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5話

 

 夕食の時間も過ぎた頃にアルヴィスは城に戻った。使用人らが使う出入り口で待っていたのは、ルークとエドワルド。

 エドワルドはその手に持っていたアルヴィスの上着を肩にかける。それは、出る前にレックスに預けていたものだ。


「アルヴィス様……城下は楽しかったですか?」

「あぁ」

「危険な事をした自覚はおありで?」

「……そうだな。否定はしない」

「急用な訳ではないのですから、護衛を付けることは出来たはずです」


 エドワルドの指摘は正しい。突発的な出来事とはいえ、近衛隊ならば対応可能だった。その時間を与えなかったのは、アルヴィス自身だ。


「次からはそうする」

「アルヴィス様っ!」

「ハスワークは大層ご立腹だが、それはともかく……アルヴィス、このような行動は今後は慎むように。……言わなくてもわかるな?」

「アンブラ隊長っ! 何を悠長な……」

「……たまには羽目を外したいこともある。わからんでもない。今回は大目に見る。ただし……次はない」


 ルークは言葉ではそう言っているものの、その視線は鋭い。何もなかったから退いただけで、次に外出するものなら問答無用で護衛を付けてくるのだろう。王族が護衛なしに外出すること自体が、あり得ないことくらいアルヴィスにもわかっている。ルークのは最大限の譲歩だということも。


「……わかりました」

「……レックス、ディンの二人は殿下を部屋までお送りしろ」

「「はっ」」


 ルークの指示でアルヴィスを出迎えてくれた内の二人が、背後に回る。この先は城内で危険などはないが、ちゃんと部屋に戻れというルークからアルヴィスへの命令だ。身分はアルヴィスが上なので、部下を使ったのだろう。

 今回は仕方ないと、アルヴィスも従う。


 何事もなく部屋まで戻ると、アルヴィスは上着を再び脱いでソファに掛けた。


「アルヴィス様……何故、お一人で行かれたのですか?」

「……何となくだ」

「どれだけ心配をしたと思ってるんですか……」

「俺が近衛隊にいたのは知ってるだろ? そう簡単に殺られるつもりはない……だが」

「……どうかしたのですか、アル様」


 エドワルドを制するようにエドワルドの姉であるイースラが、座っているアルヴィスの前に膝をつく。幼なじみである気安さがあるからか、アルヴィスのことをアル様と呼ぶのは彼女だけだ。侍女ではあるが昔から姉のような存在だった。そんなイースラは、アルヴィスを責めることはせず、ただ、何かあったのかと尋ねてきた。

 アルヴィスは、今回の外出のことを思い返す。これまで一人で歩くなど、当たり前のこと。立場は変わっても、アルヴィス自身に変化などない。変わったのは周りだ。歩けば幾つもの視線を受けた。それは興味本位なのか、値踏みするようなものなのか。一挙一動が注目される。当然なのだが、改めてアルヴィスは実感をさせられた。


「こういうことなんだろうな、と思った。俺を見て声をかけてくる知人も居たが、それは少数だ……」


 その視線は知らぬその他大勢以外からも向けられている。王太子となったアルヴィスと懇意にしていることが伝われば、色々なところから話が持ちかけられる可能性がある。例えば、商人などからは伝手を強要されることなどだ。王族御用達などの看板を引っ提げれば、商品にも箔が付く。そのために、話を持ちかけられるのは間違いない。

 事情が分かるだけに、アルヴィスも理解出来ることなので、彼らを責めるつもりはない。ただ、そういうことなのだと改めて納得させられただけだ。


「アル様……お寂しいですか?」

「いや。……変なことを言った。悪い……」

「……確かに次代の王となられるアル様と、城下に住む方々ではご友人関係を続けることは出来ないと思います。ですがアル様、新しい友人などはこの先出会うこともありますよ。先立っては、リトアード公爵令嬢様と、ご関係を深められては如何ですか?」

「……また唐突だな」

「さしあたっては、是非デートの感想をお聞きしたいですね」


 慰めるためか話題を変えてきたイースラに、アルヴィスは苦笑する。心配をかけてしまったのは事実なので、アルヴィスはエリナの話題を提供した。今さら顔を赤くするような年齢でもないし、ネタにされるのは慣れている。と言っても、ただ二人で歩いて買い物をしただけだ。特別なことは特にしていない。


「買い物って、何を?」

「……エリナ嬢が気に入ったネックレスと指輪だ」

「まぁ、アルヴィス様がプレゼントされたのですか?」

「あぁ、個人資産だから問題はないと思うが?」

「「……」」


 侍女らが気にしていることと、アルヴィスが気にしていることに乖離が生じているのだが、アルヴィスは気が付いていなかった。

 今回は、所謂初デートというものだ。初デートにプレゼントを渡すのは、男として当然のこと。それに気付いていないにも関わらず、こなしているところは流石というべきか。それとも、エリナの機転によるものなのか。真相はエリナに聞かないとわからないことだろうと、侍女らは心の中で思っていた。



誤字報告を沢山頂きました。報告してくださった皆様、ありがとうございます。


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