13話
新年あけましておめでとうございます!
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
という事で新年一発目となります。
色々と伏線を張ってきたものを少しずつ回収していく予定です。
引き続き、宜しくお願いします(*- -)(*_ _)ペコリ
腕を掴んだままのジラルドのことはひとまず片隅に追いやるとして、アルヴィスは周囲を見渡した。
「……」
パッと見は外から見た様相と変わらないようだが、よく見ると違和感がある。アルヴィスは己の勘を信じて足を進める。真っ直ぐ前に向かっていると、やがて真っ暗なトンネルのような場所を歩いていた。腕に込められた力に痛みを感じて、アルヴィスは内心で大きく溜息を吐く。
「ジラルド、流石に歩きにくい。少し離れてくれ」
「……わ、わかっている!」
若干隙間が空いた気がするが、それは直ぐになくなってしまう。学園でも演習のような場があったはずで、魔物との戦闘もこなしているはずだ。確かに、得体のしれない空気というのは目に見える魔物以上の恐怖があっても不思議ではない。だとしても元王族としては、堂々としていて欲しいものだ。
「ア、アルヴィス前っ」
「え?」
ジラルドの声にアルヴィスは正面を向く。多少開けた場所となったその中央に、大きな石碑があった。どうやって作ったのだろう。アルヴィスたちの身長を優に超える高さだ。
「石碑、か。文字が彫ってあるが……これは古代語だな」
「アルヴィス、読めるのか?」
「……王族ならば必須な知識だろうが」
「うっ」
王となる者であれば、読めて当たり前の知識だ。といってもリティーヌら王女には不必要とされていること。アルヴィスは個人的にも興味があったので、元々備えていたためそれほど苦労はしていなかったが、そうでなければ学園卒業程度の知識しかもっておらず苦労したはずだ。王太子として過ごしていたジラルドがわからないというのは、己の怠慢と言えるだろう。
アルヴィスは石碑を背にして、腕を組みジラルドを見据えた。
「自覚が足りなすぎる。それでよくそのままでいられると思っていたな」
「古代語は苦手だったんだ。それ以外なら……言語系以外なら僕だってちゃんと」
「お前はエリナに頼り過ぎだ。エリナがいたからこそ、お前は王太子という立場にいられたんだ」
「……そう、だったんだなって、お前の傍にいたことでわかった。僕はエリナに守られていたんだって。出来るなら、エリナにも謝りたい。謝ったところで許してもらえるとは思っていないけれど」
今更そのようなことを言ったところで遅すぎる。それに、既に今のエリナにとってはジラルドが謝ろうが心に留めてもいないだろう。どちらかと言えば、リリアンの方を気遣っているように見える。
「今更わかっても全てが遅い」
「……うん」
もう元には戻せない。アルヴィスが騎士に戻ることもなく、ジラルドが王太子となる未来もないのだから。
そんな話をしていると、背にしていた石碑からふわっとした気配を感じた。再び石碑へと振り向くと、何かに呼ばれたような気がした。じっと石碑を見つめていると、今度ははっきりとアルヴィスの耳へ届く。
『吾子……』
「この声」
「どうかしたのか?」
ジラルドには聞こえないのか、怪訝そうな顔をしながら辺りを見回している。気配は感じているのか、アルヴィスの腕を掴みながらだが。
『私の声は吾子にしか聞こえません……何故、ここへ来たのかと問うのは無意味でしょうね』
「……どこか胸騒ぎがするんだ。俺にはこの国を守る責任がある。だからこそ、この感覚を放置してはおけない」
「アルヴィス?」
「知らなければならない。この感覚が何なのか。だから俺はここに来た。ここなら、王家の墓所ならば何かがわかる。そんな気がしたんだ」
それは決して間違いではなかった。ここでルシオラの声が聞こえたのが何よりの証拠だ。大聖堂ではない場所だが、あの時よりも濃くはっきりとルシオラの声が聞こえる。大聖堂にあるあの像はおそらく依り代でしかないのだろう。こちらに本体がある。アルヴィスはそんな風に感じていた。
『私たちでは滅することが出来なかった、そういうことなのでしょう。そして私以上にそれを感知してしまっているということは、吾子……貴方は私が思っている以上に親和性が高かったようです』
「……」
『ただ、今の私からはこれ以上を告げることは出来ません。吾子よ、石碑へ手を伸ばしなさい。貴方に見せましょう。あの時の、私たちがせねばならなかった選択を』
石碑に手を触れよとルシオラは告げる。アルヴィスはジラルドの手を離し、前へと出た。恐らくはまたいろいろな情報が入り込んでくるのだろう。この場にエドワルドたちがいなかったことを、心から感謝した。
「ジラルド、暫くそのままで待っていてくれ」
「え? ちょっとどういうことだよ⁉」
「俺が回復するまで、何もするなということだ」
「だからどういう意味だって――」
訳がわからないと叫ぶジラルドを放置し、アルヴィスは目を閉じて深呼吸をすると覚悟を決める。ゆっくりと手を伸ばして、石碑へと手が触れた。
刹那、アルヴィスは頭の中をかき回されるような感覚に襲われて、膝を突く。酷い吐き気を感じながら、アルヴィスは口元を抑えた。辛うじて意識を失うことは避けられたものの、頭の感覚は治まりそうにない。蹲ったアルヴィスには、その感覚が治まるまでじっと耐え続けることしか出来なかった。




