト寄りのもの。だが今回は違う。アルヴィス不在の中行われるということもあり、その代理という役目もある。今年の来賓たちの中に王族はいない。昨年が異常だっただけで、通常はそういうものだ。


「宿泊する方々のと、そのお部屋の準備と……」


 必要となるものの手配や、護衛と侍女の配置。それらは既にアルヴィスの手で行われている。エリナは最終確認をするだけでいい。不測の事態に関してはエドワルドが動いてくれるらしいので、エリナがやることは本当に確認だけだ。


「エリナ様、宜しいでしょうか?」

「えぇ、大丈夫よ」


 ノックが届き入室の許可を出す。そこへ顔を出したのは、サラとリティーヌだった。


「リティーヌ様」

「こんにちはエリナ。シルヴィ様から報告書を預かったから渡しに来たの。時間は大丈夫?」

「はい」


 作業がひと段落したところだと告げると、それならば少し休憩しようとサラがお茶の準備を始める。エリナはリティ―ヌと向かい合わせの形で執務室のソファーへと座った。


「じゃあこれは先に渡しておくわね」

「ありがとうございます」

「来年はエリナに任せるつもりだって仰っていたから、その為にも何か質問や意見があれば教えてほしいとシルヴィ様からの伝言よ」

「わかりました」


 受け取った報告書にサッと目を通す。それはパーティー会場での飾りつけやテーブル配置などといった会場設営に関するものだった。建国祭の件については慣例化されている物事が多い。だが、毎年全く同じというわけにはいかない。そこは王族の采配にある程度任されている。

 会場内は王妃がメインとなって準備をしていくのだ。エリナも当然知っていること。


「去年は体調もあってシルヴィ様は任せきりにしてしまったから、余計に力が入っているみたい」

「そうなのですね。あ、でも……」

「何か気になることでもあった?」

「建国祭の会場は王妃様が主軸ですけれど、昨年は違ったということですよね?」

「えぇ、シルヴィ様はふさぎ込んでいらっしゃってたから」


 ジラルドの件でかなり衝撃を受けてしまった王妃は、昨年の建国祭でもまだ復調していなかった。それはエリナも覚えている。


「では昨年は誰が」

「去年は、アルヴィス兄様が一人でやってたわね」

「え……これもですか?」


 リティーヌは頷く。その表情はどこか呆れ顔だった。


「なんていうか、兄様ってちょっと完璧主義じゃないけれど、自分が知らないのに認めるってことが出来ない人なのよね。あと、テキトーにっていうのが出来ない人」


 それは当然だろう。アルヴィスは王太子として様々なことを許可、承諾する立場の人間だ。知らないことを認めることなど出来る訳がないし、してはいけない。リティーヌが呆れる理由がエリナにはわからなかった。リティーヌもそれを悟ったのだろう。怪訝そうに見ているエリナに、緩慢な動作で首を横に振った。


「エリナも同類だったわね。そういえば」

「同類、ですか?」

「要するに、慣例だからこうするっていうだけじゃ理由にならない。どうしてそうするのか。そこに根拠がないと実行しない人だから、かなり忙しくしていたみたい。それに加えて執務もようやく慣れてきたっていうところだったから、本当によく倒れなかったと感心してもいいくらい」

「アルヴィス様……」


 忙しくしているのは何となく知っていた。手紙の返信は数回に一度で、一言だけ綴られたカードと花束が贈られてくることの方が多かったから。


「エドワルドたちが駆け回っていたし、もっと大変だったのは彼らかもしれないけれど」

「そうですね」

「エリナも、丁寧で真面目なのはいいけれど、ちゃんと休む時は休まないとダメよ。似たもの夫婦なんだから」

「はい、ありがとうございます」


 楽しくお話をした後、リティーヌは帰っていった。リティーヌは毎日のように用件を持ち込んでは、エリナと話をしていく。きっと心配をしてくれているのだ。アルヴィスが傍に居ないことで、エリナが不安になっていないか。泣いていないかと。

 立ち上がったエリナは執務室の窓辺に立つと、マラーナ王国の方角を見つめた。

 朝起きても誰も傍に居なくて、食事も一人で摂る。それでも周りにはサラを始めとして、沢山の人たちに囲まれていた。だから大丈夫。

 胸元にあるペンダントに触れて、エリナは目を閉じた。


「とても寂しい、けれど不安ではありません。ですからどうか、アルヴィス様が無事でありますように」


 祈りを捧げる。もはや日課のようなものになっている。声が届くことはないけれども、何もしないよりはいい。ひとしきり祈りを捧げると、エリナは執務机に向き直る。


「では、続きをしましょうか」


 再び確認作業を行う。明日にはハーバラが王太子宮へ来る予定であり、その後も予定が入っている。体調に異変を感じない限り、エリナは動くつもりだった。それが王太子妃としてここを任されたエリナの役割なのだから。



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