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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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202/381

15話

少し短めです。

次回から生誕祭本番ですw

 

 王太子の生誕祭のパーティーが開始された。昨年と同様に、アルヴィスは国王と最後の入場となる。違うことは、隣にエリナがいることだ。国王と王妃は、隣の部屋に移動している。


「はぁ」

「アルヴィス様?」


 アルヴィスが溜息をつくと、エリナが心配そうな表情で覗き込んできた。ポンと、エリナの頭に手を乗せてアルヴィスは苦笑する。


「ちょっと複雑な気分というか」

「複雑ですか?」


 これも仕事のうち。そうは思っていても、つまるところはアルヴィスの誕生日祝いだ。今日で、アルヴィスは22歳となる。祝いの言葉を嬉しいと思っても、こうして国を挙げて祝う必要はないのだと思う自分がいるのも事実だった。


「子どもならともかくとして、この年齢になってまでパーティーというのが慣れないんだ」

「そうでしょうか?」


 アルヴィスの言葉に、エリナは首を傾げる。エリナにとって誕生日祝いの為のパーティーは当たり前のような感覚なのだろう。聞けば、公爵邸では毎年必ずパーティーを開いて祝いをしていたらしい。前回は結婚式と同日だったこともあって、どちらかというと式の方へ力が入ってしまったので誕生日パーティーをすることは叶わなかったが。


「そうか」

「アルヴィス様はご実家ではされなかったのですか?」

「今の時期は、何かと忙しい時期でもあったしな。学園を休んでまで実家に帰ることはしない」

「ですが――」


 学園に入学した年に、王都にある公爵邸で行うという手紙をもらったような気はする。しかし、アルヴィスは学園に入学して以来、誕生日にパーティーを開いた記憶はない。恐らくは、戻らないだの忙しいだのと言って断ったのだろう。

 その頃のことをアルヴィスは少しだけ思い出す。


「シュリの件以来、俺は誰にも迷惑を掛けずにただ役割を果たすことだけを考えて生きてきた。でも、そんな俺の傍にはミリーたちがいてくれたんだ」

「ミリアリア様たち、ですか?」

「こんな俺の事を兄と慕ってくれる。それがただ嬉しかったのを覚えているよ」


 アルヴィスが兄や両親と今のような関係を築くことが出来るようになったのは、間違いなくミリアリアとヴァレリアのお蔭だ。そうでなければ、今も両親から向けられる感情に反発していたことだろう。


「だから学園を出たら家と距離を取るつもりだった。俺を大切だと思ってくれる家族を、俺は一度裏切っているから」

「アルヴィス様……」

「それにあの時期は色々と拗らせていたから……覚えてないが、冷たく断ったんじゃないかと思う」


 そして恐らくは両親たちも、アルヴィスの気持ちを優先させ強行することもなかった。アルヴィスが落ち着くのを待っていたのかもしれない。手紙とプレゼントは毎年のように貰っていた。それだけで十分だった。


「お義父様もお義母様も、アルヴィス様のことをとても大切にしていらっしゃること、私も伝わってきます」

「……あぁ、わかっている」


 ただし、幼い頃は一度も感じたことはない。ナリスやレオナからの話によると、アルヴィスが知らないだけで夜中には傍で寝ていることもあったらしいし、アルヴィスのハンカチなどの刺繍は全てオクヴィアスが自ら手縫いしたものらしい。それでも当人に伝わらなければ意味がないだろうが。

 マグリアも何だかんだとぬいぐるみやら本やらをアルヴィスに渡していた。会話らしい会話をしたわけではないが、あれもきっとマグリアなりの弟への愛情だった。今ならばそう理解できる。

 そのことを話すと、エリナはクスクスと笑い声を漏らした。


「どうした?」

「ラナリス様からお聞きしたんですけど、マグリアお義兄様はアルヴィス様が可愛らしかったので、本当にお小さい頃はお顔を合わすのが恥ずかしかったそうですよ」

「…………はぁ゛⁉」


 衝撃過ぎる告白に、アルヴィスは驚きを通り越して怒りを覚えた。なんだそれは、と。


「小さい頃、アルヴィス様はラナリス様と本当によく似ておられたとお聞きしました」

「それは……よく言われるが、馬鹿か兄上は」


 よりにもよって、会話が少なかった理由がそんなことだったとは。アルヴィスからすれば、嫌われぬように邪魔をしないようにと必死だったのに。


「絵姿を見せていただきましたが、本当に可愛らしかったです」

「見たのか……?」

「はい!」


 そんな風に嬉しそうに頷かれては、何も言い返せない。アルヴィスは肩を落とした。

 こんな風に昔の家族のことを話したのは、エリナが初めてだ。あまり良い思い出ではないはずだが、不思議と暗い気分にはならなかった。そんな自分の変化を、アルヴィスは好ましいと感じる。


「すみません、アルヴィス様」

「嬉しそうに謝られてもな」


 エリナにつられるようにしてアルヴィスも笑った。

 そんな風に話をしていると、小さく鐘が鳴る。そろそろ、入場する時間らしい。もう一度深く息を吐いてから、アルヴィスは姿勢を正す。エリナもそれに倣った。


「国王陛下、並びに王太子殿下、ご入場です」


 ゆっくりと扉が開く。それを見て、アルヴィスは隣にいるエリナに手を差し出した。重ねられる手を己の腕に移動させる。


「ではいこうか、エリナ」

「はい、アルヴィス様」


 そうしてゆっくりとアルヴィスは会場へと入っていった。


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