表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/382

6話

 

 王城へ戻ったアルヴィスは、王太子宮には戻らずに執務室へと向かった。背後からは無言の圧力を感じていてはいたが、口に出さないことを良い事に気づかないフリをする。

 執務室に入ったアルヴィスは、ソファーへと座り込む。


「殿下、宮へお戻りになられた方が宜しいのではありませんか? このお時間から何をなさるおつもりなのです」


 黙っていては動かないと踏んだのか、ディンが口を開いた。口調は丁寧だが、その声には怒気が含まれている。表情が変わらないので、いつも以上に怒っているように感じられた。アルヴィスは困ったように笑う。


「殿下っ」

「わかっている。もう何かをするつもりはないから、ディンたちは下がっていい」

「宮までお送りします」


 さっさと帰れと言いたいのだろう。だが、アルヴィスとて意味もなくここへ来たわけではない。


「……ここに居たいんだ。少し、頭を整理したい」

「アルヴィス、お前――」

「今は、ちょっと混乱というか……俺が何を見ていたのか。あれは一体何だったのかとか、そういうのが残ってるというか」


 今のアルヴィスの状態を何と説明すればよいのか。うまく説明できないこと自体が、落ち着いていない証拠だ。この状況では、帰るに帰れない。エドワルドは当然異変に気付くだろうし、エリナも何かしら勘づく可能性がある。


「殿下……」

「だから一人にさせてほしい。落ち着けばちゃんと帰る」


 情報を整理することが出来るのかもわからない。勝手に入り込んできた情報は、その量が多すぎて処理しきれないかもしれない。スッキリまではいかずとも、それに意識を引っ張られることのないように程度にはしておきたい。

 アルヴィスの言葉に顔を見合わせたディンとレックス。軽く言葉を交わすと頷き合った。


「わかりました。我らは下がります」

「済まない。ありがとう」

「あんま無理すんなよ、アルヴィス」

「あぁ」


 そうして、ディンとレックスは執務室を出ていった。

 一人になったアルヴィスは、ソファーへ横になった。腕を頭の後ろに組み、天井を見つめる。


「狼、それにあれはエルフ、か……」


 禍々しいようなモノが近くに視えた。あれは一体何なのだろう。彼らは何をしようとしていたのか。そしてどこか聞き覚えのあるような存在がいた気もする。

 書物に触れただけなのに、まるで経験してきたかのような感覚だ。

 目を閉じてアルヴィスは、その映像を思い出そうと記憶の中を辿る。刹那、目の前に昏い霧が現れアルヴィスを覆った。


『止めてっ! ゼンっ』


 昏い霧の中へと、手を伸ばした先にあったもの。それを視ようとしたところで、胸に刺さるような痛みを感じてアルヴィスは目を開けた。


「な、んだ……」


 ゆっくりと身体を起こし、胸に手を当てる。確かに何かが刺さったように感じたのに、今触れても痛むことはない。腕を組み、アルヴィスは考え込む。

 あの場所にあった書物は、女神に関連するものがほとんど。大司教たちが触れても何の反応も示さなかったことから判断するに、アルヴィスが反応した原因はやはり()()しかない。


「ルシオラの紋章か……もしかすると、あれは彼女がいた時代のものなのか?」


 手の甲にある紋章を手袋を取って眺める。普段から隠しているものの、時折目に入るそれ。ルシオラが生きていた時代、その多くは歴史書として、もしくは創世記の絵物語として伝えられている。アルヴィスも勿論聞いたことがあった。だが、アルヴィスが視た先程のものはそのどれにも当てはまらない。知らされていない事実がある。意図的に伝えようとしていないものが。

 歴史というのがそういうものだとは理解している。当時の為政者が不都合だと判断したならば、都合の良いものに変えられてしまうことだって少なくない。だからこそ、禁書庫というものが作られたのだろう。あそこにある書物は、持ち出すことが出来ないし燃やすことも出来ないようにされている。いつからそうだったのかなど、誰も知らないが。

 そこまで考えてアルヴィスは首を横に振った。


「今は禁書庫のことを気にしている時じゃない」


 まず気になるのはあの昏い霧だ。もしかするとあれは瘴気と同じもの。もしくは、それよりも強い陰の力。ルベリア王国内でも、瘴気が発生することは多々ある。最近では、その報告が増えてきたようだ。各領地で処理はしているものの、このペースであれば例年以上に霊水が必要となるのは間違いない。


「まさかとは思うが……それでも目の前のことを片付けていくしか出来ないか」


 霧が瘴気だと仮定して、最優先に対応していかなければならない。霊水の精製については大司教と相談だ。国王へも話は通すが、反対されることはないだろう。

 まだもやもやとした感覚はあるものの、多少頭が冷えてきた。そろそろ帰らなければ、エドワルド辺りにお説教されるかもしれない。アルヴィスは立ち上がり、執務室を出るべく扉を開けた。すると、目の前には見慣れた近衛隊の姿。アルヴィスの姿を認めると、軽く手を上げてきた。


「よう、お疲れさん」

「……レックス。それにディンも」

「予想よりもお早かったようですね」

「下がるって言ったと思うが」

「誰も戻るなんて言ってないだろ? 夜も更けたし、流石に一人で帰さねぇよ」

「レックス……」


 外で待つと言わなかったのは、アルヴィスが気にすることを踏まえてだったらしい。確かに、待たせている状態だとすれば、そちらを気にせずにはいられない。アルヴィスの性格を理解した上で、そう決めたらしい。二人の対応に、アルヴィスは感謝するしかない。


「二人とも、ありがとう」

「当然のことです。それではお送りします、殿下」

「あぁ」


 ディンの言葉に、今度は素直に頷いた。



エリナが出て来なくて、恋愛かよ……という感じですが、

次はエリナが登場すると思うので、ご勘弁を(^_^;)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ