4話
本日情報解禁されましたのでこちらでもご報告します。
10月25日に、第五巻が発売されます!
いつも応援ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
改めて活動報告で書影等々を含め報告させていただきますので
詳細は後ほど。。。
大聖堂の前で一台の馬車が止まる。扉が開くのを待って、アルヴィスは馬車から降りた。背後からいくつもの視線を感じて、アルヴィスは振り返った。馬車は仰々しいものではないが、王侯貴族が使用するものだ。それが大聖堂前に止まれば、誰が下りて来るのかと興味津々となるのは仕方ない。アルヴィスを見て驚く人々へ、笑みを浮かべた。
「殿下、参りましょう」
「あぁ」
人々へ向けて手を上げてから、アルヴィスは背を向けて大聖堂へ続く道を歩き出す。正面入り口までくると大司教を始め、司教たちが待機していた。
「お待ちしておりました、アルヴィス王太子殿下」
「遅くなってしまいすまなかった」
「いいえ、王太子殿下の多忙さは聞き及んでおりますゆえ」
「感謝する」
簡単な挨拶を済ませると、早速中へと入る。ここへ来るのは、結婚式以来だ。今回、用があるのは女神像ではないし、儀式でもない。アルヴィスは聖堂内ではなく、その回廊を進んだ。大司教に案内されて訪れたのは、書庫。
「ここが大聖堂の一般人でも立ち入り可能な書庫になります」
「……王城より少し小さいくらいだな」
蔵書数自体が違うので比べるのも間違っているだろうが、ざっと見た感じだとそれなりの蔵書が揃っているようにも見える。一般の人々が使うには十分だろう。
「はい。様々な分野のものをそろえております。ただ、王太子殿下がお望みのものがあるのはここではありません」
そう話しながら大司教は、更に奥へと進む。ディンらと顔を見合せながら、アルヴィスはその背中を追った。そこにあったのは、一つの古びた扉だ。大司教が扉を開くと、その中には階段がある。
「ここを下りた先でございます」
階段を下りた先には再び扉があった。大司教が鍵を開き、扉を開ける。先ほど通ってきた書庫とは違い、薄暗く小さな部屋だった。
「全体的に書物が古い、か」
「はい。一般の方々が目に触れないもの、あまり関係がないものなどで歴史的価値が高いものをこちらに」
すぐ近くにある棚へ近づき、書物を一冊手に取る。埃はかぶっておらず、手入れがされているのがわかった。ただ、表紙は色落ちしておりかなりの年数が経っているようだ。他の書物も似たようなものなのだろう。
「破損しないようにと扱ってはおりますが、中には頁が欠けたりしているものもございます」
「年数が経てば、そういう事もあるだろう。仕方ない」
数年ならばともかく、それ以上の年数が経っているのだ。消失していたところで、責められるものではない。残っているというだけでも十分だ。
「殿下、墓所についてのものを探せば宜しいでしょうか?」
「あぁ、頼む」
それほど時間があるわけではないので、ディンたちの手を借りてアルヴィスは望みのものを探す。手に取る書物の中には、絵本のようなものも含まれていた。ただ、文字が古代語になっている。これでは読むことだけでも難しい。
「この辺りは全て絵本か……ん?」
手に取った絵本の一つに、大きな狼と鳥、そして耳が尖った人間。その傍にいる青年と少女が手を取り合って、黒い塊を倒している場面が描かれていた。
「『浄化のために、力を合わせて』か……この耳、エルフか?」
どことなく創世記のように見える絵本。古代語で書かれているのは同じだが、どこか既視感のようなものを覚える。彼らが何をしているのか。あくまで絵本としての物語。架空の話のはずなのに、どこか気になる。
「おーい、アルヴィスって……何だこれ、古代語かよ」
「あぁ。ここにあるのは大抵古代語だった」
「お前読めるのか?」
「当たり前だ。学園の授業にもあっただろう?」
学園卒業生ならば読めても不思議はない。そもそも必須科目の一つだ。だが、レックスは苦笑いをして明後日の方向を向く。
「レックス……」
「まぁいいじゃないか。そうそうお目にかかる機会もないんだ」
「実際に今お目にかかっているだろうが」
笑ってごまかすレックスに、アルヴィスは呆れたように深く息を吐いた。サボっていたか、身に付かなかったかどちらかということだ。黙って調べものをするような姿は想像できないので、レックスらしいといえばその通りなのだが。
「それで、何か見つけたのか?」
声を掛けてきたということは、用があったのだろう。レックスが探していたのは、アルヴィスとは反対側の棚。めぼしいものがあったのだろうか。
「いや、それがよ。悪戯されたような本を見つけたんだが、ちょっと変なんだよな」
「悪戯?」
「子どもの落書きみたいなのが表紙にあってよ、中を見たら真っ白なんだよ」
「……見せてくれ」
レックスが手に持っていた本をアルヴィスは受け取った。表紙には特に何も書いていない。背表紙は、確かに落書きされたようなぐちゃぐちゃな線が書かれている。それが反対側まで繋がっていた。
「悪戯といえばそう見えるが」
「だろ?」
裏も確認し、アルヴィスは書物の中身を開いてみる。一頁目から一枚一枚捲ってみるが、何も書いていない。
「何も書いていないだろ?」
「あ、あぁ……」
「アルヴィス?」
何も書いていないはずなのに、アルヴィスが一枚捲る度に頭の中へと情報が流れて来ていた。特別マナを流してもいない。通常ならあり得ないことだ。そもそも書物は無機物で、マナなど持っていないはず。数年どころか、数百年も経っているようなものが力を蓄えていることなどない。
「くっ……」
「おいっ⁉ アルヴィスっ」
「殿下⁉」
読もうとしているわけではないのに流れて来る。何が何だかわからず、アルヴィスは膝を突いた。情報量が多すぎて、整理することさえできない。頭を押さえて、首を横に振る。
「やめろ……」
「王太子殿下、どうなさいました⁉」
「もういい。やめて、くれ……」
「アルヴィス、手を離せっ‼」
無理矢理にレックスが書物をアルヴィスの手から奪った。そこで流れが止まる。漸く流れが収まり、アルヴィスは顔を上げた。
「たす、かった……」
「お前一体……」
「わるい、つか……れた」
頭が痛い。何が何だがわからないものが頭に残っている。考えなければいけないのは理解しているが、アルヴィスの頭は悲鳴を上げていた。もう限界だと。そのままアルヴィスの意識は暗転してしまった。




