3話
もう9月も終わりです。早いですね~
今月は色々あってあまりお話が進まず、申し訳ありません。
引き続き、楽しんでもらえるよう頑張ります!
「城下の警護および、当日の王城内の配置については問題ないでしょうか?」
ヘクター騎士団長から提出された書類にアルヴィスは目を通す。建国祭の城下の警備は例年通り騎士団が行う。パーティー会場は近衛隊がメインで警護をするが、それ以外の場所は騎士団からも人員を割く予定だ。
「あぁ、問題ない。これで頼む」
「承知いたしました」
コンコン。
するとそこへ執務室の扉が叩かれた。アルヴィスが許可をすると、扉が開かれる。姿を現したのはエドワルドだ。
「失礼いたします」
「大聖堂の件か?」
「はい。予定通りで構わないと」
「わかった」
「そういえば、殿下は本日大聖堂へ行く予定でしたか」
王城の外に出るということで、騎士団長であるヘクターにも報告していた。無論、護衛につくのは近衛なので騎士団が動くことはない。ただの情報共有という意味しか持たないものだ。
「あぁ。たまには顔を出さないといけないしな」
「近い距離ではありますが、お気をつけて行ってきてください」
「ありがとう」
「いえ、では私はこれで」
深々と頭を下げると、ヘクターは執務室を出て行った。ヘクターを見送ったアルヴィスは溜息をつきながら、背もたれへと背中を預ける。窓から見上げた空の色は、もうすぐ茜色へ染まっていくはずだ。
王城から大聖堂まではさほど距離はない。ただ一つだけ不満があった。
「……徒歩で行く方がよほど速いんだが」
そう、馬車で行かなくてはならないという点だ。結婚式の時や、立太子の時のような馬車ではないにしても、そもそも馬車を使う距離ではない。徒歩で行く方が、どれだけ楽なことか。
「建国祭が近づいてくると、王都は人の流れも増えてきます。無防備に動かれるわけにはいきませんでしょう」
「わかっている。言ってみただけだ」
隠れて行ってもいいのだが、それでは大聖堂側も戸惑う。結局は、馬車でセオリー通りに向かうしかない。
「この時間帯は、それほどお祈りに来る方も多いわけではないということですから、我慢なさいませ」
「俺が駄々を捏ねているように言うなよ」
「違いましたか?」
「エド……」
恨めし気な視線を送れば、エドワルドは意地の悪い笑みを浮かべている。完全に揶揄われていた。アルヴィスは舌打ちをして、天井を仰ぐ。何をするでもなく、ただ天井を見上げるだけ。その様子に何かおかしいと思ったのか、エドワルドが傍へと近寄ってくる。
「少し時間をずらしましょうか?」
「……いやいい。直ぐに準備する」
「ですが――」
「大丈夫だ」
目を閉じて深呼吸をすると、アルヴィスは姿勢を戻した。机の上にある書類たちを片付けて、引き出しへとしまう。残りの作業は、大聖堂から戻ってきてからやればいい。
「今日も夕食は一緒に摂れそうにないな」
「妃殿下に何かお伝えしてまいりましょうか?」
「そうだな、頼めるか?」
「お任せください」
エドワルドは大聖堂へ同行しない。とはいえ、細々とした作業をお願いしているので、エドワルド自身も忙しい身だ。アルヴィスと違って外出はしないというだけで。
別の引き出しから紙を取り出すと、アルヴィスはペンを取った。夕食を摂れないこと、アルヴィスを待たずに先に寝ていること。謝罪の言葉と共に書き終えると、封をしてエドワルドへと渡す。
「エリナに渡してくれ。これは手で開けてくれて大丈夫だ」
「そのようにお伝えします」
「レックスは外にいるか?」
「いえまだ――」
エドワルドの言葉を遮るように、再び扉が叩かれた。あまりのタイミングの良さに、アルヴィスは肩を竦める。
「エド、出てくれ」
「かしこまりました」
エドワルドを向かわせ、アルヴィスも立ち上がった。ソファーへと掛けてあった上着を羽織っていると、扉から予想通りの顔が姿を見せた。
「アルヴィス、こっちの用意は出来たぜ」
「今行く。エド、留守は頼んだ」
「はい、お気をつけていってらっしゃいませ」
エドワルドに見送られる形で執務室を出る。外にはディンも待機していた。そこのことにアルヴィスは驚く。アルヴィスの記憶が確かならば、今日は休暇だったはずだ。
「何故ディンがいる?」
「……王城の外に出るならば、私が同行すべきでしょう」
「大聖堂に行くだけだ。別に他の騎士でも――」
「アルヴィス、アルヴィス」
アルヴィスの言葉はレックスの声によって遮られた。耳を貸せというので、身体を近づける。
「ディンさん、奥さんに言われたらしいんだ」
「何を?」
「筆頭ならば、外出時は常に傍にいるのが当たり前だ、って」
「おいおい……」
ディンの奥方のことはあまり知らない。確か子爵家の次女だったはず。結婚してから長いと聞いているので、付き合いは長いのだろうが。
「ほら、お前は何度も怪我しているだろ?」
「それは俺の自業自得だ。無関係ではないにしろ、表立ってお咎めがあったわけじゃないんだから」
「俺に言うなよ。ルーク隊長から聞いただけで、それ以上は俺だって知らないんだ」
こそこそと話をしていると、前を歩いていたディンの足が止まる。反射的にアルヴィスもレックスも足を止めた。
「シーリング」
「は、はいっ」
「人目がある場所では言葉遣いに気をつけろ」
「……はい」
「殿下も、あまりシーリングを甘やかさないでください」
「あ、あぁ」
内容には一切触れず、ディンは再び歩き始めた。
「……まぁいい。行くぞ」
「はいはいっと」
気安く返事をしたレックスに、ディンがもう一度足を止めて視線を向ける。
「シーリング」
「承知しました!!」
いつになく厳しい様子のディンに、レックスは肩を落とした。そんなレックスの背中をアルヴィスがポンと押す。
「なんで俺ばっかり……」
「俺に告げ口したからだろうな」
「隊長から聞いたのになんで俺だけ⁉」
「知るか」
「不条理だ!」と叫ぶレックスを余所に、アルヴィスは苦笑しながら不機嫌なディンの後へとついていくのだった。




