2話
本日は短いです。
実は例の流行り病にかかりまして、あまり余裕がなく……
あとで見直すかもしれません。ご了承ください。
翌日朝早く目が覚めたアルヴィスは、恒例となっている朝の鍛錬を終えた後で書庫へと来ていた。書庫の奥まった場所にある禁書室。そこの一つの棚の前で足を止めると、一つの厚い書物を手に取る。
「豊穣の女神、か」
パラパラと頁を捲っていくと、一つの絵姿が目に留まった。それはアルヴィスが目にしたことのある姿と同じもの。逆にここまで正確な姿が残っていることに疑念を感じる。
「意図的か、もしくは俺以外の契約者が残したものだろうな」
ルベリア王家は過去に契約者を出していた。その子孫であるアルヴィスが再び契約者となったことは、全て血筋の所為だと言われている。しかし何の意味もないはずもない。ここ最近、アルヴィスは言い様のない焦燥感を抱いていた。具体的に何が、ということは説明できない。ただ何となく、胸が掻き立てられるような感じがする。
「くっ」
アルヴィスは己の胸を強く掴む。その拍子に本を落としてしまったが、それを気に掛ける余裕がアルヴィスにはなかった。
こうしていても治まらないのは、ここ数日で経験済みだ。どうにもならないことがわかっていても、どうすることも出来ない。ただ、このような姿をエリナに見せることも出来ない。ここにアルヴィス以外の人間がいないことだけが、今のアルヴィスにとっての救いだ。特にエリナには、このような姿など見せられない。
「一体、何だっていうんだ……」
そこへコンコンと扉を叩く音が届いた。
「アルヴィス様、そろそろお戻りになりませんと」
「あ、あぁ」
それは迎えに来たエドワルドだった。この部屋は王族以外立ち入ることが出来ない。書庫の前で別れたのだが、朝食の時間が近づいてきたので呼びに来たのだろう。
エドワルドは聡い。下手な芝居を打ったところで、気づかれてしまう。アルヴィスにも説明できないことなので、指摘されたところで答えようがないのだが。
「ふぅ……」
何度も深呼吸をして心を落ち着かせる。そして足下に落ちた本を拾い上げると棚へと戻した。持ち出しが出来ないものなので、時間が空いた時にまたここへ来るしかない。
「アルヴィス様?」
「今行く」
エドワルドと共に王太子宮へ戻ったアルヴィスは、エリナと共に朝食を摂った。その後サロンに向かい、二人で食後のティータイムを楽しんでいた時、アルヴィスは視線を感じてカップを持っていた手を止めた。見れば、エリナがジッとアルヴィスを見つめている。内心ではドキリとしているものの、それを出さないようにしながらアルヴィスは微笑んだ。
「どうかしたのか?」
「アルヴィス様、何か心配ごとでもあるのですか?」
「いや、そんなことはないが」
「……そうですか」
やはりというかエリナは鋭い。一緒にいる時間が多ければ多いほど、アルヴィスが抱える何かに気が付いてしまうだろう。それを嬉しいとは思うが、今のエリナには自分のことだけを考えて欲しい。アルヴィスはエリナの頭にポンと手を乗せた。
「ありがとう、エリナ」
「アルヴィス様」
「そろそろ出て来る。遅くなると思うから、待たなくていいからな」
「わかりました」
ほんの少し寂しさを見せるエリナに、アルヴィスは顔を近づける。そして額に触れるだけの口づけを贈った。
「行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ。あまり無理をなさらないでくださいね」
「気を付けるよ」
こうして宮を出るのが最近のアルヴィスの日常となっていた。