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1話


 マラーナ王国へ出立する日の朝。いつものように朝の鍛錬を終えたアルヴィスは、王太子宮の私室に戻って汗を流す。出発するのは昼過ぎ。まだ時間はある。だが、ゆっくりできるのは朝方だけだろう。着替えを済ませたアルヴィスは、静かに寝室へと入った。薄暗い室内には、人の気配がある。エリナだ。寝息が聞こえてくる。まだ眠っているらしい。

 起こさぬようにとベッドサイドへと回り、エリナの傍に腰を下ろした。暫くこの寝顔が見られなくなる。そんなことを考えながら、エリナの長い髪をひと房だけ右手に取った。それに口づけを落とすと、左手で頭を撫でる。

 普段のエリナならば、数週間程度離れていてもそれほど不安にはならないはずだ。そうではないからこそ、エリナの様子も普段とは違うのだろう。今のアルヴィスに出来ることは少ない。この件については、恐らくアルヴィスの乳母でもあったナリスの方がよほど理解出来ることが多い筈だ。


「アルヴィス、さま?」


 身じろいだエリナが目を開く。アルヴィスは手を止めて、頬に右手を添えた。


「おはよう、エリナ」

「おはようございます」


 微笑みながらアルヴィスの手に己の左手を添えるエリナを見て、アルヴィスも自然と頬が緩む。その手を取り、エリナが身体を起こすのを支えた。


「ありがとうございます」

「あぁ。サラを呼んでくる」

「はい」


 エリナの支度をサラに任せて、アルヴィスは寝室を出て自室へと戻る。するとそこには、先程はいなかったエドワルドが待っていた。


「おはようございます、アルヴィス様」

「あぁ、おはよう」


 エドワルドは今回同行しない。アルヴィスが戻るまでの間、その仕事の調整や補助を行う。最終決定権はアルヴィスにあるが、その事前までの段取りや指示について委任している。アルヴィスがエドワルドを信頼しているからこそだ。場合によっては国王との連携も必要になる。ある意味でエドワルドの力量が試される場となるだろう。


「エド」

「はい」

「建国祭関連はあらかた片付けておいたが、追加で何かあるようならば伯父上と連携してくれ。近衛隊と騎士団はそれぞれ事前に通達してあるから、それほどお前を困らせる案件は持ってこないと思うが」

「わかっております」


 マラーナ国王の崩御もあって、国外からの来賓は昨年に比べて少ない。今年は慣例どおり聖国からの出席者はいないし、他国からも来賓たちは外交官がほとんどだ。気になるところといえば、マラーナ王国からも来賓が来ることくらいだった。

 自国にて仮にも国王の国葬が行われるのだから、国全体が喪に服す。国内行事であっても、一月以上は行われないし、他国の行事も参加しないのが常識だ。こちらがかなり前から予定されていたとしても、事情故に不参加としたところで何の問題もない。それがどれほど直前であったとしてもだ。

 こちらから参加について問い合わせたところ、予定通り参加するという回答があった。これには文官全員が首を傾げてしまったほどだ。国交を断っているわけではないので、これをこちらから拒否することも難しい。参加するのがただの外交官だとしても、普通は国の方を優先すべきだろう。一体何を考えているのか。


「どうかされましたか?」

「……いやなんでもない」


 考えても仕方がない。そもそもあちらの国の考えがそう簡単にわかるのならば苦労はしないのだ。あの宰相についても。


「近衛へはこの後行かれますか?」

「朝食後に顔を出す予定だ」

「承知しました」





 朝食を摂った後で、近衛隊に出向きルークと細かな打ち合わせを行う。騎士団の同行者の確認を終えてから、アルヴィスは国王の下へ向かった。出立の挨拶のためだ。その玉座の前に膝を突いて、国王と視線を交わす。


「アルヴィス」

「はい」

「かの国に何が起きているのか。その目で確かめる機会にもなろう。近年のは、黙認出来ぬことが多々起きすぎておる。それがどういうことなのか。ここからでは見えぬことも多い」


 はじまりがいつだったのか。マラーナ国王は決して名君ではなかった。好きか嫌いかで問われれば、どちらかというと嫌いに入る部類の人間だった。それでも個人の感情で国の繋がりを決めることは出来ない。先祖代々続いてきた繋がりを断ち切るには至らない。前回のことだって、国として関りがないことだと謳われればそれまで。事実がわからない以上、その先を追及することは出来なかった。

 今回のマラーナ訪問は、アルヴィス自身が己の目でマラーナという国を見る数少ない機会でもある。改めて友好国として続けるべきか否かを判断する岐路に立っているのだろう。ならば、アルヴィスもその役目を果たすまでだ。


「道中よく気を付けて向かってくれ。何よりも己の身を第一に動くことを肝に命じよ」

「承知しました」

「無理はせぬようにな」

「……はい」


 その場で立ち上がったアルヴィスは、胸に手を当てて頭を下げる。


「では陛下、行ってまいります」

「うむ」



こういう宣伝をなろうに書いていいかどうかというところなので、やんわりとだけ。。。。

本作品のグッズがオーバーラップストア様で予約開始されました!

お花企画ということで、キャラのお花をイメージしているそうです。

詳しくは、オーバーラップストア様のサイトをご覧ください(*- -)(*_ _)ペコリ

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