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18話


「この時期に留守にすることになるとはな」

「けど、お前以外に適任がいないのも確か、か」


 執務机で溜息と共に言葉を吐き出せば、それを見ていたレックスは多少不機嫌そうに眉を寄せた。こちらの状況とあちらの状況を踏まえれば、それ以外の選択肢がないことなど誰だってわかることだ。


「そういうことだな」


 先日まで建国祭の準備などに追われていたというのに、今度はマラーナ王国へ出立する準備に追われることになってしまった。と言っても、建国祭についてはあらかたまとめているので引き継ぐものはさほど多くない。問題は、マラーナ王国へ行く準備の方だ。


「人員はどうされますか?」


 ディンの言葉にアルヴィスは、近衛隊の人員を思い浮かべる。建国祭とも被るということは、そちらの人員を割かなければならない。


「我々専属は当然殿下に同行しますが」

「隊長副隊長は伯父上、陛下のところだな。残りも全員こちらに待機だ」


 少し考えた末に出した結論はそれだった。国王は当然の事として、エリナもいる。リティーヌらもいるのだ。近衛隊はここに残しておくべきだろう。


「それに国葬という形に、大勢を連れてはいけないからな」

「ですが、専属だけでは流石に」

「お前、自分の専属隊士が少ないってわかっているだろうが」


 アルヴィスは少し特殊な王族だ。騎士団を経て近衛隊へと入隊した実戦経験のある王族。ルベリア王家では珍しい部類に入るだろう。だからこそ、近衛隊の人員は最低限にしてきた。

 事情を分かった上で不満をぶつけて来るレックスが、アルヴィスを心配してのものだと理解している。それでも近衛隊に余裕があるわけではない。


「多少騎士団からも人を回してもらうさ。出来るだけ、実力重視で行きたいところだな。実践経験の多い騎士で固めておきたい」

「……アルヴィス、お前」


 ただの国葬で終わればいい。しかし例の瘴気の件と合わせて考えても、何も起こらないという保証はなかった。人員を増やすということは、ある程度危険を承知で向かうということと同義。そしてアルヴィスは、無事に帰ってこなければならない。その中で誰かが犠牲になったとしてもだ。


「マラーナ国王の急逝。これは宰相の作為によるものだと俺は考えている。あの国には何かが起きていることは間違いない。だがそれを他国へ共有することがない。この時点で、警戒をするなという方が無理だ」


 マラーナ王国に潜入させている影からの報告だ。流石に城の内部まで詳細を探るのには手間取っているらしいが、今の時点でも警戒するには十分な情報だった。


「代理を立てて向かわせるということも出来なくはないと思いますが」

「これが別の王族であればそうしたさ。だが……マラーナ国王ともなれば、な」


 マラーナ王国で行われるというだけであれば、アルヴィスが向かう必要はない。ディンの言う通り、代理人を出せばいいだけだ。それが出来ないのは、葬る相手が国王だった人物だから。それ以外にはない。


「それに代理人を立てたところで、今のマラーナに向かわせるのはな。それならば俺が行った方がマシだ。リスクも最低限にできる」

「妃殿下は、宜しいのですか?」

「……」


 その指摘に、アルヴィスは言葉を詰まらせた。エリナは理解をしている。ただ、今のエリナの状態が普通でないことはアルヴィスもわかっていた。わかっていても、アルヴィスが私情を優先することはできない。エリナの傍に居るという選択肢などない。たとえ、エリナがどれだけ不安だったとしても、それを叶えてやることはできないのだ。


「今朝……エリナが泣いていた、たぶん」

「そう、ですか」


 実際に涙を流していたのを見たわけではない。アルヴィスが起きた時、エリナはまだ寝ていた。けれども、その顏に泣いた痕が残っていたのだ。それがわかっていても、共に行くという選択はできない。エリナの身には、次代の命が育っている。万が一にもそのようなことがあってはならないが、ある意味ではアルヴィスの身よりも大事な身体なのだ。


「エド」

「はい」


 それまで黙って作業をしていたエドワルドをアルヴィスが呼ぶ。その表情は硬い。恐らく何を言われるか、当人は予想しているのだろう。


「お前はここに残って、エリナの傍にいてほしい」

「……」

「頼めるか?」

「それがアルヴィス様のお望みならば」


 エドワルドは深々と頭を下げる。驚くこともなく受け入れられたのは、予想通りだったからか。心の中では葛藤もあるだろう。だがエドワルドの戦闘技術はアルヴィスより劣る。誰に言われるでもなく、エドワルドが理解していた。それにより同行出来ないだろうということも。


「頼む」

「……お任せください」

「殿下、あとの騎士団の人員はどうされますか?」

「ヘクター団長に任せる。だが、大がかりな人数は不要だ。王都の守りが減るからな。エド、団長のところへ打診をしておいてほしい」

「承知しました」


 執務室からエドワルドが出ていくのを見送ると、見覚えのある人物が入れ替わりに入ってきた。


「王太子殿下、お邪魔いたしますぞ」

「特師医?」

「例の、解毒剤についてお話をしておこうと思いましてな」


 

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